2.プロローグ 中編
「勇者のサポート?」
「そう、この世界には、人間の世界を支配しようと目論む魔王がいます。そして、その魔王を倒すための存在である勇者も存在します。ですが、魔王の力はあまりにも強大なので、私たちが勇者を助けてあげる必要があるというわけですよ。」
勇者のサポートってあれか?勇者のパーティーに入って一緒に戦って、魔王とか倒すのを手伝うってこと?それなら楽しそうだし、この女神様からチートの一つや二つ貰えれば簡単そうだな。
そう気楽に考えた俺は、ワクワクしながら答えた。
「それで、どんな勇者のパーティーに入れられるんですか?」
アークの質問に、女神デューケは首をかしげて、不思議そうにしていたが、少し考えて、彼の勘違いを理解したようだ。
「何か勘違いをしていませんか?あなたがパーティーに入るのではなく、勇者のパーティーを影からサポートするんです。理解力の不足しているアーク君に詳しく分かりやすく説明してあげますよ。
あなたは、RPGをしたことがありますか。あるという前提で話をしますけど、その中で、こんなこと実際には起こらないだろうとか、しちゃダメだろとか思うようなことはありませんでしたか?実はあれ、私の世界では私の天使達がやっているんですよ。現実では不可能なことや、犯罪すれすれのことも、全て私の天使達の努力で可能にしています。それをあなたにも手伝ってもらおうという訳ですよ。何か疑問はありますか?アーク君?」
女神デューケの、自称分かりやすいかつ長い説明で理解した。今から俺がさせられること、そして、この女神は人使い、いや天使使いが荒いということだ。
いやそもそも、始めからデューケが元の世界の肉体に俺を戻してくれれば済む話ではないのか? デューケの、人を小馬鹿にした言い方がちょっと気に障ったが、それをこらえつつ、質問を投げかけた。
「ふと思ったんですけど、今俺を元の世界の身体に戻すことは出来ないんですか?女神様?」
「出来ないというわけではないんですよ。でも、私の管轄外の他の世界に干渉することは、あなたが思っている以上に大変なことなんですよ。するにしても、それなりの準備が要ります。だからその間、あなたにこの世界の仕事を手伝ってもらうというわけですよ。実に合理的じゃないですか?まあそもそも、私自身、何もしない人に対して何かをしてあげるほど甘くはないし、したいとも思わないんですがね。」
この女神の言っていることは確かに筋は通っている。一応ギブアンドテイクの関係は成り立っているし、俺も何もせずに相手に要求をする奴は好きではない。
ていうか、次第に口が悪くなっているのは気のせいか?最初見たときは慈悲深そうな感じだったのに、今では性格の悪さが際立って残念な印象に刷り変わってしまった。
それでいて、見た目はこんなに美しくてスタイル抜群とか反則なんだよなあ。そういう層には、恐ろしく受けるんだろうけど、俺にはちょっと合いそうにない。
でも、見た目のせいというか、お陰というか、今にもさっきの言葉も実は言ってなかったんじゃないかと思えてくるから恐ろしい。
ってこんなこと考えてる場合じゃねえよ!とりあえず今の状況を整理しよう。ムカつくが今は、コイツの言うとおりにするのが正解だろう。性格は良くは無いが、それでも女神なんだから、約束ぐらいは守るだろう。それにまだ、仕事が大変で地獄だと決まった訳じゃねえ。後のことを今考えても仕方ないし、ここは腹を括るか。
「分かった。俺は、天使になって勇者のために働くよ。でも、俺は天使でもないし、具体的には何をしていいかも分からないし、どうしたらいいんだ?」
「おやおや。急に敬語じゃなくなりましたね。先ほどまでは、おバカさんなりにも、一応の礼儀はあって可愛らしかったのですが、実に残念です。」
こんな美人に、かわいいと言われるとは思わず、顔が赤くなってしまった。でも、さっきまでと違いコイツはハッキリと俺をバカと言った。やっぱり腹黒女神だったか。もうコイツの呼び方は腹黒女神で確定だ。
思考とは明らかに異なる反応をする身体をなんとか沈めた。
もうこの腹黒女神に振り回されてはダメだ!そう決意を固めたアークは、女神デューケにさっきの問いの答えを求めた。
「質問に答えてないぞ!バカにせずちゃんと答えろよ!」
「依然として、敬語は使いませんか。でも、よく見るとその怒った顔も可愛いですね。まあ、小馬鹿にするのもこの辺にして答えてあげますよ。仕事内容については、このあとあなたを天使達のところに送ります。もうすでに彼らは活動をしているので、実際に教わりながら学んでいってください。そして、天使じゃないということについては……。今からちょっと準備をするので待っていて下さい。」
もうからかわれたことは無視して、内容を整理してみる。
うーん。事前に教わってから実践とかじゃないみたいだな。まあ、それは薄々分かっていたし、ケースバイケースというやつでどうにかしていくしかないだろう。
それより、準備をするってどういうことだ。もしかして、本当に俺を天使にするつもりか?でも、するにしても具体的にどうするんだろう。
そんな風に考えていると、準備のためにどこかに行っていた腹黒女神が戻って来た。そして、俺は度肝を抜いた。
見た目は、さっきの腹黒女神で間違いない。しかし、明らかに雰囲気が違う。オーラを纏っているというか、パワーらしきものがピリピリと伝わってくる。そして、顔もさっきまでと違い真剣そのものだ。
腹黒女神が一歩一歩俺に近づいてくる。いや、腹黒女神ではなく、今は女神デューケと呼ぼう。そのくらい今の目の前の女性は別人であり、女神と呼ぶにふさわしかった。
女神デューケは俺の背後に立った。そして、何やら呪文らしき言葉をブツブツと唱え始めた。どんどん圧が強くなっていくのを感じる。恐らく、これが魔力というものだということは身に染みて伝わってきた。
そして、魔力と思われるものがピークに達したとき、女神デューケはその身体に似つかわしくないほどの大きな叫び声を挙げた。
その瞬間、俺は雷に撃たれたような衝撃を受ける。しかし、それと同時に、身体全体に力が巡ってくるのを感じた。