150.社交界への参加について 3
「『火炎の魔法師』の弟子のヴァンが―――」
「ナディア様だ……」
ヴァンがナディアのことをエスコートして会場の中へと入れば、二人へと視線を向けている。
『火炎の魔法師』の弟子であり、《竜殺し(ドラゴンスレイヤー)》であるヴァン。
第三王女にして、社交界を騒がせているナディア・カインズ。
二人の仲の良さは、噂されているものの実際どれだけの親しさを持っているか興味津々といった様子だ。
(ナディアの手を取ってこうしてパーティーに出れるって嬉しい。ナディアが隣にいると思うと嬉しい。それにナディア、凄く綺麗)
ヴァンは周りの視線なんて一切気にすることなく、ナディアのことだけ考えていた。ヴァンがナディアをエスコートしているというのもあって幸せそうな笑みを零しているのも注目されている一つの理由であろうが。
王族であるナディアと、英雄の弟子であるヴァン。その二人に興味津々で寄ってくる人たちは多く居る。加えてその傍には、『火炎の魔法師』ディグ・マラナラ本人もいるのだから人が集まるのは当然であった。
対応がまだ上手くできていないヴァンと違って、ナディアはヴァンの分まで対応をしていた。その対応は、その年にしては驚くほどに大人顔負けの対応をしていた。それは、ナディアがヴァンに守られるのに相応しい存在になりたいと頑張った結果であった。ナディアの堂々とした態度に、パーティーの出席者たちもナディアへの評価を高めていた。
ナディアとヴァンは片時も離れることもなく、二人で隣で並んでパーティーに出席していて、二人が仲が良い様がパーティーの出席者たちには見てとれた。
そして、『火炎の魔法師』の弟子であるヴァンと第三王女であるナディアを婚約させようという話は本当なのではないかと、こそこそと噂されている。まぁ、ヴァンは周りがどれだけそんなことをささやいていても、ナディアにしか興味なくて聞いていないが。
ちなみに、ヴァンの召喚獣たちは《クレイジーカメレオン》のレイの能力により、周りと同化している。その召喚獣たちは、ヴァンのことを面白そうに相変わらず見ている。
そして姉弟子であるフロノスは、少し離れた位置で囲まれている三人を見ながら近寄らないようにしていた。ディグ、ナディア、ヴァンと揃っているのもあって、そちらに注目がいっているのをいいことにフロノスはゆっくりとパーティーに参加していた。
そのパーティーには、ナディアが人脈作りの中で友人にしたミーシェ・ルージー、トトラン・ホイエイ、イクノ・オーランもいた。
三人は、ナディアへと近づいてきて挨拶をする。ヴァンとは一度会ったことがある程度だ。
ナディアと、友人の令嬢たち三人と、ヴァン。
「ナディア様、とってもお綺麗ですわ」
ミーシェは、美しいものを見るのが好きなのもあって着飾ったナディアを見てそれはもう嬉しそうな顔をしていた。
トトランはナディアと平然と会話を交わしていて、度胸がある少女だ。
最後の一人のイクノだけは「あわわわ」とこんな注目される場所に自分がいることに対して青ざめていた。
ナディアの大切にしている存在ということで、ヴァンはナディアの友人三人の名前と顔が一致していた。ヴァンは興味がない存在の名前や顔が覚えられない人間なのだが、ナディアとかかわりのある存在のことはすぐに覚えてしまうのだ。
「―――ナディア、様」
人前だから、ヴァンはナディアのことを様付で呼んでいる。だけれども、ヴァンとナディアが話している時の雰囲気は、最初にヴァンがパーティーに参加した時―――要するにナディアの誕生日パーティーの時よりも親密度が増していることは見てとれた。
ナディアはヴァンの事を見て他とは違う表情を少なからずみせ、ヴァンは驚くほどに嬉しそうに笑っている。それは遠目に見ていても感じられることだった。
もちろん、その親密さは、近くにいるナディアの友人たちは遠くから見ているよりもすぐに感じられた。
(本当に仲が良いわね。前よりも仲良くなっているのではないかしら。羨ましい。王侯貴族だとこんな風に思い合うこと中々出来ないだろうし。私も多分政略結婚するだろうけど、出来たら仲が良い政略結婚したいけど、どうだろ?)
ミーシェは、そんなことを考えながらヴァンとナディアのことを見つめてしまっていた。そんな風に感じているのは、ミーシェだけではない。ナディアとヴァンが相思相愛気味だとわかると、独身のパーティーの参加者たちは少しだけ羨ましそうに見つめるのだった。
もしかしたら、ナディアとヴァンが仲良い様にあてられることで、仲が良い夫婦が少なからずこれから生まれていくのかもしれない。それはまだどうなるか分からない未来だけど、ナディアもヴァンもこれからこの国で多大な影響を与えていくことだろう。
そしてこのパーティーで、彼らの仲が噂だけではないことが明確にパーティーの参加者たちに伝わっていったのであった。
――――社交界への参加について 3
(社交界の会場で、ガラス職人の息子と第三王女はその仲の良さを見せつける)




