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亡骸は大切に埋葬しましょう

「冗談は置いといてだな、最後の質問に答えてもらおうか」


「全く・・・無駄に怒らせおって・・・。それで最後の質問とはなんじゃ?」


 なんとなくこの大天使さんの扱いが分かってきたところで、最後の疑問をぶつけてみる。


「それで俺は今後何をしたらいいんだ?お前のお世話係か?セクハラしてやるぞ?」


「万に一つでもセクハラしてみろ・・・。一瞬でセクハラジジイと同じ所へ案内してやるぞ・・・」


 こいつにはジョークというものが理解できないらしい。

 それも仕方がないことかもしれないが、とりあえず変なオーラを纏い始めた拳を下していただきたい。


「分かった分かった、謝るからごめんって。それで早く質問に答えて頂きたいんですが」


「さっきから余の扱いが雑になってきている気がするんじゃが・・・。まあよかろう。哲也にはこれから余が管理している世界に移り住んでもらい、そこで前の世界で培ってきた探偵スキルを存分に使ってもらいたいのじゃ!」


「説明がほんとアバウトで分かりにくいんだけど・・・。つまり俺に探偵をしろってことか?」


「うむ!そういうことじゃ!これは哲也にしかできないことなのじゃ!」


 なんてこった・・・。思わず本日何回目かの頭を抱える動作をする。なんか癖みたいになってきたな・・・。

 それはともかく、先ほど俺が探偵の端くれだと知っていたあたりからうすうす気づいてはいたが、やはり探偵に関する何かしらをやらせる気だったようだ。

 

「というか何で探偵なんかやらせるんだよ。別に探偵でなくてもいいだろ?ほら、よく漫画とか小説とかで勇者になっちゃたみたいな展開あるじゃん。だからさ、俺を勇者にしてもいいんだぜ?」


「何、アホなことを言っておるのじゃ。勇者なんて職業があるわけなかろう。別に作ってもいいが、勇者の倒すべき魔王までは作れんから、路頭に迷うだけじゃぞ?」


「職業・・・?え、働かないといけないのか?」


「そりゃそうじゃよ。『働かざるもの食うべからず』という諺が哲也の元いた国にはあるんじゃろ?なかなかいい言葉じゃのー」


「いやいや、ちょっと待て!なんで働く必要があるんだよ!一回死んだのにその仕打ちはないだろ!」


「さっきも言うたが、働かないと食って生きていけないぞ?余がそういう仕様に決めたからのー。余の世界では15歳以上の男女は何かしらの職に就かなければいけないのじゃよ。子供、老人はともかく働ける者は働かなければいけないのじゃよ」


「マジかよ・・・。まるで強制収容所みたいじゃないか・・・」


 働くという行為には様々な捉え方があると思っている。

 自分の好きな仕事に就き毎日を楽しく過ごせる者、仕事に目標を見出しそこに向かって進むもの。

 けれども、そうではない人がいるのもまた事実。

 自分の希望通りの仕事に就けず、仕事に意味を見出せない者。

 けれども等しく彼らには共通して言えることがある。

 それは・・・対価として、お金がもらえるということだ。

 

「つまり働かない者はお金が無いから死ぬということじゃな。まあおかげでに、にーそ?にーと?やらはおらぬから子供のことで悩む親はおらぬぞ。安心して皆働いているのじゃ」


「恐ろしいことをサラッと言うなよさっきから。あとニートな。ニーソは一部の男性から絶大な支持を得ているフェチでなそれは本当に・・・!こほん・・・いやなんでもない。とりあえず働けと・・・。それだったら別に探偵なんて不安定な職業じゃなくて、他の安定した職業でもいいよな」


「ダメじゃ、絶対にダメじゃ!哲也は探偵じゃ!これは確定事項なのじゃ!」


「そ、そんなに怒るなよ。なんでそこまで探偵に拘るんだよ?」


 こいつはことあるごとに『探偵』『探偵』と言っていた。

 そこまでして何が彼女を駆り立てるのか純粋な疑問だ。

 もしかしたら意外と重い理由があるのかもしれない・・・。


「それは余がコ〇ンや、金〇一などが好きだからに決まっておろう!余の世界には探偵とやらはおらぬからのー、実際に探偵が活躍しているところを見てみたいのじゃよ!それ以外に理由があるわけなかろう!あ、もちろん古畑〇三郎も好きだぞ!」


 こいつ一発殴ってもバチ当たらないよな・・・。

 ってか単純に探偵物が好きなだけじゃないのか。まあどの作品も名作だから悪くない趣味してるな。

 しかしどこかむかつく気がするのもまた事実。

 

「他にはのー、無難にシャー〇ック・ホームズやエル〇ュール・ポワロなどもなかなか好きじゃのー」


「王道物も知っているのか・・・。結構幅が広いんだなー・・・。いやいやいや!ってか理由本当にそれだけなの!?人を一人死なせちゃってこれだけなの!?」


「他に理由が必要か?」


「あってもいいじゃない!むしろ嘘でもお前には秘められた力が的なことを言ってよ!そんな理由で俺はこんな所に来ちゃったのかよー!」


「いちいちうるさいのーみっともないぞ哲也・・・」


「え!?なんで俺がけなされてるの!?普通立場逆でしょ!」


 彼女からは冷ややかな目で見られているがお構いなしに地面に頭を抱えながらうずくまる。

 まだまだ問題は山積みな気がするが、如何せんこれ以上は自分の手には負えない。

 不本意だが、本当に不本意だが!今は彼女に従うしかないようだ。


「はあ・・・分かった分かった、とりあえずお前に従うわ・・・。というかそれしか選択肢が無さそうだしな」


「うむ。切り替えの余さは褒めてやるぞ!存分に働くがよい!善は急げと言うしの、さっそく哲也の転移準備でも始めるとしようではないか!」


「いや、切り替えたんじゃなくて諦めたの方が正しいんだけど・・・」


 そんなつぶやきは聞こえなかったかのように・・・いや本当に聞いていないんだろうけど、セレナはお構いなしに何かしらの作業を始めた。

 今度は何を始めるんだと思いながら彼女の背中越しに覗いてみる。


「えっと・・・俺の目の錯覚かな?なんか人の骨のようなものが見えたんだが・・・?」


「ん?これのことか?」


 彼女は振り返りながら笑顔で答えてくれた。


「骨じゃよ?」


「やっぱりそうだったかー。・・・いやいや!なんでこれが出てきたの!?転移準備で必要なものなの!?」


「だって哲也は今、肉体持ってないじゃろ?別にそのまま転移しても構わんが、そうすると幽霊のような存在になるだけじゃよ?」


 うん、確かに幽霊で転移はしたくないかな。探偵になるなら便利かもしれないが、幽霊に職業なんてものがあるとは思えないしな。

 ・・・でもなんか嫌なんだよな、どこの誰かさんか分からない骨を使うなんて・・・。ごめん・・・。

 感傷的になりつつある俺に、先ほどから何やら魔法陣のようなものを書き始めたセレナは思い出したかのように言った。


「あ、そうそう。ちなみにこの骨はの、さっき話したセクハラジジイの骨じゃよ」


「前言撤回!!誰がそんなジジイの骨で転移するかよ!お前は俺に何の恨みがあるんだよ!!」


 さっきの感傷的な気分なんかきれいに消え去り、変わりに怒りが込み上げてくる。


「痛い痛い!待たんか哲也!ちゃんと説明するから、頭をぐりぐりするのはやめんか!」


 おっと、気づかないうちに手が出てしまっていたか。

 まあ、ご愛嬌ということで許してくれるだろう。


「なんじゃその、私を何もしてませんよ?的な顔は・・・。まあ余の説明不足が原因でもあるから仕方ないと言えば仕方ないことなのかもしれんが」


「そうだ、俺は悪くない」


「このっ!!今度は開き直ったじゃと!・・・まあよかろう。なぜ余がセクハラジジイの骨を使うのかということじゃが。まあ単純に言えばテキトーな人の骨を使ってもいいんじゃが、人にはそれぞれ相性があるんじゃ。テキトーな骨を使ったところで哲也と適合するかは分からないのじゃ。それこそ哲也と適合する骨が無い場合もありえるのじゃ」


 なるほど・・・。要するに相性の問題だったわけか。

 けど、このジジイと俺が相性が合うなんて、ものすごく残念な気持ちになるんだが・・・。

 顔に出てしまったのか、セレナはフォローするように説明を続けた。


「別にセクハラジジイと哲也の組み合わせが一番良いというわけではないんじゃよ。人はこのジジイから作られておるから、どの人もジジイと適合できるというわけなのじゃ」


「どっちにしてもこのジジイから人が生み出されたって聞いても嬉しくないんだが・・・」


「まあまあ、そう言わずにな。ほれ、準備はできたからそのジジイの骨の横に立つんじゃ」


 ぐいぐいと俺の背中を押しながら、魔法陣の中心に置かれた骨の横に仰向けに寝かされる。

 なにこのシュールな光景。隣がかわいい女の子ならともかくジジイで、しかも死んじゃってるし。骨だし。


「よし!これで完璧じゃの!哲也何か聞き残したこととかはないかの?」


「あったとしても俺にはもう受け入れるだけの気力はないぞ・・・」


「うむ!では哲也よ!汝の活躍見守っておるからの!達者での!」


 その言葉の直後に魔法陣が輝き始め、暖かい気分になっていく。

 なんというか・・・本当に俺は何やってるんだろ・・・。

 その直後に意識がなくなり、身体がどこかに飛ばされる感じがした。

 

「転移完了じゃの!疲れたのじゃー!今日はゆっくり休もうかの・・・。あ、最初に職業手続きする場所教えるの忘れてたのー」

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