3、乙女ってみた
「トカゲ好きだー、喰っていいかー?」
「えー、わたし、はずかちぃからむりー、しねー」
「精のつくもん獲ってくるならどうだー?」
「ええっとお、たとえばー?」
「人肉」
「却下」
「それなりにうまいぞー」
「鬼か」
折角休暇を得て観光地の花畑に来たので猫なで声で乙女ってみたが、ワニには効果がなかったから即飽きた。
人間界から流れて来たモテ乙女雑誌に『かわいい子がかわいらしくお願いしたら男なら何でも叶える』と書いてあったのに詐欺である。
かわいくないし、お願いさえもかわいくない? あー? 聞こえねぇなぁ。
ちなみにワニは勝手についてきたストーカーである。
クズでストーカーとかオワコンボでワロス
ちなみに雑食性だが人肉を食べる気はしない。髪とか加工もめんどいし臭いし、やっぱ姿形は似てるし。
まあワニは普通に目の前で食うがなクッソ
今も我が腕を食ってるがなクッソ
はずかちぃって言った次のしねーの辺りで食われてたがなクッソ
ずぼーっと生やしていると、ちょうどいいところにワニの尻尾があったのでその上に座った。
観光地だが私みたいな雑魚だと食われる可能性もあるしな
そこらの草花に
あ、言う間にカップルが食われた。
なむなむ
「トカゲ弱いんだから此処はやめとけってー」
「ワニよ、ゆうて花畑で一番まともな観光名所がここだしな」
「それもそうだなー」
街も街で危険だしな
魔界は常にひゃっはーである。
ひーはー
ピクリとワニの尻尾が揺れる。
何だと視線をやればすぐ近くに人喰い華が大口を開けて飛び掛かってきていた。
色合いは儚げな鱗粉と淡い水色で目には美しい。
その花弁の下の人の横幅ほどの口に目がいかなければだが。
そもそもこの美しさを目当てに観光地として敢えて人喰い華を植えてるんだしな
美しい華には口があるもんである。
「綺麗だし花弁残してくれな~」
「おー」
ばっしーんという音で花弁だけを残して下が弾けた。
ワニがデコピンで空気圧を飛ばしただけである。
便利だが益々脳筋に思えるな、暑苦しい
てかそれでやるなよ
「ワニ、液体飛んで花弁がまっ緑じゃねーか」
「トカゲすまん」
仕方なしに諦める。
賢いやつは大抵ワニを避けるから、あんな馬鹿な華も珍しかったのに
追おうとすると逃げるから花弁は諦めるかーとワニ尻尾に座って頬杖をつく。
あ、ちょうちょ
喰われた。
マジ情緒ねぇわー
「ワニ、ちょっとうねってる奴ら静かにさせてくんねー?」
「いいぞー」
よっこいしょとワニの尻尾から降りる。
ふんっとパンプアップして益々暑苦しくなったワニが一歩脚を踏み鳴らした。
震脚というらしい。興味ないので五秒で忘れる自信しかない。カップルまでひっくり返っているが私には被害ないので無問題である。やらせといて益々脳筋だとは思うが。
半径十m内の地面からまっ緑の液体が一斉に噴出してきもかったが、お陰で途端に魔界新聞に載っていた人間界にあるただの花畑みたいになった。
幻想的な淡い燐光と儚げな花弁が舞う様は、悔しいが人生でも一、二を争うくらい美しい
ふんふんとねちょねちょする緑の液体ゾーンを超えて華からぶちぶちと花弁を抜く。
どうせ気絶してるし華だから痛覚もねーだろ
「トカゲなにしてんだー?」
「乙女的素行ー」
「ふーん」
興味なさげに華を捕食するワニを無視してなんとか作った。
リベンジリベンジ
ワニを呼ぶ。
「ワニ来い」
「おー?」
「しゃがめ」
「こうかー?」
まだデカイがその上に華冠を置いた。
何だこれと弄っている。
「食えってことか?」
「さあ? 人間界の乙女はこうすると書いていたからな。褒美ってことじゃねーか?」
「そうかー」
「多分な」
「トカゲ嬉しいぜー」
「そうか、感謝してさらに私の為に働けよ」
「じゃあ食うなー!」
「何でだよ! っとに、お前何でも食うよな」
尻尾を上機嫌に振って喜び勇んで華冠を口に放り込むワニ。あぐあぐと目を細めて味わう様子を呆れた目で見ていると、何を勘違いしたのか慌てた様子でワニが引っ付いてきた。
邪魔だ、てかやめっ!!
あーー
もうお前マジ許さん
「トカゲが一番美味いからな!!」
「知るか!」
今日もいつもどおりである
ちなみに食われたカップルが『祝✩被食100組目』だったらしい。
その日の内に魔界危険度ランキングの✩を1つ上げられた。
観光地は「相手に油断があった」「ちゃんと看板で警告はしてある」「弱い奴等が食べられただけだ」と抗議をしているようだ。観光地としても唯一の収入源なので必死らしい。
ちなみにこの魔界危険度ランキング、あるラインを超えると逆に☆が多い程観光客が増える。
え?理由?魔族ならスリルあった方が愉しいからに決まってるからじゃないっすかー☆
今後も魔界ニュースに注目である。
ちなみに最近華が人型を襲わず大人しくなったとの噂もあり…?




