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魔王の支配

「――班は男女混合の5、6名。各班ごとにリーダーと副リーダーを決めて、その後どういうルートで京都を回るか、時間配分も考慮して相談しろ。15分までに決定事項を書いた紙を提出するように。一分でも遅れたら明日の朝日は拝めないと思え。以上。」

「イエッサーー!」

 教壇に立つ男子生徒の脅し文句にも、生徒たちは意気揚々と反応する。ここはどこの宗教団体だとか、クラス委員や実行委員はどうしたとか突っ込んではいけない。

 鼻筋の通った端正な顔立ちに切れ長の涼やかな瞳。そして堂々たる様で当然のように指示を出すその姿は、ラスボスも裸足で逃げ出す程の支配ぶりだった。

 もはやそれに疑問すら抱いていないクラスメイトたちは、各々班を決めるために立ち上がる。仲のいいグループで集まるのだろう。

 そして教壇を降りた支配者――もとい、生徒会長の夏目綜一郎なつめそういちろうは、入口付近のパイプ椅子に座る雪春に目をやり、とても綺麗な笑顔を浮かべた。

「という訳で、先生は僕と一緒に京都を回ってください。」

 何が“という訳”なのか、その中にどれだけの言葉が凝縮されているのか考えたくもない。

 半年にも満たない付き合いの中で嫌というほど彼の人間性を理解した雪春は、とりあえず流すというスキルを身につけた。

「班は生徒同士で作ってください。」

 全くの無表情で言い放つ。それを見て夏目はどこか遠い目をして「作れるわけないじゃないですか」と言った。彼がこういう表情をすると、差し込む日差しもまるで彼を演出するためだけに存在するかのように静かに照らす。

「学園のためとはいえ、僕が恐怖政治めいたことをしているのは事実です。そんな人間と班を組みたがる人間がいるわけが――・・・」

「綜ちゃん!私と班組みましょー!」

「な、夏目くん!一緒の班にならない?」

「え!?嶺藤さん!?じ、じゃあ夏目、俺も入れてくれ!!」

 夏目の言葉に被せるように夏目の幼馴染みの荻野朔太郎おぎのさくたろう、ミス二葉亭の嶺藤愛莉みねふじあいり、そして彼女に釣られた男子数名が名乗りを上げた。

 夏目は寂しそうな雰囲気を打ち消し、憮然とした顔をしている。

「随分人気者のようで、良かったですね。」

 雪春の言葉に、彼は反論せずにため息をついた。

「あ、でもユキちゃん先生が一緒に回ってくれたら私も嬉しいわぁ!」

 そこで朔太郎がテンション高く声を上げる。

 彼は夏目と同じく生徒会の一員で会計をしている生徒だ。こんな口調をしているが、180cm以上の正真正銘の男だ。初めから人に対して垣根を作らない子だったが、文化祭の一件から雪春に対してますますフレンドリーに接するようになった。

「私は倉田先生と回らなければいけないので無理なんです。すみません。」

 せっかく誘ってくれたが仕事は放棄できない。雪春は素直に謝った。

「僕と対応が違うような気がするのは気のせいですか。」

 夏目が少し恨めしそうに言う。雪春自身、自覚はあるので何も反論しなかった。

 すると愛梨がその辺のモデルでは太刀打ちできないような微笑みを浮かべて雪春の目の前に立った。

「でも、仕事中なのにデートなんかしていいんですか?」

「デート?」

 なぜそこでそんな単語が出てくるのだろう。雪春は愛梨に訪ね返す。すると彼女は周りの女子生徒何人かと笑いながら顔を見合わせていた。

「だって、ねぇ?」

「やっぱりあれ、本当なんだね。」

 一体なんなのだろう。まったく要領を得ない話に雪春が口を開きかけた時、夏目が冷たい声を発した。

「お前たち、無駄話をしている時間はあるのか?」

 その一言でクラスメイトが蜘蛛の子を散らすように席に戻って話し合いを始めた。しっかり教育されているようだ。

 やはり雪春がここに来る必要はなかったかもしれないと、綾倉の言葉に深く納得した。


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