チートな義弟と平凡な姉
あれから、私は勉強を口実に21時に帰るような事はしなくなった。
夕方に帰り、お母さんとシンタローと3人で夕食を食べる。食器を洗い、部屋で90分位勉強する。
気分転換に居間に行くとお父さんが帰ってきてご飯を食べている。
お父さんとは、あの日を境により仲良くなった。
良き父として、相談相手として、私にとって本当に掛替えのない人だ。
この日は、うちのチートな弟に数学の勉強をお願いしていた。
こいつはわたしの受験現役時代に、大学入試レベルの〇会の数学の問題ですら解いていた。
当時はシンタローも受験生だったので遠慮していたが、現在は高校1年生だし、家庭教師をお願いしていた。
私はその通信教育のみで、塾には通っていなかったので、シンタローの解説は分かりやすく、お金も掛からないし重宝していた。
勉強が一段落して、夕食の準備に取り掛かる。
今日は両親はデートに行っており、二人のみなのでシンタローの大好きな鳥の唐揚げだ。
シンタローにも手伝ってもらう。
漬物、キャベツを切ってもらい食器に盛ってもらう。
私は唐揚げをあげて、朝の残りの茄子の味噌汁をよそう。
パリッ ジュワ~として、美味しい。
突然シンタローが話し出した。
「俺には話してくれないの?」
「話?」
「俺だって、黙っているの限界。
あの日から、父さんとも最近嫌味なくらい仲良いじゃない。俺だけ仲間はずれにしないでよ。」
嗚呼。今までこれに悩んでいたのか。
シンタローは本当に良い子だなぁ。と目頭が熱くなる。
直球で、ちょっとシスコンだけど、私の心に土足で踏み入る様な事を決してしない。
「何があったの?話せる所まででいいんだ。」
「何が知りたいの?」
「全部。雪ちゃんがどんな事をされたのか。どんな事をして、どんな事を考えているのか凄く凄く知りたいんだ」
「長くなるよ」
「いいよ。俺にも、ちゃんと、過去の話をして欲しい。俺は何も知らないから。」
モッキュモッキュ。
???
あれ?何だか、噛みあわない。
「知らないの?」
「知らない」
「私が部屋に閉じこもった日に聞いたでしょ?」
「何も」
「初対面の日は?ホテルで中華料理食べた日、お母さんと二人になったでしょ?何の話したの?」
「え?俺の好きな食べ物とか苦手な物とか、あ~あと、雪ちゃんの好きなタイプとか」
「お父さんやお母さんから聞いてないの?」
「何も」
「何も?さっきから何もってどういう意味?
『先日急に変になったのは、どの部分が問題なの』ってこと?
それとも『先日の事だけじゃなくて、その原因それ自体知らない』ってこと?」
「後者の方。具体的な事は本当に何も知らない。
何となく男の人が苦手なのかな、とか大きな音にビクッとするなって事くらいしか、知らない。」
呆然とした。
―――――『知らない』?
勝手にシンタローはチートだから、何でも出来るし知っているもんだと勘違いしていた。
嗚呼。
この子は、何て真っ直ぐな子なんだろう。
私は何て周りの人間に恵まれているのだろう。
本当に、大好きだ。
シンタローは、私を嫌いになるかもしれない。
私を、軽蔑して『人殺しがっ!!出て行けッ』って言うかもしれない。
でも、この子は今も真っ直ぐ私を見ている。
―――――大丈夫よ―――――
頭で、誰かが囁いた。
うん。大丈夫。