異界育ちの娘 6
領民たちに挨拶を済ませて、ディニーは家族に連れられて領地を見て回った。
その領地に住まう全員が全員、ヴァン・サモナーとナディア・サモナーの事を敬愛している様子が見て取れて、ディニーは誇らしかった。
ディニーの狭い世界の中でもヴァン・サモナーとナディア・サモナーは尊敬する存在だった。そんな尊敬している二人が、この場所でもそういう目を向けられていることが嬉しかった。
「ディニー、こんなにたくさんの人を見て疲れたでしょう。どうだったかしら」
屋敷に戻ってからナディアはディニーにそう問いかけた。
「楽しかったよ。お母さん。沢山人がいてびっくりしたけれど……でもそれよりお母さんたちが人間たちに好かれているの見て、誇らしかった」
ディニーがそう言って笑みを溢せば、ナディアも嬉しそうに微笑みを返す。
そんな風に微笑みあう二人を見て、ヴァンも顔をほころばせている。基本的にナディア以外をどうでもいいと思っているようなヴァンであるが、たった一人の娘が可愛いのだろう。
「ねぇ、ヴァン兄、ナディア様、戻ってきたわけだけど、明日からはどうするの?」
「前と同じように暮らすだけだよ」
「離れている間のサモナー領の記録を見たり、あとは視察をしたりするつもりよ。ヴァン、私は資料をみたりするから、貴方はもっと領内の隅々まで見にいってもらえないかしら?」
スノウの言葉に、ヴァンはマイペースに答え、ナディアは考えて答える。
ナディアの頼みに、ヴァンは当然のごとく、「分かった。いってくる」と即答した。
先ほど領地を見て回ったものの、領地内のすべてを回れたわけではないのだ。なのでナディアが資料で領地を確認し、ヴァンが現地を見て回ることにしたらしい。あまり周りに興味がないが、ナディアの頼みであるのならば、記憶力も発揮する。
「じゃあ早速行ってくる」
「ええ」
「夜には帰ってくるよ。あとは召喚獣達使って、色々見させるよ」
ヴァンはそう言ったかと思えば、すたすたと中庭へ向かっていく。その後ろを子供たちもついていく。
「父上、俺も一緒に行きたいです」
「父さん、何をする気なんだ?」
「お父さん、召喚獣たち、呼ぶんでしょ。はやく呼んで。私も会いたい」
その反応は三者三様である。
父親と一緒に居たいナガラード、訝し気な顔をしているアレキセイ、召喚獣を呼ぶのかと興奮しているディニー。
三人がついてきてもヴァンは気にした様子など全くなく、次々と召喚獣達を呼び出していく。
――大量の召喚獣たちが、その場に姿を現す。
鳥、蛇、蠍、蝙蝠、猫、魚など沢山の召喚獣がその場に出現する。次々と現れる召喚獣たちに息子二人は目を見張る。ディニーだけが只一人キラキラした目で見つめている。
「父上の召喚獣たち……!! 前より増えていないか?」
「はぁあああ!? 意味わかんねぇよ!! これだけ大量の召喚獣呼び出すとか、父さん、頭おかしいのか!? 倒れたりとかしないのか ちゃんと制御出来ているのか??」
「流石、お父さん。わーい、皆、久しぶりー!!」
それぞれ反応を示す子供たちである。
『あらあら、元気なお子だこと。主様、召喚獣を全員呼び出すなんてナディア様の救出の時以来ではなくて? 今回は何か起こったのしょう?』
黄色の九尾の狐が、そんな声を発する。それは《ナインテイルフォックス》のキノノである。
「久しぶりに帰ってきたからな。領地内を見て回ってほしいってナディアに頼まれたんだ。全員で見て回ればすぐ終わるだろ?」
『そうだな! おいら、ご主人様の頼みなら頑張るぞ』
ヴァンの言葉にそんな言葉を返したのは、青い体毛のネズミである《ブルーマウス》のエレである。
ヴァンは大量の召喚獣たちを呼び出しても平然としているが、本来ならこんなことはありえない。人が契約できる召喚獣は多くても数匹と言われている。ヴァンの師である《火炎の魔法師》が恐れられているのも三匹の召喚獣と契りを結んでいるからだ。
だというのに、ヴァン・サモナーという男は、行方不明になる前から、彼は二十匹の召喚獣たちと契約を交わしていた。今は、もっと増えているようだ。異界に落ちていた間にもっとたくさんの召喚獣と接して、契約を結んだのだろう。
「ナガラード、アレキセイ、ディニー、三人は此処にいろ。ナディアも三人と話したがっているし、俺は召喚獣達とさっさとこの領地内を視察して回ってはやくナディアの元へ戻りたいから」
ヴァンはやはり、自分勝手な人間である。ナディアの頼みをはやく遂行し、ナディアの元へ早く帰りたいとそればかりを考えている。なので、三人を連れて行くと時間がかかるので嫌らしい。
ナガラードもディニーもヴァンを怒らせると大変だと分かっているので、「分かった」と答えて屋敷に残ることにする。アレキセイに関してはそこまでついて行きたいというわけでもないので、そのままそれを受け入れる。
そんなわけでヴァンは大量の召喚獣を連れて、領地の端から端まで視察に向かっていった。
――異界育ちの娘 6
(異界育ちの娘は領地の視察に向かう)




