騎士なんて職業あるんですね
「で、結局何が言いたいんだよ?」
「ふむ、これは私が悪いのか?」
「当たり前だよ!ルナのせいで誤解が生まれただろうか!」
ルナの爆弾発言後にざわめく人たちを避けるために、メイドさんが「こちらにどうぞ!く、くれぐれも変な行為はしないでくださいね!」とわざわざ個室を用意してもらい、今は二人っきりで改めて先ほどの発言の真意を確認しているわけだ。
あと、メイドさん・・・俺が何かすると思ってるのかい。そんな風に思われてたのなら軽くショックなんだが・・・。
「それで、結局俺にどうして欲しいんだよ?お前も知っているとは思うけど、俺さっき就職したばかりだから、できることなんてたかが知れてるぞ?」
「むしろちょうどよいタイミングだったと私は思うのだがな」
こいつ人の話聞いてないだろ・・・。
ルナの言葉に溜息を吐くが、それで何かが解決するわけでもないしな。ここは耐えて対話を心掛けるしかない。
「それで、いいタイミングってのはどういう意味なんだ?」
「ん?いいタイミングはいいタイミングだろ?」
「ええっと・・・そのタイミングの具体的な内容を俺は聞いているんだけど・・・!」
この世界の住人はどういう頭の構造をしているのだろうか・・・。
あの大天使さんが管理している世界なら・・・まあありえなくないのか・・・。
がっくり肩を落とす俺に気づいてないのか、彼女はお構いなしに話し始める。
「ふむ、まあとにかく私をあなたの元で雇ってもらいたいだけなんだが・・・分からなかったのか?」
「分かんねーよ!!あんな言い方されて理解できる方がおかしいと思うよ!」
「くっ・・・ははははは!!」
「え、なんでいきなり笑うんだよ・・・」
なにが面白かったのかは分からないが、ただひたすらに大きな声を出して目に涙も浮かべながら笑い続ける彼女を引き気味で見る。
はあ、はあ、と一通り笑い終えたのか涙を手で拭いながら今度は笑い声ではなくちゃんとした言葉を発する。
「すまない、すまない。実はあの発言はわざと言ってみたのだ。試すようなことをして悪かったな」
「わざと・・?わざとなのかよ!ったく・・・はあ。なんか一気に力抜けたんだけど」
「ここで怒らないところも好感が持てるな。なに、テツヤが本当に信用できる人物か私なりに試させてもらったのだよ」
「何でそんなことする必要あるんだよ?」
「まず、さきほどの発言でテツヤの男性としての本能を抑えられるのかということを試させてもらった。これは私にとって今後必要なことだからな。そして、もう一つあるのだが・・・まあこれは言わないでおこう。下手したらテツヤの心を傷つけてしまうかもしれないからな」
「すでに傷ついてるんですけどー・・・。で?試した結果はどうだったんだ?」
「合格だ。私が仕えるのに値する人物だと結論付けた」
そう言うと彼女は先ほどの爆笑とは違った、違う笑顔を俺に向けてくる。
何気にこいつの笑顔見たの初めてだなーと思いつつ、どこかその笑顔に違和感を感じる気もするのだが・・・って、え?こいつ今なんて言った?
「お、おい。今なんて言ったんだよ」
「今度は試してないからそのままの意味で受け取ってもらっていいぞ。私はテツヤに仕えると言っているのだ」
そう言うと彼女は俺の前に片足だけ膝を付けた状態で跪き、俺の手を取り、俺の顔を見上げながら
「どうぞ、これからよろしくお願いします。ご主人様」
本人に自覚は無いのか、俺の顔を見上げると上目遣いになっており思わず顔が赤くなってしまう。
いや、見た目はとても綺麗な子だからね。俺の反応は正常だよ?決して邪な考えとかしてないよ。本当だよ・・・?
にしても、結局何がしたいんだろうこの彼女は?
天井に顔を上げながら、溜息を吐く。またしても厄介な事に巻き込まれそうだと思いながら。
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「それで、俺がルナを雇えばいいってことなんだよな?にしてもこの肉柔らかくてうまいな。ルナも食べてみろよ」
「どれどれ・・・もぐもぐ・・・おおっ確かにご主人様が勧めるだけはあるな。そうだな、その認識で間違ってはいないぞ、ご主人様」
「あのさ・・・そのご主人様って呼び方やめてくれないか?違和感ありすぎて困るんだよ。恥ずかしいし・・・。普通にテツヤって呼び捨てでいいからさ」
「そうか?まあそこまで言うのであれば仕方がない。では今後は今まで通りテツヤと呼ぶことにしよう。ん?この野菜スープもなかなか美味だな」
場所は役所の個室から打って変わって、近くの食堂屋だ。
あの後メイドさんがやってきて、ひとまず役所内の騒ぎは収まったのでもう大丈夫ですよとわざわざ教えに来てくれたのだ。
ちょうど夕食時ということもあり、じゃあ続きは飯でも食べながらという流れになり今に至る。
ちなみに先ほどメイドさんから、サポートの支給金をもらったので無銭飲食をせずにすんで安心している。
「だいたい雇えってどういうことだよ。ルナはすでに職業に就いているんだろ?わざわざ得体の知れない職業に挑戦する必要なんて、デメリットはあってもメリットはないだろ」
「実はそうでもないのだ。まず前提として私が探偵とやらの職業に就きたいと一言でも言ったか?」
そう言われ今までの彼女の発言を思い返してみる。
「確かに言ってないなー。じゃあお前は何で俺に雇って欲しいんだよ?」
「それには私の職業から説明しないといけないな。今更だが、私の職業は騎士だ」
「なるほどね、騎士だったのか。・・・って騎士!?どんな職業だよ!」
予想の斜め上をいく答えが返ってきた。
けれどそのおかげでなぜルナが鎧を着ていたのかという疑問は解決されるな。
まあ、本質はそこではないんだけど。
「で、騎士っていうのはどんなことして働くんだよ」
「なに、簡単なことだ。仕えるべき主を見つけ、その方のために働き、時にはお守りすることが主な仕事内容だな」
「なんというか、仕事内容はまさに騎士!って感じだな」
つまり、こいつは騎士として俺の元で働きたいということか。
けれどそこに一つ疑問が浮かび、ルナにぶつけてみる。
「でもさ、騎士として働くなら俺みたいな変な職業に就いている奴じゃなくて、貴族様とかもっと高貴な人に仕えるのが普通なんじゃないのか?」
そうなのだ。騎士として最も輝いて働ける場所は少なくとも俺の元ではないはずだ。
いや、単純に一緒に働きたいと言われるのは嫌な気分はしない。むしろこの世界に転移したばかりの俺にとって願ってもない展開だ。
けれど果たしてそれでいいのだろうか。俺なんかといても・・・
「騎士として正しい働きをさせてやれないんじゃないか?とでも考えているのかな?テツヤは」
「人の思考を勝手に読むなよ・・・。けどその通りだ。きっと俺のところで働いても碌なことにならないぞ」
そう言いルナの顔を伺ってみるが、基本的に無表情な顔なので今も何を考えているのか分からない。
「その点は心配しなくてもいいぞ。私の騎士道は私が決めるからな。それに私が仕える主も私が決める。それではだめか?」
「まあ、そこまで言うなら俺からは何も言わないよ。好きにしな」
「・・・すまない、テツヤ・・・」
最後に何か言ったような気がするのだが、まあ気にすることもないだろう。
にしても変なコンビが成立してしまったものだ。探偵と騎士のコンビってもはやネタとしか考えられないんだが・・・。まあ、なるようになるか。
ひとまず様子を見てからだな。
ある程度考えがまとまったところで、急に疲れが出てきた。何気に今日は色々あったからな。
いきなり殺されて、異世界に転移させられ、大天使さんのお望みの通りに探偵になって・・・うん、疲れない方がおかしいな。
ふとルナの方を見てみると、彼女も疲れが溜まっていたのか気づけば目が半目になっており、今にも瞼が閉じそうになっている。
今日はここまでだなと思いながら、初めての異世界の夜に期待とわずかばかりの不安を抱く。
さて、明日は何から始めようか。