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まずは宣伝です

「では、記念すべき初仕事はポスター作りだ!気合い入れて作ろうじゃないか!」


「おー」

 

 やる気の無さそうな声が返ってくるが、無いよりはマシだろう。

 あれから一夜明け、とりあえず初めの仕事としてポスター作りをすることに決めた。

 探偵業を始めると言っても、この世界ではそもそも探偵という職業が存在しないため、まずは探偵という職業があることを覚えてもらうところから始めなければならない。

 

「というわけで、さっき役所の人からポスター用の紙と筆記用具をもらったので、これを使ってポスター作るぞ」


 就職して最初の一カ月は役所がサポートしてくれるわけだが、それは金銭面だけではない。

 この物が欲しいと申請し、必要と判断されたらなんと、役所が負担して用意してくれるわけなのだ。

 他にも住まいの提供までしてくれる。そのため、今の俺たちの寝床は役所の三階にある。役所の二階から四階は、そういった人用の部屋というわけだ。どうりで周りの建物より大きいはずだ。

 あ、言っとくけど相部屋じゃないよ?ちゃんと別々の部屋だよ。

 

「じゃあまずは俺が見本を書くからそれを元に書いてくれよ」


「うむ。承知した」


 ちなみに今ポスターに書いている文字は日本語ではない。もちろんアルファベットでもないが、それに似た文字だ。

 しゃべる言葉も日本語ではないが、不便なく使えているところから、大天使さんが転移の際に何かしらしてくれたのだろう。それには感謝しないとな。転移して早々言葉が通じないなんて、詰みゲー以外の何物でもないからな。

 

「よし、こんなもので大丈夫だろう。じゃあ早速この通りに書いてくれ」

 

 とりあえず、主な業務の内容と責任者の名前さえ書いていれば大丈夫だろう。こういうのは実績とか書いた方がいいのだろうが、パンフレットではないので書かないことにした。いつかパンフレットを書く機会があれば書き込むのもいいかもな。

 ・・・というのは建前で、そもそも実績が無いから書けないんだよなー。


「テツヤ、この『ペット探しも承ります』なのだが、こんなことも探偵の仕事に入るのか?」


 黙々と仕事に取り掛かるルナだったのだが、疑問に思ったのか作業を一旦止めて質問してくる。


「そうだぞ。しかも何気にこの手の依頼が多いんだなー」


「そうなのか。探偵とは人探しばっかりする職業だと思ってたのだが・・・」


「逆に毎日人探しの依頼が来たら怖いわ。どうなってるんだよこの世界は」


「ま、まあそうなのだが・・・」


 何やら少し不満がある彼女だったが、その後は再び黙々と作業に戻る。

 そういえば、昨日探偵は人探しをする職業なのかって聞いてたな。何かそれに関係しているのかもな。

 彼女の顔をばれないようにこっそり見てみるが、いつもの無表情の顔に戻っており表情からは何も読み取ることはできなかった。

 



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「一応これで完成だな。お疲れさん」


「うむ。こういう手のものは初めての経験だったからな、なかなか新鮮で楽しかったぞ」


 一通り書き終え、時刻はちょうどお昼過ぎだ。

 ルナの書いてくれたポスターは初めてにしてはとても綺麗にまとめられており、俺のポスターと並べると彼女のポスターがオリジナルだと思ってしまうぐらいだ。

 ちょっと悲しい気もするが仕方ない。


「じゃあ、昼飯食ってからこれを貼れる場所に行こう」


「了解した、腹が減っては戦はできぬと言うしな」


 彼女の了解を得られたので、昨晩飯を食べた食堂屋さんに向かう。ちなみに食堂屋さんの店名は『野良犬亭』だ。料理は旨いのだが、ネーミングセンスがちょっと残念だ。

 店に入るとお昼時というのもあり、多くの人でごった返していた。

 しばらく店の外で待ち、しばらくしてから呼ばれたので中に入り手早く注文する。

 お店が混んでいるときは素早く注文しないとな。

 その後運ばれたきた料理を食べ終わる頃には店の中のお客も減り、落ち着きを取り戻していた。


「そろそろ頃合いかな?じゃあルナちょっと待っててくれ」


「どこに行くのだテツヤ?」


「まあ見てろって。ルナにも後でしてもらうことだからな」


 カウンターに近づき、グラスを拭いているいかにも店長ですという雰囲気を醸し出しているおじさんを見つける。

 

「失礼する。あんたがここの店長なんだと思うんだけど間違いないよな?」


「ん?儂に話しかけているのか?儂は店長ではないぞ」


「そうかそうか、やっぱりあんたが店ちょ・・・え?違うの?」


「店長ならあの子だぞ。おーい、リン!お前さんに用があるお客さんがいるようだぞ」


 おじさんはホールで給仕をしている女の子達に呼びかける。すると、その中の一人から猫のカチューシャを付けた子が俺の前にやって来た。

 見た目は俺と同い年に見える。


「どうしたのにゃ?何かリンに用なのかにゃ?」


「ええっと・・・あなたが店長さんでいいんだよな?」


「そうなのにゃ!リンがここの店長をしているのにゃ!」


「そうか、じゃあちょっと聞いてもらいたい話があるんだけど少し時間いいかな?」


 色々突っ込みたい所はあるが、今は我慢我慢。

 具体的に言えば店長が猫のカチューシャつけているのに、なぜ店の名前は『野良犬亭』なのか。あと語尾の『にゃ』は営業だから使っているのか、それともそれが素なのか。

 この店には今後通い続けて真相を見極めないとだな・・・。

 密かに決意している俺に店長はにっこりと笑い、


「今の時間帯なら大丈夫にゃ!」


 と言ってくれる。うん、やっぱりその語尾が気になります。


「じゃあお言葉に甘えて。実は今回はお願いがあって来たんですけど、このポスターをここのお店に貼ってもらいたいなと思いまして。あ、見てもらって構わないので、どうぞ」


 怪訝な顔になりながらも俺からポスターを受け取った店長は、ポスターを読むにつれて段々と興味深そうな顔に変わっていく。


「この探偵という職業は初めて聞くのにゃ!まだ始めたばかりなのかにゃ?」


「そうですね、今後本格化していく予定です」


「なるほどにゃ。つまりこのポスターで仕事を増やしたいわけなのかにゃ?」


「簡単に言えばそうなりますね。どうかこのお店に貼ってもらえないでしょうか?」


 店長はしばらく「うーん・・・」とうなり考え始める。そしてすぐに顔を上げると俺に向かって笑顔で告げた。


「オーケーなのにゃ!ただし一つ条件があるにゃ!」


 やはりそう来たかと身構える。

 誰もが勝手にポスターを貼れるわけではない。ポスターを貼る場所の所有者と話し合いをし、許可を得て初めてポスターが貼れるのだ。

 その際に、相手側から条件が提示される場合もある。例えば掲示料として料金を支払う場合だったり、ポスターが貼る場所と不釣り合いなので少し改良したものなら貼ってもいいという条件であったり、様々なケースが想定される。

 恐らく今回も何かしらの条件が課せられるのだろうとは予想はしていた。第一聞いたこともない職業のお仕事ポスターだなんて、普通の人ならば得体のしれないものとして取り合ってくれないだろう。俺だってお断りだ。

 果たしてどんな条件が突き付けられるのかと再度身構える。


「条件は、毎日夜にここで夕ご飯を食べることなのだにゃ!」


「なるほど、そういう条件か。・・・って本当にその条件なの?」


 予想していた条件とは全く違う内容に、驚くしかない。


「詳しく言えばその日にあったお仕事の内容を話して欲しいのにゃ!探偵という職業なんて珍しいから、とても貴重な話が聞けると思うのにゃ!」


 なるほど、つまり探偵という仕事に興味があるのでそれについて話して欲しいと・・・。

 いや、それもよく考えたらプライバシーの問題とか色々やばそうな気もするけど・・・。まあ、話せるところだけ話せば問題はないか。


「オッケー、じゃあその条件を飲むよ。早速だけど今日中に五枚ほど貼ってもらえないか?場所はお任せするよ」


「了解なのだにゃ!任せて欲しいのにゃ!」


 そう言うと店長はポスターを抱えて店の奥に走り込み、早速貼り付ける準備を始める。

 とりあえず、幸先の良いスタートが切れたなと思いルナが待つ席へと戻る。

 相変わらず無表情だが、ちゃんとやり取りは見ていてくれたようだ。

 

「待たせたな。じゃあさっきのやり取り見ていたと思うから、次はルナが交渉してくれよな」


「うむ、了解した。ところで一つ疑問に思ったことがあるのだが」


「ん?どうしたんだ?」


「先ほどの店長様は猫耳のカチューシャを付けて語尾が「にゃ」なのに、どうして店の名前が『野良犬亭』なのだろうか?」


 それは俺にも分からん。

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