第99話 天空の決戦 #2
「守護龍さん、ギリギリで体当たりを避けられる?」
「えっ? 風とか、ぶわって、すごいと思いますよ。大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫。とりあえず、一気に終わらせる気で行くよ。お姉さんと君は、衝撃に備えておいて」
兵士長の娘に言う。すぐに彼女は、僕がなにをする気か気づいたようだ。
「おっ、お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「さあ、分かんないけど……。成功すれば勝ちだからね。やってみる価値はあるさ」
「しくじったら死ぬぜぇ?」
聖女も分かったのか、言ってくる。それに頷いて、笑う。
「善処しますよ。死ぬかもしれないのは、どの瞬間でも同じですしね」
「まったく……。こういう、己の身を危険に晒す賭けの時だけは、思い切りがいいな、お前は。普段からそうしろ」
頭上から魔王が言ってくる。それに、苦笑した。
「ごめんなさい。でも、諦めて付き合ってくださいね、魔王さん」
「仕方あるまい。さあ、来るぞ。死ぬなよ、小僧」
「了解です」
答えながら、左手を握り、開く。篭手の具合はいい。
僕の目には、豆粒のように小さな黒い塊が、前方に見えていた。あれが、巨龍か。
それがじわじわと、大きくなっている。じわじわという感覚だが、実際には凄まじい速度なのだろう。
しくじれば、僕の身体は粉々になって死ぬ。それくらいの速度だろう。
僕は集中して、剣気を身体から呼び起こした。
それを左手、両足に配分して込める。
「守護龍さん、大体でいいから、ぶつかるまでのカウント、できる?」
「はいっ。あの速度だと、もうすぐ……十秒前です! 九、八――」
カウントダウンが進む。
僕は、息を吐いて、吸った。全身に、力を込める。
「五、四、三……」
黒い点は、もう、巨龍だと分かるくらいまで近づいてきている。
カウントは、もう必要なかった。僕自身の感覚でタイミングを取り、思い切り破壊龍目がけて、飛んだ。巨龍との正面衝突は避けるため、少しだけ軸をずらして。
守護龍は、急激に降下して、体当たりを躱そうとする。
僕は、破壊龍の鼻先目がけて、左手を伸ばした。
破壊龍は、風の抵抗を減らすためか、翼を畳み、矢のように飛んできていた。
そこまでは、想定内だ。
僕は巨龍の鼻先に、狙い通り、左手をかけた。衝撃を殺すため、手がかかる寸前に手を引いてから掴む。
そこから先は、感覚と勘だ。
凄まじい衝撃が、左腕にかかった。べきっ、ごきっ、と肘、肩から嫌な音がした。
だが、気には留めない。剣気で強化した指を鼻先に食い込ませる。
折れた左腕が、逆方向へと曲がろうとする。突進によって生まれる猛風が、身体を跳ね飛ばそうとする。それに逆らわず、僕は巨龍の真上へと身体を回転させて逃がした。左手が鼻先をしっかり掴んでいるから、飛ばされはしない。
破壊龍の体当たりは、空を切った。守護龍は、見事にギリギリで回避した。
通過して即座に、巨龍は減速しようとしてくる。そのタイミングを見計らって、僕は運動エネルギーを殺すための姿勢制御をした後、左手を放した。
当然の帰結として、僕は破壊龍の背中に降り立つ。
左手が犠牲になったが、狙い通りの状況を手にすることができた。
さて、ここからどうするか――
僕はしゃがんで、破壊龍の背中に、剣を持ったまま右手を当てた。
「聞こえますか、破壊龍さん」
呼びかけてみる。頭の上で魔王が呆れる気配があったが、なにも言ってはこない。
「聞こえますか。あなたにも、心があるなら……僕に答えてくれませんか。誰も殺したり、壊さないで済む方法があるなら、それを一緒に考えませんか?」




