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世界を終わりに導く悲劇

終わった世界の片隅で

作者: 悠木おみ

 さわさわと、風が草木をなでる音が聞こえた。

 柔らかな日差しの降り注ぐ草原で、少女は岩に腰掛けながら空を仰いだ。


「滅びてしまったわね」


 少女以外誰もいない「世界」で、少女は「誰か」に語りかけるように言葉を紡いだ。


「ねぇ、これで良かったの? ――『神様』」


 ただ一言、強く問いかけた少女の言葉に、ため息をこぼしながら一人の少年が少女の隣に現れた。


「神は、何もしない。ただ、見守るだけだ……ボクは違う」


 少年は、漆黒の礼服をその身にまとっていた。

 漆黒の上下に身を包み、ショートというには少し長めの髪とシャツは白い。整った貌の瞳と首元のタイだけが赤く色づいている、本を手にした美しい少年だった。


「ボクは観測者で、管理者だ」

「……“ただ、見ている”だけ? 傍観者?」

「それはキミだっただろう」


 少年の言葉に、少女は困ったように笑った。


「わたしは、記憶係だもの」

「世界は無数に存在する。この物語は、悲劇的結末を経て新しき次元へと生まれ変わった。ならば、管理者としてボクが何かをすることはない」


 淡々と告げられた少年の言葉に、少女は首をかしげた。


「あなたは人が織りなす物語が好きでしょう? そのために物語が崩壊しないギリギリで“世界”に干渉しているでしょう? ……物語を渡る、お友達に力を添えてまで」


 表情は変わらず、不思議そうな声を上げる少女に少年は薄く笑みを浮かべた。


「全ての物語が悲劇的結末を迎えるのなら、観測者も、管理者も、傍観者も、記録も必要ない。ただ退屈なだけの現象だ。ボクはそれを好まない」


 手にしていた本を無造作に開いた少年は、そこに浮かぶ文字を愛おしそうに撫でた。


「彼女の願い、彼女の行動、彼女の存在そのものが、物語を変化させて彩っていく……時に残酷に、時に無慈悲に、時に愛おしく。最善の結末に向かって」

「……」

「これほど、無数の変化を遂げる物語は滅多にない」


 囁きかけるかのように本に触れる少年を見て、少女はようやく気が付いた。彼は――


「あなたは“お友達”を使って、悲劇に向かう結末を改変させる道筋を楽しんでいるのね」

「物語は“心を満たすもの”であり、楽しむものだからな」


 酷薄に嘲笑う少年に、少女は悲しげに眉を寄せた。


「……彼女が可哀想……この滅びてしまった物語にも、彼女はだいぶ干渉して、あんなにたくさん傷ついたのに」

「可哀想?」


 ため息をつきながら落とされた少女の言葉に、少年は訝しげに少女に視線を向けた。


「彼女が、可哀想?」

「そうよ。一度物語の世界を抜ければ、傷は治る。でも、痛みが無いわけじゃないのに」

「彼女は可哀想、ではないよ」


 ふと、愛しげに少年は笑った。


「彼女は傷も、悲劇も、干渉した結果の滅びも受け入れている。受け入れてなお、物語に干渉するのだよ――滅びてしまった物語にも意味はある、と」

「……受け入れているの? なぜ? 悲劇を生まない為に、滅びを迎えない為に、物語を渡るのでしょう?」

「いいや」


 心底不思議そうに、戸惑いながらかけられた問に、少年は緩く首を横に振ることで否定した。


「彼女曰く――滅びてしまった物語にも意味はある。滅びてしまった物語の先に、新たな物語が紡がれる、と」

「新たな、物語……?」

「そう……ほら、あれだ」


 少年の指差す先に視線を向けた少女は、草の中から顔を覗かせた小さな雛に目を瞬かせた。


「滅びた世界で、命が生まれた。……この世界は、再び物語を紡ぎだす。人の営みが戻るかまではわからないけれど、ね」

「……死と、再生……? これが、彼女の望むもの?」

「さあ、ね」


 少女の問いかけに、少年はどちらとも取れるような言葉で、意味ありげに深く笑った。


「彼女の望みまで、彼女の心の底まで、はボクも知らない。けれど、この物語もまた、彼女にとっては意味のある結末で、道筋だ。彼女自身の物語――彼女にとっての本編が望む結末になるためには必要なんだろう」

「……利用してるの?」


 少年の言葉に、少女は不快げに視線を少年に戻した。


「当然だろう? それに、彼女は特別にこの物語を悲劇に導いたわけでも、滅びに誘ったわけでもない。彼女は彼女で、この世界を滅ぼさない為にボロボロに傷ついた。この世界を滅ぼしたのは召喚された勇者で、勇者を召喚したのはこの“世界”だ。突き詰めると、この世界を滅ぼしたのは、この世界の住人だよ」


 滔々と語られた言葉に、少女はため息をついた。


「結局、すべては物語の世界の“人”次第?」

「当然だろう」


 少女の言葉に、少年は何をあたりまえのことを、と言ったように頷いた。


「そもそも別の物語から自分たちの物語に住人を引っ張り込んで、無理に“勇者”を当てはめたのは、この物語の住人なんだから」





 少女はただ、ため息を吐く。滅びと再生を経験した、新しい物語で生まれた命を見つめながら。せめてこの”本”の物語が、また滅びを迎えないことを願いながら。

「片隅で終わりを迎えた世界」がプロローグなら「終わった世界の片隅で」はエピローグ的な話しになるかと。いや、幕外かな。


まだほかにもこのシリーズで書きたいものや書きかけのものも結構あるのですが、他のが全然進まない上に、書きあがったのでUPします。

少女の方は分かりませんが、少年の方は他作品(まだネットに載せてない)で登場します。

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