増えました。
「アルバート。そのもさもさしたのは一体何だ」
いつの間に家の中にいたのだろう。気配を感じさせることなく、ルーチェは僕の隣にいた。手には相変わらず棒付きの飴を手にしているし、顔を覆っているフードも相変わらずだ。
ルーチェは初めてあった日から、ちょくちょく僕の所に来ている。近くの町の子か聞いたが、ハッキリNOと言われてしまった。強い魔物がいる(らしい)魔の森にちょくちょく遊びに来る女の子。・・・どれだけ強いんだろうか。
「アルバート、無視するな。また正座させるぞ」
「ごめんなさい」
正座と聞いて、僕はすぐに謝った。正座は嫌だ。あれだけは二度としたくない。
「この子はね、畑の土をほじくり返してた狼君です」
「・・・食うのか?」
「食べないよ!?何でそんなこと言うの!?」
「普通は懲らしめるだろう。それともあれか?非常食として飼うのか?」
「食べることからいったん離れようか、ルーチェ」
そういうと、僕はさっきからうなりっぱなしの狼君の首回りをなで始めた。すると、狼君は気持ちよさそうに目を細めた。
「・・・・・・何でそんなに懐いてるんだ」
「懐かれちゃいましたー」
しまりのない顔でそう答えると、ため息をつかれてしまった。でもね、本当はルーチェが言うとおり、懲らしめようと思ってたんだよ。食べようとは思ってなかったけど。捕まえようとしたらばっちり目が合っちゃって、そのあとは何故か異様に懐かれた。顔をべろんべろんになめられるほどに。
「何で手元に置いてるんだ」
「イヤ、懐いてくれてる動物を無碍にするのはちょっと・・・。それに、いろいろと役立つかもしれないし」
「さわり心地に陥落したわけではなく?」
「うっ・・・」
何故ばれてしまったんだろう。撫で心地が良すぎるせいで顔が緩んでたんだろうか。でもそれも仕方ない。本当に、この狼君は撫で心地がいいのだ。
「・・・畑、どうなったんだ」
「大丈夫。種芋と種をまいた間の所の土だったから、被害はほとんどなし!それに、狼君は自分のおやつを埋めようとしてただけみたいだよ」
そう言って見せたのは、なんかの骨。その骨の太さから、これが人間のものでないことは明瞭だ。人食い狼だったらどうしようと思ってたのは、ルーチェには秘密だ。
「ルーチェ、この子の名前どうしようか」
「やっぱり飼うのか」
「うん」
「・・・・・・変人」
「それで呼ぶのはやめて」
地味に傷つくから本気で止めて欲しい。
「変人以外の何物でもないだろう。狼を飼うなんて。というか、そいつは狼じゃないぞ」
「え」
四月四日
畑を荒らしていた狼に懐かれました。でも、ルーチェにはそれは狼ではないといわれました。ルーチェ曰く、狼君は魔獣だそうです。僕には狼以外に見えないのに、ルーチェはすぐに気づきました。ルーチェの謎は深まるばかりです。いつか、自分がどんな人か喋ってくれたら嬉しいです。
狼君、もとい魔獣くんの名前は二人で考えました。でも、僕が考えたのはルーチェにことごとく却下されました。シャイニングスターは結構かっこいいと思ったのに・・・。名前はルーチェが考えた「ヴォルフ」になりました。我が家の住人が増えて、とても嬉しい日になったと思う。