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お墓作り

 木々が生い茂り、そこから生えている枝や葉っぱが太陽の光を遮っている、薄暗い車のわだちの道を通り、僕は秘密基地跡地へとやってきた。

 この道はおそらく、地元の人も滅多に使う事は無いのだろう、秘密基地の残骸は、あの日僕がやってきた状態のまま、散乱している。

 そしてチャキマルのお墓として立てた太い木も、あの日あの時のまま。地面に突き刺さったままだった。

 僕は何故かそんな事が嬉しくなり、思わずその木へと抱きつく。そして自然と「ただいま」という言葉が、口から飛び出してきた。

 こうしていると、落ち着く。心が静まっていき、割れた心がほんの少し、治っていくように感じる。

 チャキマルは死んで、蹴られて、毛皮が剥げていたというのに。そしてそれを目撃したのが、つい先日の事だと言うのに。不思議だ。

「チャキマル。僕、来れて嬉しい」

 僕はチャキマルのお墓である木を撫でながら、チャキマルに話しかける。

 返事は当然、無い。相手はただの、木だから。

 そんな事は分かっている。だけど、話しかけたかった。

「今からここ片付けて、立派なチャキマルのお墓を作るからね」

 僕は木から体を離し、木をポンポンと叩いて、持ってきていたトートバッグの中から軍手を取り出した。

 ここは森林。木漏れ日の中。季節は十月。気温はそこそこ。夏のようにジメっとした空気は無く、風が吹けば涼しい。

 僕はとても機嫌良く、ダンボールを集める作業に取り掛かった。


 トートバッグから新しい、小さめのブルーシートを取り出し、チャキマルのお墓の前に敷く。トートバッグから水筒を取り出して、コップ兼、蓋に麦茶を注ぎ、一口飲む。少し疲れて火照った体に冷たい麦茶が流れ込み、渇いた喉を潤してくれる。

 おでこから顔へと流れてくる汗を自分の腕でぐいっと拭う。まだ片付けを終えただけだというのに、結構な汗をかいているらしい。

「ふぃー。疲れたね、チャキマル」

 僕はチャキマルのお墓に話しかけた。当然返事は無い。分かっている。

 低学年の時に学校から購入し、結局あまり使わなかった紙ヤスリと小刀と彫刻刀を取り出した。そしてブルーシートの上で立膝になり、小刀で木の表面を削る。

「格好いいの作りたいけど、僕って工作はちょっと苦手なんだよね」

 僕は苦笑いを浮かべながら、独り言を呟く。

 僕は今、父親とも母親とも、口を聞いていない。学校の先生もそうだし、心療内科の先生にだって、何も話せていない。

 何故なら僕は、彼らが嫌いだから。話せない。

 だけどチャキマルは好きだ。大好きだ。だから、話せる。

 独り言だけど、言葉が出る。出てくれる。

「声、出るとは思ってなかったから、チャキマルに手紙をね、書いてきたよ。あとで朗読するね」

 僕は嬉々とした声を発し、汗を垂らし、涙も垂らしながら、一生懸命、チャキマルのお墓を作った。


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