第98話 天空の決戦 #1
守護龍は大地を蹴ると、みるみるうちに高度を上げていった。
数日前の僕らであれば、それだけでぺしゃんこになるか伸びていただろうが、今はもう、どうってこともない。無限の青空を見据えて、気持ちを整える。
上空、何百メートルだろうか。訓練ではおなじみの高さで、守護龍は停止した。
「どうしましょう、勇者さん! ちょっと移動とか、したほうがいいでしょうか?」
「いや、都の真上のほうがいいと思う。そのほうが、たとえばあの火炎弾とかを吐かれても、都には落ちないと思うから」
「了解です!」
「でも、常に破壊龍の様子、攻撃方向には注意していて。流れ弾が、絶対に都や町、村に行かないように位置取りしてほしい。できるだけ、山や海を背にするんだ」
「それも、了解ですっ!」
僕は、兵士長の娘と聖女に目配せをした。彼女らも頷く。
兵士長の娘は、剣ではなくて弓矢を装備していた。聖女は手ぶらだ。一応、さっき修道士にもらった謎の小袋は懐に持っているが。
聖女は魔法を使っての防御や掩護を担当する。
兵士長の娘は、弓矢を使っての掩護を担当する。
聖女の魔法の力は先日証明済みだ。兵士長の娘は、僕ほどにはまだ至らないものの、剣気を使用することはできる。矢に込めて飛ばすことも、一応できる。ダメージを与えることができるかは分からないが、注意を引いたりはできるはずだ。
魔王は、僕の頭の上にへばりついて、主に僕に対する攻撃の防御を担当する。
そして僕は、ここまでの訓練である程度は戻ってきていた剣気を使用して、攻撃に専念する。
最大の問題点は、僕の剣気は破壊龍に通用するのか、ということだが――
守護龍と呼吸を合わせて飛ぶ訓練は、まさしく、剣気を読み、制御する訓練と同じでもあった。そのおかげで、僕の剣気はそこそこ、戻ってきている感じがある。
光波にして飛ばすまではできないが、剣に纏わせて斬る、ということは、なんの問題もなくできる。訓練のおかげで、腕や脚に剣気を込め、身体能力を強化する、ということもある程度まで可能だ。
それを踏まえ、魔王は僕を見て、破壊龍を十分に殺せる、と判断してくれた。
ただし――それはあの巨龍に対して極限まで肉薄して、直接攻撃することが条件だとも言った。
となれば、方法はあまりない。
絵本なんかでは、龍の背に乗り込んだ勇者が、空中でそのまま悪い龍とやり合っているような、そんな描写だったが。あまり、それは現実的ではないだろう。
確実なのは、機を見て破壊龍の背に飛び移り、斬り伏せてしまうことだ。
飛び移るのが成功さえしてしまえば、あとは完全に無防備な相手を斬るだけになる。
問題は、どのようにして飛び移るかだが。
そのための隙を、兵士長の娘の弓矢や、聖女の魔法、あるいは魔王の魔法か、守護龍の動きで作り出すことになっている。
つまり、事は単純だ。
僕が破壊龍に飛びつくことができれば、勝ち。
そうできずに、僕が剣気を操れないほど疲弊するかやられてしまえば、負け。
そういう戦いになる。
僕は気を引き締めた。
守護龍が言ってくる。
「勇者さん! すごい速度でクソ龍、真っ直ぐこっちに来ます! 待ち構えますか!」
「うん。とりあえず、待ち構えよう」
僕たちを前に、破壊龍がブレーキをかけて、対峙したところから、戦闘開始だ。
が、守護龍が焦ったような声を出した。
「まっ、まさか、アイツ……」
「どうしたの?」
「勇者さん! アイツ、体当たりしてくる気です! 減速しません!」
「ええっ!?」
いきなり、プランが崩壊した。確かに、あっちにはわざわざ止まる理由はないのか。目一杯加速しているなら、そのままぶつかってやればいい。以前の戦いで、守護龍に体当たりされているし、その意趣返しのつもりでもあるんだろうか。
僕は、内心で笑った。剣を抜いて、右手に持つ。
――なら、もう、理想の形は手にしたも同然じゃないか。




