転移早々厄介ごとに巻き込まれました
さてと・・・この状況をどう収拾しようか・・・。
「おい!聞いてんのか!邪魔するっていうのならお前からシメてもいいだぞ!」
いや、それは遠慮したいところなんですが・・・そうもいかないようだ。
非常に悪いことに他の男達も何事かと女性から離れ、俺の周りに集まってきた。
「なんだこいつは。この女を助けようとしたんですかー?ギャハハハ!!」
「おいおい、お前一人で何ができるんですかー?ガハハハ!!」
どうも俺が飛び出してきたのは女性を助けるために出てきたと思われているようだ。
「まあ、どっちにしろ邪魔した罰だ。お前から死ね!!」
俺とぶつかってきた男が先に潰そうと、拳を振りかぶり俺めがけて振り下ろしてきた。
「(マジかよおい!異世界に来て早々こんなめんどくさいことに巻き込まれるなんてっ!!)」
自分の運の無さに思わず嘆くが、これ以上嫌な思いはしたくないと振り下ろされてきた拳を後ろに下がり、回避する。
「よけんじゃねよ!おらっ!!」
拳が当たらなかった男は避けられたことにさらに逆上し、今度は左の拳を俺の顔をめがけて突いてくる。
「(目立ちたくなっかたけど、仕方ない・・・!!)」
大勢の人の目がある中で目立つことはしたくなかったのだが、これ以上事態を悪くしないように腹を括る。
飛び出してきた拳を右手で自分の右後ろにいなし、軽くしゃがみながらこちらに向かってくる男の顎めがけて立ち上がりながら左の手で掌底を叩き込む。
「がぁっっ!!」
掌底を叩き込まれた男は自分の舌を嚙んだのか、口から血を吹き出しそのまま地面に倒れ込み動かなくなった。
その光景に周りの人だかりからは「おおっっ!」と声が上がり、拍手までする人が現れる始末。
一方倒れた男の仲間たちは、身内が倒されたことに一瞬動揺したものの、すぐに食って掛かる。
「てめぇ!!楽に死ねると思うなよ!!」
「(やっぱりそうなるよね!分かってたけども!分かってたけども!)」
大体なんでこのようになったのだろうか。そもそも俺も被害者の一人なんだが。
第二の人生を穏やかに過ごそうと決めていた俺にとって、この状況は非常によろしくない。
いきなり殺され、異世界へと転移させられ、挙句の果てには俺の嫌いな『探偵』をやれだと・・・。
「(ふざけるなっっ!!!)」
色々と思い返せば理不尽な事ばかりだ。もう少し世界は俺に優しくしてくれないものか。
そう考えれば考えるほど怒りが込み上げてくる。
「らぁぁぁ!!」
男達は三人で襲い掛かってきた。一気に叩こうという考えなんだろう。
「(悪くないけど動きが完璧素人なんだよ!お前らには俺の八つ当たりに付き合ってもらうぜ・・・!)」
俺は小さい頃、親父に護身術を叩き込まれていた。
親父曰く「探偵という職業は何があるか分からないだろ?もしもの時は自分の身は自分で守らなきゃだからな。哲也も探偵になるなら必須の技術だぞ」だそうだ。
果てして親父の言い分が正しいのかは分からないが、少なくともおかげで素人相手に遅れることはない。
「(左、少し遅れて真ん中、一番早く殴りかかってこれるのは右か!)」
全体を見渡し、対処の順番を素早く判断する。
右から襲い掛かってくる男は、タックルを仕掛けるようにただ突っ込んで来ているようだ。
身体を右に向け男に向かって自ら突っ込む。そのまま跳び箱を跳ぶように男の低い姿勢を利用し、跳び台にして男の後ろに着地する。
男は向こうから突っ込んでくるとは思わなかったようで、驚いて後ろを振り返る。
と同時に着地したままの状態で右足を後ろ回し蹴りし、男の側頭部に蹴り込む。
「うげっっ!!何でこっちに倒れてくるんだよ!」
蹴り込まれた男は蹴られた勢いそのままに、真ん中から突っ込んできた男を巻き込み倒れる。
残された男は思わずそちらに目を向け、足を止めてしまう。
「(残念だけど、そんな隙だらけの様子を見逃すほど俺は甘くないぞ!)」
またしても自ら突っ込み、今度はこちらから仕掛ける。
男は突っ込んでくる俺に気づき、慌てて迎え撃つ構えを取るがそれよりも早く懐に入り込み、掌底で数発腹に当て、男の体勢が崩れたところで相手の右腕を取りそのまま背負い投げの要領で男を投げ飛ばす。
「(背負い投げっぽいんだけど、背負い投げは横からは投げ飛ばさないから完全な背負い投げもどきだよなー・・・)」
「いててて・・・ちくしょう・・・なっ!お、お前!!」
「(さっき蹴り飛ばした奴に巻き込まれた男か。こいつで最後だな)」
「なんでこんなことに・・・!てめぇ・・・!」
自分が倒れ込んでいる間にもう一人の仲間も倒されたことに驚いたのも束の間、すぐに怒りを露にする。 起き上がると同時になりふり構わず突っ込んでくる。
「(もはややけくそだな。対処を間違えなければどうってことないが)」
激昂している相手とは反対に、冷静に対処しようと身構えた直後だった。
「蛆虫が。それ以上の狼藉は許さないぞ」
女性の声が聞こえたと思った瞬間、背後からものすごい速さで誰かが俺を通り越し、その勢いのまま男に体当たりをする。
あまりのスピードに目が追い付かなかったが、男が吹き飛ぶ様子を見てそれがとてつもない力が込められてたことに気づく。
「(なんちゅうバカ力だよ・・・大の男を吹っ飛ばすなんてどこの格闘家だよ)」
思わず身構えてしまうが、体当たりをかました本人は男が吹き飛んだ後に立ち上がらないことを確認した後、後ろを振り返り俺の元へと歩いてきた。
「(ってこの女の子、さっき絡まれてた女の子じゃないか)」
さきほどは男達に囲まれており、はっきりとその姿を確認することはできなかったが、今目の前に立っている女の子はボロボロになった鎧を着ており、腰まで伸びている青い髪はボサボサ、髪と同じ青い目は黒くくすんでいる。
「そなたの働きに感謝する。見も知らない私を助けていただき本当に感謝している」
「(そういや、そもそもこの子が絡まれてたのが原因だったんだよな。すっかり忘れてた・・・)」
「ん?何か問題があるのだろうか?ああ、言葉の礼ではなく物による礼を求めているのか。それは配慮が足りなかった、申し訳ない。しかしこれでも急いでる身でな、金銭的な礼になってしまうがよかっただろうか?」
「え?いやいや!お金とかいらないよ。完全な成り行きだし、お礼をもらうためにしたわけじゃないからさ」
まさか声を掛けられるとは思っていなかったため、黙ってしまっていたがそれを彼女は物理的な礼を求めていると考えてしまったようだった。
彼女は俺の言葉に驚いたのか、軽く目を開いた。
「なんと、見返りを最初から求めずに助けてくれたというわけか。あなたは先ほどの蛆虫とは違い、気高い方であったのだな」
全体的にボロボロな姿だが、ぱっと見は綺麗な女の子。うーん・・・なのだが堅い口調と先ほどの毒舌口調からは同一人物とは想像できない。いや、これはこれでアリなのかもしれないな・・・。
しかも先ほど大の男を吹き飛ばす所を目撃している。相当力があるのだろう。
鎧の下にはどんな筋肉が備えられているのだろうか。ちょっと見てみたい気がするな。
なんて馬鹿な考えをしている間に目の前の女の子は深々とお辞儀をし、再度礼を告げる。
「本当に感謝している。あ、そういえばまだ名を名乗ってなかったな。すまない。私の名はルナだ。もしよければあなたの名も教えていただけないだろうか」
「ん?え、あっ名前ね、名前!ええと、俺の名前はテツヤだ」
「テツヤというのか。いい名だな。では私は行かなければいけない所があるのでここで失礼させてもらう」
彼女はそう告げると、いまだにいる人だかりをかき分け去っていった。
それまで沈黙していた人だかりは彼女が去っていくのを見送り、その姿が小さくなると大歓声を上げ、俺の周りにわあっ!と俺の近くに集まり取り囲む。
「やるじゃねえか兄ちゃん!いやーさすがだな!」
「まさかほぼ一人で片づけちゃうとはな!」
どうも、彼らは俺を称えるために集まってきたようだ。
あまり人に囲まれるのは好きではないが、案外居心地が良いもんだな。
「いや、俺は女の子を助けるためなら何もいりませんよ!あるのは愛だけです!」
調子に乗ってそう叫ぶと、周りからはおおおっ!と声があがる。
まあ、こんなチヤホヤされるなら人助けも悪いもんじゃないなと思った時だった。
「でも、あんたが勝ってくれてよかったよ!あんたに賭けたかいがあったってもんさ!」
え・・・・・・・?今なんて・・・・・・?
「ちくしょう!俺は男共に賭けてたから大損だよ!」
「あたいはこの坊主が勝ってくれるって思ってたよ!あんたは見る目が無いねー。今日はあたいはパーッとやっちゃうよ!」
「おい!!!おまえら勝手に人を賭けるんじゃねえよ!!賭け事した奴は前に出てこい!吹っ飛ばしてやる!!」
どうもさきほどの乱闘は賭け事に利用されていたようだった。
けれど、勝手に賭け事の対象になったこちらの身としては良い気分はしない。
俺の叫び声を聞いた彼らは集まってきた時と同じように、わあっ!と離れていく。
「ちょっ!待て!待て!ふざけるなー!」
結論、勝手に他人を賭けの対象にするのはやめよう。