バラとタンポポ
暑いくらいの春のお日様が、緑の芝生にふりそそいでいます。
その中に、タンポポがひとつ。
タンポポは芝生のむこうに建つまっ白なおうちの出窓をじっと見つめています。
そこには、まっ赤なバラの花が二本、ガラスの花びんに入っていました。
「きれいだな〜」
タンポポは、つぶやきます。
「いやあね、あのタンポポ。またこっちを見てるわよ」
「ほんと、失礼しちゃうわ。自分が土の上のタンポポだってことわかってないんじゃないの。私たちバラとは違うんだから。でも、あのタンポポ、大丈夫かしら。ここのところずっとお天気続きでぜんぜん雨が降ってないでしょう。私たちはご主人様が毎日水をかえてくれるからいいけれど、もしこのまま雨が降らなかったら・・・」
「きっと、ひからびちゃうわね」
「ほーんと」
バラたちは、笑い出しました。
タンポポは、そんなバラたちを見て自分に笑いかけてくれていると思いました。
タンポポは嬉しくなって、できる限りの笑顔でそれに答えます。
「なあに、あのタンポポ。こっちを見て笑ってるわよ」
バラたちは、ますます大きな声で笑い出しました。
その夜、大雨が降りました。
タンポポはー。
元気です。
ただ、あまりにも激しい雨だったので、タンポポの黄色い顔には、ポツポツ、泥はねがついてしまっていました。
「ねえ、見てよ、あの顔」
「あら、あら」
窓辺のバラたちは、また笑い出しました。
タンポポは、また、自分にむかって笑いかけてくれていると思い、葉っぱを思い切り振ってそれに答えようとしました。するとー。
ピシャ!
すぐそばの水たまりの泥まですくってしまい、顔中泥だらけー。
バラたちは、もっと笑い転げます。
でもタンポポは、それでも葉っぱを振って泥だらけの顔で、精一杯の笑顔を作りました。
翌日。
タンポポの顔は、まっ白な綿ぼうしになっていました。
「あら、いきなり、おばあちゃんになっているわよ」
バラたちは、バカにしたように笑います。
タンポポは、嬉しくて笑顔を作ります。するとー。
フワフワ、フワフワ。
綿ぼうしの綿毛が空に舞い上がりました。
そして、あっという間に、顔が半分になってしまいました。
それを見て、バラたちはまた大笑い。その時ー。
パラッ!
突然、バラたちの花びらが落ちました。
バラたちはおどろいて、笑うのをやめます。
次の日。
タンポポの綿ぼうしは、すっかりなくなっていました。
空には、たくさんの綿毛が楽しそうにフワフワとうかんでいます。
葉っぱと茎だけになってしまったタンポポ。
でも、とても幸せそうです。
出窓のバラはー。
出窓には、花びんだけしかありません。
一体どうしたのでしょう。
その時、まっ白なおうちの玄関が開き、一人の女の人が透明なビニール袋を持って出てきました。その中には・・・。
花びらがほんの少しになった、しおれたバラが二本、うつむいてきゅうくつそうに入っていました。
了