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Fランクの才能なのに、九州の天才たちを圧倒しちゃった?  作者: 松桑


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2/2

【2】幼馴染

 神谷悠人は日記帳を適当に放り投げ、まったく気にも留めなく、そのままベッドから起き上がる。

 今日は昼に天赋の検査がある。時計を見ると、もう午前十時。そろそろ出る時間だ。


 悠人の家は十六階にあり、ワンフロアに二戸だけの造りになっている。

 玄関のドアを開けると、ちょうど向かいの部屋のドアも開いた。


 そこから現れたのは、長い髪を揺らす美少女だった。

 肌は白く透き通るようで、顔立ちはまるで欠点がない。


 大きく丸い瞳は明るく澄んでいて、まだ完全に大人びてはいないものの、すでに人目を引く美しさを備えている。


「お、澪じゃないか。最近まったく顔を見ないけど……もしかして、わざと俺を避けてるのか?」


 悠人がわざとらしく声をかける。

 だが、水瀬澪はまったく反応せず、そのままエレベーターの前まで歩いていった。


「天赋の検査に行くんだろ?」


 悠人は先回りして、下行きのボタンを押す。

 二人とも十八歳になったばかり。今日は検査の日だ。


 本当は澪に何か話してほしくて聞いたのだが――彼女は相変わらず何も答えない。


「なあ、小娘。なんで無視するんだよ。まだ怒ってるのか?」


 その呼び方を聞いた瞬間、澪の表情がわずかに揺れた。

 しかしすぐに、冷たい表情へと戻る。


「あなたには今、彼女がいるでしょう。言葉には気をつけて。柳瀬霞に誤解されたくないから」


 その口調はどこかよそよそしく、まるで見知らぬ相手に話しているようだった。


「俺たちの間で今さら何を気にするんだよ。俺が小さい頃、開きっぱなしのズボンで走り回ってた姿だって、お前見てるだろ?」


 ちょうどそのとき、エレベーターの扉が開いた。

 澪は中に入り、短く一言だけ吐き捨てる。


「……バカ」


「お、まだ気が強いな」


 冷たくあしらわれても、悠人はまったく気にしない様子で笑いながらエレベーターに乗り込む。


 怒っている女をなだめるのは本当に難しい。

 悠人にできるのは、こうして厚かましく付きまとうことくらいだった。


 エレベーターの中で、澪はわざと距離を取り、近寄らせまいとする。


「顔色悪いぞ。誰かにいじめられたのか?」


 悠人は袖をまくりながら、大げさに言った。


「誰だよ、うちの澪お嬢様を怒らせたやつは。言ってみろ、俺が代わりにぶん殴ってやる!」


 どれだけふざけても、澪はまったく反応しない。

 やがてエレベーターは一階に到着した。


 悠人は急いで外へ飛び出すと、自分の電動バイクにまたがった。

 そのまま軽くスピンさせて、澪の目の前で止まる。


 そして自分では格好いいと思っている笑顔を浮かべながら、こう言った。


「なあ、俺のバイク乗ってくか?」


 澪は無表情のまま、何も言わず悠人の横を通り過ぎると、自分の電動バイクに乗ってそのまま走り去った。


 悠人も電動バイクにまたがり、スピードを最大まで上げてすぐに追いつく。

「おい、ちょっと待てよ!」


 しかし澪は振り向きもせず、むしろ速度をさらに上げた。


 高校を卒業すると、多くの者がちょうど十八歳になる。

 それが、天赋を検査する年齢なのだ。


 もし測定された天赋が低ければ、進めるのは普通の大学くらいで、あとは職人の道を学ぶしかない。


 天赋が低い者でも一応は修行できるが、武道の道で大きな成果を出すのはほぼ不可能だ。時間の無駄になるだけで、普通の大学に進む方が現実的とされている。


 一方、優れた天赋を持つ者は武者大学を目指す。

 そして尊敬される武者となる。


 武者は寿命が長く、若さを保つこともできる。

 その力は絶大で、ひとたび動けば山を動かし海を割るほどとも言われている。


 この世界は強者がすべてだ。

 武者は名声、地位、金、そして美しい伴侶――すべてを手に入れる。


 たとえ一般人が九州一の大富豪になったとしても、強力な武者の社会的地位には到底及ばない。


 ……


 二人が検査会場に着いた頃、江淮(こうわい)高校のグラウンドにはすでに多くの人が集まっていた。


 本来、検査は昼から始まるからこんなに早く来る必要はない。


 それを見た悠人は思わずぼやく。

「こんなことで張り合ってどうするんだよ……」


 悠人は背が高く、人混みの中でも目立っていた。

 しかもまだ成長期で、将来は少なくとも一八二センチくらいにはなりそうだ。


「なあ、なんで俺を無視するんだよ?」


 悠人が澪に話しかけていると、背後から声がした。


「悠人くん!」


 柳瀬霞の声だった。


 振り向くと、胸が豊かで、腰が細く、脚が長い、美しい少女が立っている。

 体のラインがはっきり出るスカートを着ていた。


 澪はどちらかと言えば清楚で素朴な雰囲気。

 それに対して霞には知的で大人びた魅力がある。


 顔立ちだけなら澪のほうがずっと美しい。

 だが男性に選ばせれば、多くは霞を選ぶだろう。


 澪のような氷のような美人は、遠くから眺めるには最高だが、近づくにはどこか壁がある。

 それに対して霞は、距離を感じさせない魅力を持っていた。


 霞は悠人の腕に抱きつき、嬉しそうに言う。


「悠人くん、私ずっと前から来てたの。もうかなり待ったよ」


 悠人は腕が柔らかい感触に包まれ、思わず顔が緩む。


 そのとき霞は、隣の澪に気づいたように言った。


「あ、あなたも来てたんだ」


 澪は何も答えない。


 仕方なく悠人が説明する。


「家を出たらちょうど澪に会ってさ。それで一緒に来たんだ」


 前方には黒い小さな部屋がいくつか並んでいる。

 このあと生徒たちは順番にその中で天赋の検査を受ける。


 霞はその黒い部屋を見つめ、両手を合わせて祈った。


「お願い、どうか最高ランクの天赋が出ますように!」


 その言葉を聞いた瞬間、悠人はなぜか今朝見た日記の内容を思い出す。


「もし俺が……一番ダメなFランクだったら、別れるか?」


 霞はすぐに首を振った。


「何言ってるの? そんなわけないでしょ。誓ってもいいよ」


 そして少し怒ったように言う。


「私のこと、そんな人だと思ってるの?」


 その言葉を聞いて、悠人は少し後ろめたくなった。

 正体も分からない日記のせいで、彼女を疑ってしまったのだ。


 天赋のランクは上から順に


 SSS、SS、S、A、B、C、D、E、F。


 SやSSは極めて珍しく、数万人に一人とも言われる。

 そのレベルなら、簡単に一流の武者大学に入れる。


 Aランクなら一流大学、

 Bランクは二流大学、

 CとDは三流大学。


 EとFは最低ランクで、ほぼ将来性はない。

 修行を続けても時間の無駄とされ、普通の大学へ進むのが一般的だ。


 やがて時間は昼になり、検査が始まった。

 生徒たちが順番に黒い部屋へ入っていく。


 霞はにこっと微笑み、口元に小さなえくぼを浮かべた。


「そういえば、この前言ってたでしょ。家の炊飯器が壊れたって」


「うん」


「だから新しいの買っておいたの。私の車に積んであるよ。あとで渡すね」


 “炊飯器”という言葉を聞いた瞬間――


 悠人の背筋にぞくりと鳥肌が立った。


 まさに、あの日記に書かれていた言葉だった。


 何か言おうとしたそのとき――


 高台から声が響く。


「神谷悠人、すぐ検査室へ!

 神谷悠人、すぐ検査室へ!

 神谷悠人、すぐ検査室へ!」


「あとで話す」


 悠人は霞にそう言い、黒い部屋へ走った。


 部屋の床には魔法陣のような模様が描かれている。

 中央に立てば、自身の天赋が覚醒する仕組みだ。


 室内には悠人一人しかいない。


 彼が円の中心に立つと、足元からまばゆい白い光が広がった。


 身体がゆっくりと宙に浮かび上がる。

 白い光が体内へ流れ込み、言葉では表せない力が全身を駆け巡った。


 黒い部屋は外から見えない構造になっている。

 学生のプライバシーを守るためだ。


 この世界には邪道の修行者の組織も存在する。

 彼らは珍しい天赋を持つ者を狙って狩ることがあるからだ。


 やがて悠人はゆっくり地面に降りた。

 体の奥から力が湧いてくる感覚がある。


 彼は小さくつぶやいた。


「俺が……Fランクのはずない」


 検査機がすぐに一枚のレポートを印刷する。

 そこには検査者の天赋と属性が記されている。


 悠人は紙を手に取り、目を落とした。


 書かれていたのは、たった二行。


【天赋ランク】:F

【属性】:火属性


 悠人はその文字を呆然と見つめた。

 手がわずかに震える。


「……あの日記に書いてあったこと、本当だったのか」


 だとすれば――


 未来で霞は自分と別れ、

 妖族は天堑長城を突破し、九州へ南下し、

 澪は死に、


 そして――


 人類は滅びる。

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