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エピローグ

 乃愛の墓の前でハピネスこと「西園寺(さいおんじ) 玲子(れいこ)」さんと再会してから一週間が経過した。


 そして大晦日の昼。俺の目の前にはアツアツの鉄板の上に置かれたステーキがちりちりと音を立てている。肉の焼ける香ばしい匂いが鼻の奥をくすぐり食欲を掻き立てた。

 肉を焼く前にシェフ自ら生肉を見せにきて、それはもう見事なサシの入ったサーロインだった。口にいれる前から美味いのがわかりきっているほど。

 同じものがテーブルに三つ並んでいる。一つは俺の分。向かいにあるのは玲子さんのステーキ。そして隣にあるのが……凛愛の分だった。

 ちらっと視線を凛愛に移すと、彼女は申し訳なさそうに玲子さんに頭を下げた。


「すみません。私の分まで。ほとんど部外者なのに……」


「いいのよ。みんなで食べたほうが美味しいに決まっているし。それにあのプリムさんがあなたの精神を宿していたのなら、もうほとんど同一人物でしょ?」


「ありがとうございます」


「さぁ。冷めないうちにいただきましょう」


「んじゃリーダー手当! いただきます!」


 玲子さんはあの約束を忘れてはいなかった。

 プロセルピナの世界で、レイドボス戦の時に俺にご馳走すると言ってくれた「リーダー手当」だ。満を持して登場したステーキを俺はほおばる。口の中でとろけるような柔らかさと旨味が脳内を駆け巡っていった。

 おおよそ経験したことのない味に夢中で口へ入れていく。そんな光景を眺めながら玲子さんは微笑んだ。


「食べ終わって一休みしたら店を変えましょう。ちょっと結翔君にも知らせておきたいことがあるから」


 

 陽光が大地を照らす中、それとは真逆の肌を刺すような寒さが体を身震いさせる。

 その日、俺は再会した時と同じ黒いコートを羽織り、隣を歩く凛愛も白いコートを着ていた。前を歩く玲子さんはブラウンのファー付きのコートを着て肩からバッグを下げている。綺麗な茶色い長髪が目の前で揺れていた。


 そんな彼女に連れられて入った所は落ち着いた雰囲気の店だった。椅子に座ると俺はコーヒー、凛愛はレモンティーを。そして玲子さんはドイツビールと簡単なおつまみを頼んでいた。

 昼からビールをたしなむ彼女に俺は驚いたが、玲子さんは「いつものことよ」と笑っていた。


 ビールグラスを半分くらい飲んだところで、玲子さんは少し真剣な眼差しを俺に向ける。

 彼女が何を言わんとしているのかだいたい察しはついていた。再会してから一週間後に突然の「会えないかな?」というメール。リーダー手当の支払いが済んだ後の「話がある」という言葉。

 玲子さんがこれから語ろうとすることはおそらく……他のメンバーに関することだ。


「その表情だともうわかってると思うけど、あなたと再会してから一週間、探偵を雇ってね。プロセルピナにいた他のメンバーがどうなったのか調べてもらってたの」


「やっぱりそうだったんですか」


「あなたからリアルの氏名は聞いていたから思ったよりスムーズに事は運んだわ。それじゃ結論から言うわね。覚悟して聞いて(・・・・・・・)


 俺は息を呑んだ。現実世界へ戻ってから一日とて忘れたことはなかった。他のメンバーがどうなったのか。俺がもっとも知りたかったことだった。


「生きているのはここにいる人だけよ(・・・・・・・・・)。残りは全員、死んだわ」


 驚くことはなかった。何となくそんな気がしていた。

 何故ならあの康寧亭での全員が映った写真。俺とプリム、ハピネスを除いて他のメンバーは、時間と共にその姿は消滅していた。まるで幻だったかのように。


「死因は不明。眠ったようにそのまま息を引き取っていたそうよ。まるで魂を抜かれたかのようにね。でも何で私は生き残ったのか。実はよくわからないわ。ただ現実世界に戻った瞬間、私は声を出して泣いた。綾香ごめんって。そして帰してくれてありがとうって」


「……如月綾香さんへの悔恨の情があったからですか?」と凛愛が言った。


「そうかもしれないわね。最後に彼女は……私を許したのかもしれないわ。もしくは彼女自身、内心わかっていたのよ。私も彼女も例の件に関してはどっちも被害者なんだってね」


「……」


「ちょっと歯車がかみ合わなかった。それだけなのかもしれないわ。ただ一つだけ。結翔君。あなたに言いたいことがあるの」


 玲子さんの瞳が俺と交差する。彼女の真剣身を帯びたそれを俺は受け止めた。


「プロセルピナでの件はあなたに罪なんてない。他のメンバーは結局死んでしまった。だけどあなたはその真実を受け止めてそれでも前へ進みなさい。一番してはいけないことは他のメンバーの死を自分の責任だと責めることよ」


「……それ。あの世界でプリムにも言われましたよ。前へ進めって。たとえ自分が犠牲になってもって」


 俺の裾をぎゅっと掴む感触を覚える。横にいる凛愛だろう。

 彼女なりに俺のことを心配してくれているようだ。あんな死が充満した世界にいたのだからそれは当然といえる。だが俺の心は何故か平穏だった。静かな海のように波立つことすらない。

 すべては……プリムの言葉のおかげだと思っている。


「俺はあの世界でのことから逃げるつもりはありません。忘れることもない。だけど前に進みます。プリムに救ってもらった命を無駄になんて絶対できない。それに俺はもう……一人じゃないから」


 そっと隣に座る凛愛の手を優しく握る。彼女はそんな俺の手を握り返した。


「……心配無用だったようね」


 玲子さんはそう微笑む。俺はそれに同じく笑顔で返した。





 澄み切ったどこまでも続くような蒼穹が広がっていた。

 俺と凛愛は手を繋ぎ、公園の中を歩いていた。周りに人気はなくまるで二人だけの世界に感じられた。あのプリムと二人で過ごしたエルドラードのように。

 ずっと無言で寄り添うように歩く凛愛を一瞥し、俺の脳裏にプリムの言葉が蘇る。そういえば彼女に言われていた。待っていると。

 

「なぁ凛愛。俺、お前のことが好きだわ」


 その言葉にピタリと突然、彼女の動きが止まる。そんな凛愛につられて俺も足を止め、彼女へ視線を移した。

 俺の目に映った凛愛は驚いた様子もなくじっと瞳の奥を見つめている。ただ一筋の涙が頬を伝っていた。小柄な彼女はゆっくりと俺の胸の中へ黒髪を沈める。


「……うん」


 ゆっくりと俺は凛愛を抱きしめた。


 プリムは俺にとって心の天使となった。

 だけど今の俺には、共に歩み守る黒髪の天使がすぐ目の前にいた。

 レヴィモルテを最後までお読みいただきありがとうございました。

 あとがきでは本編で語れなかった話などを随時交えながら、本作について語っていきたいと思います。少し長いですがどうかお付き合いください。


 ・プリムの最後のメッセージの内容。


 メッセージが出た時は内容を公開するとネタバレになるゆえ書けなかったものですが、内容は以下になります。

 

 1、死神の召喚システムの穴

 死神の召喚は「パーティメンバーが一人死んだ時に召喚可能」です。この召喚タイミングはパーティ表示のメンバーの状態が「DEATH」になった時点で発動します。つまり本体が消滅していなくても耐久値が無くなった時点で召喚できます。それをアレフやシャルルの一件でプリムは理解していたと思われます。

 ただし「この世界における死」が「現実世界の死」と繋がるかどうかは別問題です。28話の「第二回 夜の奇妙なお茶会」にて論議になった「デッドラインはどこか」のシーンで、プリムがそれを気にしていたのはこれが理由です。仮に「体が消滅した時点でリアルの死」と考えるのなら消滅する前にブラッディノアの力で勝利をおさめることができるのならば、現実世界で生存できる可能性があることになります。

 プリムはそう考えていたのでしょう。


 2、クエストの制限時間

 如月乃愛のデータ干渉によりプリムの持つスマートフォンのみ正確な時間を刻み、シーリスの制限時間を改変しています。その理由は、真面目に告知をするシーリスの習性を利用して如月綾香をだましあぶりだす為。そして前述した召喚システムの穴をつき、「プリムの体が消滅する前に再生のアルカナで倒す」のが狙いです。

 

 これらの計画を完全ではないにせよ、如月乃愛と再会した際に二人きりで話をしていました。その自称「女子会」にてプリムは自らが凛愛ではないことを乃愛に告げています。そして自らが凛愛を演じていることも。

 また再生の女神の話もその時にしていました。プリムも言わば「人ではない超次元の存在」といえます。自ら魔法道具もなしに魔法を行使できるのがその証です。彼女はその超感覚により「強大な何か」を感じ取っていたのかもしれません。

 

 彼女は自分が「凛愛として死」に「凛愛として言葉を残す」ことでレヴィを奮い立たせています。ただこれはレヴィにとって相当辛いことであり、それを承知していたであろうプリムはそれでもレヴィが立ち上がると信じていたのでしょう。

 プリムではなく「凛愛」が「一緒に帰りましょう」という言葉を告げることで彼は立ち上がるのです。

 ただ自分が死ぬところは極力見せたくないという思いがあり、それゆえレヴィをぎりぎりまで眠らせていました(44話参照)。あれは睡眠<スリープ>という魔法による効果です。その時はレヴィは慌てふためていて「自分が寝ていた」理由には考えが至っていませんでしたがからくりはこれです。乃愛に協力してもらうことにより「自分が死んだ直後にレヴィが到着する」ように仕組んでいました。


 やはりヒロインは最後まで主人公を支えてこそヒロインだと思います。主人公のためならばボディブローの一発や二発くらいは平気で打ち込みます。

 その点ではプリムは、自らの思いを曲げてまでレヴィに尽くした、まさに彼にとっての天使だったと言えるのではないでしょうか。


 レヴィの話をさせてもらうと実は片翼に理由などありませんでした。凛愛に対して少し中途半端で正直な思いをぶつけられなかった彼には中途半端な翼が似合うだろうという考えでした。

 そんな彼も彼女がいなくなってはじめてその大切さに気が付き、自分の心に正直になれたといえます。失ってはじめてわかるものもあるんですね。


 レヴィモルテは「主人公が感知できない出来事や思惑を進める」ため一人称を選択しました。いまだ未熟ゆえ物語の展開に難がある可能性もありますが、その点はご了承ください。

 本作ではプロセルピナから脱出するというメインシナリオの他に、異世界で凛愛を思うレヴィと内向的な凛愛の思いを告げようと頑張るプリムの姿から、自分の気持ちに正直になれない男心と、自分からは言えずひたすら待ち続ける内気な女の子のほんのり恋愛模様を感じ取って頂ければ幸いです。

 また憎悪により狂ってしまった如月綾香とそれを救おうとする如月乃愛の親子愛も感じて頂ければなと思います。


 最後にタイトルの意味を。

 レヴィとはヘブライ語で「結びついた」を意味し、モルテはイタリア語で「死」を意味します。死と結びついた主人公レヴィを意味するタイトルですが、それと同時にその死と結びついた「希望」を探し続けたプリムと彼女の思いを実行に移したレヴィの二人の物語を現すタイトルでもあります。



 それでは皆様。

 また別な作品でお会いできる日を心待ちにしております。

                          

                                    魚竜の人

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