かつらとお経と猫
授業で「猫、葬式」のテーマで作品をつくる課題が出ましたが、間に合わず泣く泣く没にした短編。せっかく書いたので投稿してみました。
暑い夏の日。遠い親戚の葬式に出席することになった。式場ではエアコンディショナー、略してエアコンが効いていて、いくらか涼しかった。
葬式ではあったが、雰囲気は明るく、あちらこちらで○○さんが今どうしているやら、昔はどうだったやらなどの話し声が聞こえた。故人は大往生だったようで、葬式はさながら同窓会のようなものになっていた。同窓会といえば、ついこの前参加したばかりであった。あのときはわざわざ場所を用意したが、年を取れば自分達も葬式の場が同窓会になってしまうのだろうか。
そんなことをしみじみ考えていると、棺から何かふさふさしたものがはみ出ていた。そのふさふさしたものは、黒く、先がフックのようなもので止めてあり、そのフックには、つり糸のようなものが括り付けられていた。つり糸の先は棺の中に収められているようだった。
気になってじっと観察をする。なんと、ふさふさした黒いものはかつらであった。
…何なんだ、あれは。
かつらをみていると、何人かと目が合った。彼らも、自分と同じようにかつらが気になって仕方がないのだろう。
棺桶からはみ出したかつらはゆらゆら、ゆらゆらと風に揺れていた。ちょうどお坊さんがあげているお経のリズムと同じくらいのペースで左右に動いている。
動くかつらとお経。しばらく異様な光景が広がっていた。
それから数分後。たん、と音がして振り返ってみると、部屋の隅で猫がじっとこちらを見ていた。かつらが左右に揺れる。猫も顔を左右に揺れる。お経の声もなぜか大きく聞こえる。かつらの揺れがだんだん大きくなる。猫もじりじりと近づいていく。
いよいよ、猫がかつら目掛けて飛びかかった。猫は幾度もかつらに容赦のない猫パンチを繰り出す。何度も猫パンチを受け、かつらがボロボロになっていく。ついに、釣り糸がきれ、黒いかつらは宙へ舞う。そしてかつらはフリスビーのように綺麗な弧を描きながら、お坊さんの頭の上へ落ちた。
なんとも言えないような空気が続く。お坊さんは、全く動じた気配も見せず、変わらずお経を唱えていた。
肝心の猫はというと、棺のそばで丸くなりながら、気持ちよさそうに眠っていた。
シュールコメディを目指して書きましたが、上手く出来たかどうかは分かりません。