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異世界こんにちは

「お嬢様・・・必ず、必ず見つけ出します・・・。それまでどうかご無事で・・・」


 ボロボロになった鎧を着た女性が一人、街道を歩く。

 もちろん行商人や旅人なども彼女とすれ違うが、誰一人として声を掛けようとはしない。いや、できないのだ。

 彼女の青く美しかったであろう目は、青黒く濁り、その身体から湧き出る雰囲気は何か大切な人を失ったかのような雰囲気を纏っていたからだ。


「お嬢様・・・」


 彼女の声は誰にも聞こえない。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~   



「それでここはどこなんだ」

 

 至極真っ当な疑問である。

 セレナとかいう大天使に転移させられたのはいいが重要なことを聞くことを失念していた。


「探偵になるとは言ったが、どうすればなれるんだ・・・。あとどこに転移するかも聞いてないんだけど」


 はっきり言って詰んでいる状態だ。

 とりあえず自分が今どこにいるのか確認のために周囲を見渡す。

 後ろを振り返れば祭壇のようなものがあり、さらに後ろには大きな絵が飾られている。絵には髭モジャの爺さんが描かれている。

 身体の正面に顔を向ければ、真ん中に大きな通路。その通路の両側に長椅子が均等に並べられていた。


「教会・・・みたいなところか?」


 ただ、おかしなところがあるとすれば、全ての物が古くボロボロの状態だということだ。

 上を見上げれば天井のあちらこちらに大きな穴が空いており、天井の役目をあまり果たせていないようだ。


「とりあえず外に出てみるか」


 通路を歩き、これまたボロボロに朽ち果てているドアを開けて外に出た。

 そこは活気溢れる街で、多くの人が道路に溢れかえっていた・・・なんてことはなく予想通りというかやっぱりというか


「人の気配がしないわけだ。ここは森の中か?」


 外に出てみたのはいいものの、周囲が木々に囲まれており、おそらくここが森の中だと推測する。

 森には一度も立ち入ったことはないが、思ったより明るく涼しい。

 安全確認のために教会の周囲を歩くが、人の気配はおろか動物が出てくる気配もない。


「まあ、何もいないならそれでいいんだけど」


 今度は少し離れたところを散策してみたが、相変わらず何の気配もない。

 

「とりあえず人がいるところに行かないとなんだが・・・。人がいたら尋ねることができるんだけどな。どうしたもんか・・・ん?この音は?」


 葉が風に吹かれてこすれあう音に混ざり、何か別の音も聞こえてきた。

 その音に導かれるように足を進め辿り着いた先には


「水車?なるほどさっきの音は水の流れる音だったのか」


 水車単体ではなく、横には小屋もあり覗いてみたもののまたしても誰もいない。


「けれど、これは良い手がかりだ。水車があるってことは、この川の流れる下流に向かえば人がいるってことだな」


 そうと分かれば早速進むしかない。他に何か考えがあるわけでもないしな。

 幸い川に沿って歩くため、飲み水には困らなそうだ。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 彼女はただ歩いた。ろくに行先も決めず、道があればそこを歩いた。


「お嬢様・・・」


 相変わらず彼女に声を掛ける者はいない。いや、正しくはいたと言うべきか。

 その証拠に彼女の鎧からはポタポタと赤い液体が滴り落ちている。血だ。

 不幸にも彼女の容姿に惹かれ、不用意に声を掛けた者の血なのだが、もちろん彼女しか知らないことだ。


「必ず、必ず・・・お嬢様・・・」


 彼女が歩く道の先には大きな壁に周囲を囲まれた街がある。

 ひとまずそこで情報を集めよう。

 彼女は休息を取るということは頭に無く、ただひたすらに歩き続けた。

 ただ己が目的のために。




    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  


「おー結構大きな街だなー。賑やかだし、いろんな店もあるし。なかなか居心地が良い街だな」

 

 あれから川を下り、辿り着いたのがこの大きな街であった。

 周りは大きな壁に囲まれており、これほど大きな街ならよそ者の自分は下手したら検問で入れないのではと不安を抱きながら足を進めてみたのだが 


「案外すんなり入れたんだよなー。ありがたいけどあんな軽い検問でいいのか?」


 検問所に近づき、暇そうなおじさんに声を掛けたところ、最初はめんどくさそうな顔だったのだが、この街で働きたいんです!とテキトーに思いついたことを言ったら『そうか!がんばれよ若き少年よ!』なんて言われ、先ほどとは打って変わって満面の笑みを浮かべ、街の地図まで渡してきてくれた。

 なんでも最近はこの街から若い人が別の街へと移り住んでいるらしく、若い人がこの街に来ることは大歓迎だそうだ。

 若い人が少ないのかな、と思ったのだが意外にも若い人はちらほら見かけるし、決して少ないというわけではなさそうだ。検問のおじさんの言葉には少し首を傾げるしかない。


「何はともあれ、こうして無事に街に入れたんだし良しとするか。えっと、この通りを進んで次の右の角を曲がれば見えてくるのか」


 今向かっているのは、いわゆる市役所のようなところだ。

 これも検問おじさんが教えてくれたことなんだが、まず働くには職業に就かなければならない。

 人それぞれには職業の適性があり、むやみやたらと色んな職業に就けるわけではないようだ。

 そこで、役所がそれぞれの職業を判別し、職業登録をし、役所によっては最初の一カ月はサポートまでしてくれるようなのだ。

 

「とりあえず、この世界での立ち位置を決めとかないと後々めんどくさいことになりそうだしな。よし、この角を右だな」


 地図を片手に目的地まであと少し。怖いぐらいに順調に進んでいるが、これぐらいは許容範囲内だろと自分に言い聞かせる。

 なんだかんだ少しづつこの世界に馴染もうとしている自分に苦笑しながら、角を曲がる。

 探偵になれとあの大天使は言ったが、正直探偵になるつもりはない。最初は諦めたが、検問所おじさんの話を聞き職業判別の抜け道があることを知ったからにはこれを活用しない手はない。


「異世界かなんか知らないが、ここでは好きなように生きさせてもらうぜ」


 あの苦しみから逃れられるのなら・・・。


「おいおいおい!!それはないんじゃないのか!ああっ?」


 あと少しで役所に着くところで、人だかりができていることに気づく。

 さきほどの声はこの人だかりから発せられたようだ。

 

「喧嘩か?なんにしてもこの人だかりは邪魔だな」


 人だかりは道の真ん中でできており、役所に繋がる道を塞いでる状態だ。

 野次馬になるつもりはさらさらないが、この人だかりを突破しない限り役所にはたどり着けない。

 溜息をつきながら人だかりを進もうと、人だかりの間を縫って進む。


「何度言えば理解するのだ?お前らのような下賤な相手をしている暇はないと言っているだろう」


「断るにしてもその態度はないだろうが!なめてんのか、ああっ?こっちは男四人だぞ!」


 さきほどとは違い、今度は女性の声が聞こえてきた。発せられるセリフを聞く限り、どうも女性が男達に責められている状態のようだ。

 やっと人だかりを突破でき、その中心へと辿り着くことができた。

 そこには、男達が女性一人を囲んでおり、男達は次々と罵声を浴びせていた。


「謝れば許してやるって言ってるだろうが!」


「なぜ、私がお前らに謝らなければいけないのだ?頭の中に蛆虫でも飼っているのか?」


「この女!!言わせておけば!!おい、お前ら女だからって容赦するなよ!シメルぞ!」


 成り行きは知らないが、恐らく男達が変にちょっかいを出したのが原因なのだろう。

 けれど女性があまりにも上から目線で怒ったため、男達がヒートアップしたのがこの結果なんだろう。

 

「おいおい、やばくないか。お前行って来いよ」


「いやいや、無理だろ。あの女の子には悪いが俺にはそんな度胸ないよ」

 

 男達が襲うとすると分かると、周りの人だかりはざわつき始める。

 だが、誰一人として助けに行こうとする人はいない。

 

「(まあ、俺もそのうちの一人なんだけどな・・・)」


 どんなに綺麗ごとを並べようが、女性を助けなかったことには変わりはない。

 そもそも自分には関係ないことだし、あくまで傍観者でありそれ以上はない。

 酷いと思われようが、自分に何かメリットがあるわけでもない。むしろデメリットの方が付き纏うだろう。

 仮に助けようとしたら周りからは、女性を助けようとした人、と思われるだろうがそれが一体何になるのだろうか。

 

「(俺は決して親父のようにはならない・・・!)」


「おいおい押すなよ、危ないだろ!」


「いや、後ろから押されたんだよ!あっまた!うわっと!」


「えっ!ちょっ!やば・・・!」


 その時後ろから押され、今にも襲い掛かろうとしている男達の一人にぶつかってしまった。

 どうも、もっとよく見ようと後ろにいる人が前へ前へと進んだために後ろから押され、考え事をしていた俺は急だったために踏ん張ることができずに人だかりから離れてしまった。


「痛ってえなおい!なんだお前は!なんか文句でもあんのか?ああっ?」


 えっと・・・どうしましょう・・・。

 やはりそう上手く第二の人生は歩めないらしい・・・。

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