149.社交界への参加について 2
ヴァンは、カインズ王国の第三王女であるナディア・カインズをエスコートするためにその部屋を訪れた。そして真っ白な美しいドレスを身にまとっているナディアを前に、ヴァンは言葉を失う。
(ナディア、凄く綺麗)
ヴァンは、ナディアの姿を見て綺麗だと思ってならなかった。ナディアの以前行われた誕生日パーティーでも、ヴァンは着飾ったナディアのことを見ていたが、今回は違うドレスに身を包んでいる。
ヴァンは、他の女性のドレスを幾ら見てもこれだけ心を動かされることはないだろう。ヴァンがこれだけ心を動かされるのは、ナディアだからだ。相手がナディアではなければヴァンの気持ちはこれだけ動かない。相手がナディアだから。ヴァンにとって唯一愛しいと言える存在だから。
「ヴァン、どうしたの?」
こちらを凝視したまま固まっているヴァンにナディアは不思議そうに問いかける。
「ううん……どうもしてない。ただ、ナディア、凄く綺麗だなって」
ヴァンはそう口にしたまま、相変わらず凝視する。ナディアから視線をそらすことが出来ないでいた。ナディアはそんなヴァンの言葉に驚いた顔をした後、嬉しそうにその真っ白な肌を赤く染める。
「ありがとう、ヴァン。貴方もとても似合っているわ」
「本当? ナディアにそう言われるなら窮屈でも着てる意味あった!」
「今日はエスコート、よろしくね」
「うん!」
ヴァンとナディアは、そんな会話を交わしていた。
さて、そんな二人を見据えながら、師匠であるディグ・マラナラは「バカップルすぎる」とつぶやきながら呆れ、ナディアの侍女であるチエは「ナディア様が幸せそうで良い」とつぶやき、ヴァンの召喚獣たちはわちゃわちゃするのであった。
そしてその場から、社交界の行われる場所へと向かう。
「ヴァン、手をつなぎましょう」
「手を?」
「ええ。エスコートしてくれるのでしょう? 会場の前で腕を組んだりしてもいいけど、私……向かうまでの間も手をつないでいたいわ」
ナディアはそう口にしながら、少しだけ恥ずかしい気持ちになってしまう。
ナディアは、ヴァンに好意を抱いている。ヴァンにエスコートされるという事実があるだけで、今回の社交界が楽しみで仕方がなかった。
「うん! 俺も……ナディアと手つなぎたい」
ヴァンはナディアの言葉に嬉しそうな声を発する。ヴァンはヴァンで、社交界という窮屈な場に出るのは望んでいたことではないけれど、着飾ったナディアを見ることが出来て、ナディアをエスコート出来るのが嬉しくて仕方がないといった様子だった。
ヴァンはドキドキしながら、ナディアの手へ手を伸ばす。そして二人の手が結ばれる。ヴァンがディグの弟子になって、ナディアと接する時間は多くなった。時間さえあればヴァンはナディアの元へ向かったし、ナディアも時間を見つけてはヴァンに会いにきた。多くの時間を共に過ごしていた二人だけれども、手をつなぐというのは早々ない。
二人そろって手をつないで緊張気味だ。
(ヴァンの手……、私よりも大きい。ヴァンと手をつなげて、私は嬉しい。ヴァンに相応しい私でありたいってそう思ってから私は社交界に顔を出すようになった。最近は私を見る目が価値の低い王女からかわりつつある。でも私が平民の母親をもつことには変わりない。楽しくないことも多く起こる。ヴァンの召喚獣たちがいたから、私は頑張れた。そして、今日はヴァン自身がいる。私のエスコート役として……。ヴァンがいるから、私は嬉しい。それに……)
ナディアはちらりと、ヴァンの方を見る。それにヴァンは不思議そうな顔をする。
(ヴァンはディグ様の弟子で、注目を浴びている。そんなヴァンが私をエスコートしてくれて、私のことを好いてくれているんだって周りに知られるの、嬉しいと思うわ。ヴァンのことを異性として狙っている女性多いと思うけれど、ヴァンは私のなんだって……そんなあさましいことを思っていると知ったらヴァンはどう思うかしら)
ナディアはそんなことを考える。ヴァンがエスコートをしてくれることが嬉しい。自分の物だなんてそんな感情を抱いてしまいそうになっている。
「ナディア、どうしたの?」
「ヴァン、今日はよろしくね。私の、傍にいてね」
「うん! 俺ナディアから離れない!」
ナディアの言葉にヴァンは笑って答える。
そもそもヴァンが社交界に参加するのはナディアのためで、ナディアの側に居れなければ社交界に参加する意味さえもないとさえ考えているヴァンである。即答するのは当然であった。
そしてそんな仲が良さ気な会話を交わしている二人の後ろを歩くディグは、
(……俺、この空間いにくいんだけど。面白いけど、こいつらどこでもいちゃついてるな)
と呆れながら居心地が悪いのであった。
―――社交界への参加について 2
(社交界会場へと向かいながらその二人は仲良さ気に会話を交わす)




