キツネなモー娘
ざー。
ざー。
降り続く水の音。
轟きの音を奏でながら、たまに輝く外。
その音を聞くのは部屋でただ一人の少女だった。
艶やかな金の髪は乱れ、息を荒らし、衣服ははだけ、手と頬は朱色で彩られていた。
「どうして...?信じたかった」
少女は下に横たわる何かに向かってそう問いかけた。
私が最初に彼を意識したのはいつだったろうか。
確かそう、二年生の頃の文化祭の時だった。
ただ見た目がいいとか、優しいとか、他の女子から人気があるとか、そんな理由で意識したわけではない。
文化祭の演劇公演、そのシナリオと舞台監督と主演を自らで作り上げ、更に40人と少なくはない部員をまとめた上にこの完成度の舞台を作り上げた彼に興味が湧いた、ただ関心した、それだけだった。
水瀬侑希奈
「朱里は、まだ返事返してないのですか?」
二人しかいない生徒会室で、侑希奈の声が何もない部屋でほんの少しだけ木霊した。
夢路朱里
「うん、まだ。」
窓を眺めたまま瞬きをせずに答えた。
水瀬侑希奈
「私、あんなアプローチ見たことありませんよ?『私のシナリオのヒロインになっていただけませんか?』今時あんな事をさらさらと口に出来るのは演劇部部長だからでしょうね。私は少なからず朱里に好意があっての事だと思ったのですが、あの方はそういう概念では動かなそうな方ですし、純粋に自分のシナリオのヒロインと朱里が重なったのかな?朱里がすぐ断らない理由はあの方のシナリオが気に入ったとかそんな感じですか?」
夢路朱里
「そう言うわけでも無いと言えば嘘になるかな」
水瀬侑希奈
「どうしたのですか?らしくないですよ?」
彼と初めて会話した内容はなんだったろうか。思い出すと初めての会話は思い返すほどではなかった。
部活の表彰を渡した事くらいだ。
初めての会話言葉のキャッチボールは先程から侑希奈が話している次の舞台のヒロインの勧誘。それが私と彼との初めての会話となった。
それまでこの学校で、男性になにかを意識したこともないし、会話なんて何のきなしに普通に行ってきた。
しかしなぜだろう、彼との会話はなにかしらの特別を感じた気がした。
今まで生きてきた中で、特に表だった事をしてこなかった私だ。
あっても今隣にいる副会長の水瀬侑希奈が私を誘って生徒会に立候補し会長になったことくらい。もしかしたら私はただ、挑戦してみたいだけなのではないかとも思う。
夢路朱里
「やってみようかな、演劇」
水瀬侑希奈
「なんですか!なんですか!?どういう風の吹き回し!?」
夢路朱里
「特に何かにある訳じゃないの、ただ高校生活も残り僅かだし、なにかしてみようかなって」
水瀬侑希奈
「いいですよ!部活は!恋愛に青春に全てが詰まっています!
朱里もきっと部活でなにかを見つけることが出来るはずなのですー!」
夢路朱里
「別になにかを求めてる訳じゃないの、ただなんとなくなの」
水瀬侑希奈
「それでもそれでも!私は嬉しいのですよ!朱里が初めて自分で決めたことなんですから!!」
侑希奈にとっては私に関するイベントはなぜかとても嬉しそうだ。
理由は何となくだがわからなくもない。
私たちは施設からずっと一緒だった。親友とも呼べる間柄だ。
施設というのはこの世界で生活するに当たって知識を付ける場所、私たちは人間ではないのだ、同じ境遇の二人が更に仲良くなる理由でもあった。
私は人間には特に興味がなかったが、侑希奈は違った。
人間大好きッ子だ。
人間と行える行事には人一倍積極的に参加する彼女に親友のよしみで参加するのが私。参加する度に嬉しそうにしていた彼女だ。今回は私自信が自分の気持ちで参加する意思を見せたことが嬉しいのだろう。
分かりやすい奴だ。