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シボレテ  作者: ジャンガリアンハムスターは世界最強種
9/10

理解者

私は、凡てを話した。

話を黙って聞いていたシンタローが真剣な顔で口を開く。


「雪ちゃん。

 俺、実は、親から性的虐待を受けていたんだ」

「えっ!!」

「うん。それで、俺は何人か子供を出産して、何人かは流産しちゃって、

 医者からもう妊娠は危険ですよ、って言われても虐待は終わらなくて。

 この関係は、何年も続いたんだけれど、仕事場で、素敵な人と出会って、

 俺はその恋人と結婚したいから、母にこんな関係は辞めるよういったら、

 母が激怒して、俺を監禁したんだ。俺は、もう堪らなくなって母を絞め殺したんだ。

 これ聞いて、俺の事嫌いになった?」



ならない。隣で一番の理解者になってやりたい。


遅ればせながら、シンタローの言わんとしている事を理解する。

昭和43年に実際に起こった尊属殺重刑規定違反判決の事だ。判決は昭和48年4月4日に出た。



「私が、あの日あんなに脅えていたのは、私の記憶を再び体験してしまったからだと思う」

「同じ体験?どれが、該当するのか分かる?」


 『ただいま』

――――――痛いいぃいいいイイイィィイイ―――――――

 『おかえりなさい』

――――――怖いよぉぉォォォオオオオオオ―――――――

 久しぶりの男の顔。

――――――このままでは、殺される!!――――――――

 崩れて笑顔に。

――――――このままでは、お母さんと私は死んでしまう!!―――――――

 『よ く も や っ て く れ た な』


よくもやってくれたな。

フラッシュバックして、再び、私は過去に甦ってしまう。


「大丈夫だよ。大丈夫」


背中に温かい温もりを感じる。

シンタローが、私を包み込みように腕をまわしてくれて、背中を優しく撫ででくれる。


――――――大丈夫よ――――――


うん。大丈夫。


「あの男は笑って、『よくもやってくれたな』って言ったの」

「うん。」

「怖かった。仕返しされた事も、それを楽しみにしていた事も。」

「もう、大丈夫だよ」

「うん。大丈夫」


私は、本当はとても怖かったのだ。

お父さんやシンタローに決定的に避けられる事が。

自分にとって、本当に大切な存在である人から、怖がられ、軽蔑され、嫌われる事が、本当に本当に怖かった。

お父さんやシンタローを何となく避けてしまったのは、自己防衛本能からか――――イヤ違う。そうじゃない。自分が傷つくのが恐ろしくて、自分から距離を置いたのだ。

傷つく前に、自分から離れようとした結果なのだ。


でも、避けられた方の気持ちはどうだったんだろう。

何となくだが、避けていた私と同じで、ご飯が全く美味しくなかったのではないかと思った。




それから。

その翌年、私は一浪の末、何とか希望大学の教育学部に合格した。

すると、シンタローが「同じ大学に行こうかな」ときた。


「へぇ?数学があれだけ出来るんなら、理系とか?」

「う~~ん。実は、心療内科とか精神科とか、気になるんだ」


ドクン


胸がうたれた。

私と母は、あの事件後、カウンセリングに行く事が義務化された。特に私は2年間の間、月に一度は通っていたのだ。

私はその話をしてた記憶がある。


「カウンセラーになりたいの?」

「漠然と、だけどね。」

「そっか。お父さんにも話すと良いよ。本当に、いつも良いアドバイスをしてくれるから」


と私が言うと、シンタローは何故か拗ねてしまった。







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