誤解
side:彼女
「俺、もうどうしたらいいかわからなくて……」
「大丈夫よ、あんたにはあたしがついてるんだから。何も心配しなくても……」
ドアの向こう側から聞こえてくる会話に、あたしはコクリと息を呑んだ。
この部屋の住人はあたしの彼氏で。
あたしは今、会社をクビになったと落ち込んだメールを送ってきた奴のこところに来たわけで。
(それじゃぁ、もうひとりの女の声は誰?)
―――答えは考えるまでもなかった。
女友達なのか彼女なのかわからない曖昧な関係が続いて、もう5年。
奴は、ちゃっかり本命の彼女を手に入れていたのだろう。
(何、それじゃ、あたしってば勝手に彼女だと思って、はりきってた女ってこと?)
自分で自分が情けなくて、そのまま部屋の前から立ち去ると、あたしは携帯電話片手に近くのバス停までの道を急ぐ。
『彼女に慰めてもらえるのに、女友達なんか呼ぶなバカ』
そう送信すると、あたしはゆっくりと携帯を折りたたむ。
バスが来るまで、あの数分。
それまでに、失恋の痛みが消えてくれることを、無理だと知りながら、あたしは願っていた。
side:彼
部屋の中に、聞きなれた着信メロディが響く。
それだけで、誰からかわかる相手なんて、そんなにいない。
ということは、この着メロは、よく知っている相手からだということだ。
弱音は吐きたくなかった。
だけど、黙っているのも辛くて送ってしまった先ほどのメール。
『俺、会社クビになった』
理由なんてことを考える前に迫ってきたのは、これからどうすればいいのかという不安感。
どうしようもなくて、情けないけど電話をしたら泣いてしまいそうでメールにしたのだけど。
(普通、メール送ったらすぐに返してくるもんだろ)
数時間も経って、ようやく着たメールに、かなり拗ねながら、携帯を開く。
『彼女に慰めてもらえるのに、女友達なんか呼ぶなバカ』
立ち上がる。
上着を羽織って、向かう先は近くのバス停。
「? 何ー? どこ行くの??」
「バス停! 姉ちゃんを彼女だって勘違いしてるバカ迎えに行って来る」
背中に「あらら。ごめんね、いってらっしゃいー」なんて呑気な声を聞きながら。
バタバタと階段を駆け下りて、夜の道を走る。
前に書いたものを掲載すると、時代を感じるなぁ。
メールって……携帯を折りたたむって……orz