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掌編

ウェアラブル

 



 そこには桜が在った。


「……」


 今ではウェアラブルグラスの向こうでしか無い光景。




 世界はとうに壊れていた。オゾン層が薄くなったなんてそんなレベルじゃない。太陽フレアってヤツが届いた瞬間、電気系統が殆ど逝っちゃって、惑星の生態系まで変わってしまった。勿論回復はしようとしたけど……急速な変態に追い越すどころか追い付けなかった。

 元に戻すには追い越すくらいにならなければならないのに。

 気が付けば世界は壊れた。最初世界は混乱したが一旦終息を見せた。だが一向に一ミリも改善されない事態にやがて爆発した。


 簡単に短期間で壊れた。本当に実に容易かったと思う。


“地球上の皆様、─────”


 ウェアラブルグラスの備え付けスピーカーからネットラジオが流れていた。と言っても、繰り返しのデータ放送だ。

 どこのアナウンサーだったっけ。確かDJではなかったと思う。ああ、どこだった? もうわからないや。


 このウェアラブルグラスが発売されたのは太陽フレアとやらがこの星を襲う数日前だった。太陽フレアが前から言われていたせいか、それなりに対抗策が取られていたらしい。

 じゃあ、他もそーしろって話なんだがまぁ見通しが甘かったんだろう。

 取り敢えずこんなモンだ。ここは廃ビルのベランダ。一箇月前までは団地で人が住んでいた。自分とか、自分の家族とか、自分の隣の人とか、懐いて来た中学生とか。

 今は自分だけのようだ。視認する限りは。

 結構年老いていた父と母は暴動が原因の事故に巻き込まれて死んだ。こう言う風な出来事がまた有り得ないことに多発したのだ。暴動で人が死んだのは元より、絡んだ事故も起きた。重傷者は重症者になり逝かれた電気系統のせいで対処し切れなくなった患者も減弱して重篤、のちに両方亡くなって逝った。

 人口は半月でどれだけ減ったのだろうか。生きている人間は、どれだけ残っているのだろうか。

 ……この頭じゃわかんないや。僕はウェアラブルグラスをオフにした。


 オフのグラスの先では桜が見えた景色はただの枯れ木だった。空を見上げた。どんより雪雲が重たく垂れ込めている。


 カレンダーは四月。今日は四月二十日。おかしいな。


 エイプリルフールは終わっているのに。


 そう言えば太陽フレアが来たのはエイプリルフールだった。


 僕は笑った。エイプリルフールは、たまたま父さんが休みで、団地の中庭の桜が満開で、ベランダで、母さんが作った弁当食べたなぁ。小さい花見だったよ。


 最後のな。けど楽しかった。


 もう、戻らない。


 誰かの世界も僕の世界も。


 在るのは過去の映像の中だけだ。ウェアラブルグラスの中の。




 僕はウェアラブルグラスを置いた。手摺りを跨いで。




 手を離した。




   【Fin.】

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