第94話 守護龍ちゃん #3
街を歩きながら、守護龍は言った。
「人間さんたちが……こんなふうに、一生懸命生きているなんて、思いませんでした。地上には、楽しいことがいっぱいあるっていうことも、知りませんでした。ひとつひとつの命が、あんなにも……尊いものだっていうことも、今日、初めて知りました」
「ずっと、封印されていたんだもんね」
「はいっ。お話したことがあるのは、勇者さんと、魔法使いさんだけで。私は、最低限の知識しかなくて。とにかく、あのクソ龍が復活したらやっつけるんだってことだけ、考えて眠っていました」
きょろきょろと、守護龍は街を見回す。
「あの、勇者さんの作戦は、絶対正しいと思います! この街を……私は、あんなクソ龍に壊されたくない。みんなを……守りたい。そのために戦いたいって、今日、すっごく強く思いました!」
「うん。必ず、僕たちの手でこの街を守ろう」
僕が答えると、守護龍は頷くと、笑顔で言った。
「はいっ! 絶対守りますっ! この街のみなさんを守れた、っていう記憶があれば……また眠りについても、きっと、そんなに寂しくないはずですし!」
その言葉は、僕をどきりとさせた。
そうか、と思う。
この子は、この大陸を守る、守護龍だ。そして、目下の敵は、黒い巨龍だ。
それを倒せば、ひとまずはこの子の役目は終わる。北の封印されしものは、僕と魔王で倒すのだから、この子の出番はないのだ。
つまり、また、眠りにつかないといけない。
僕は、この守護龍の孤独に、思いを馳せた。
何年も、何年も……あの箱の中で、自分の出番はいつだろう、と思って、じっとしていたのだろう。
この子はきっと、寂しがり屋なのだ。
だから自分で出てきてしまったし、ステーキハウスでは、あの黒い巨龍が出てきてよかった、ということも言った。
それを考えると――問題は、黒い巨龍を倒すことだけではなくなっていた。
僕は、みんなに幸せになってほしい。
それはもちろん、守護龍である、この子にもだ。
そのための方法も、なんとか考えつかないといけない。
が、守護龍が、人間に混じって、生きていけるものなのだろうか。
頭を必死に回転させながら、僕は、守護龍に手を差し出した。
一瞬きょとんとしたが、すぐに意味が分かったのか、僕の手を握ってくれる。
もう片方の手は、兵士長の娘が握った。
そうして夕暮れの道を歩きながら、彼女が言う。
「うふふ。なんか、妹ができたみたいで、嬉しいなぁ」
「私も、楽しいです!」
「仲良きことは美しきかな、だねぇ。じゃあ、そろそろメシの時間だねぇ。今日はなに食べる? 今日は呑みたいんだけどねぇ。馬刺しでもいっとくかい?」
「ばさし……?」
「馬の肉の刺身だよ」
「そんな! お馬さんを食べるなんて! とんでもない! ダメです!」
「お、おっと。そりゃ、すまなかった。ノンデリ聖女なもんでねぇ、勘弁しておくれ。おい猫、なんか行きたいとこないか?」
「先日の、ステーキハウスがいいな」
「牛さんも豚さんもダメですー!」
「な、なに。では、肉類全般アウトではないか……!」
緊急事態だ、という顔になる魔王。だが、守護龍相手に意見をゴリ押す気はないらしく、あっさりと引き下がる。
兵士長の娘が、ひとつの店を指した。鉄板焼と書いてある。
「じゃあ、お好み焼きなんてどう? 巨大お好み焼きのお店。すっごいよ。普通サイズで、直径五十センチくらいあるから。大盛焼きそばもすごいよ。お父さんがチャレンジして、お腹破裂して死にそうだ、ってなってたの」
「ほう、ほう……。小僧と初日に見たのぼりの店だな。悪くない。守護龍も、それなら構わぬだろう」
「おこのみやき? やきそば?」
「うん。お肉が入っていないのがあるから、安心して食べられるよ」
僕が言うと、守護龍は元気よく頷いた。
「じゃあ、それにします!」
「まったく、手間のかかる」
「ふっ、それがいいんじゃないか。しかし、お好みかぁ。じゃあ、ビールだな今日は」
決戦前の、貴重な寛ぎの時間――
僕は歩きながら、それを感じていた。
いつまでも、こうしていたい気持ちすらある。
が、楽しいときは、いつか終わってしまう――つい、そんなことを考えてしまう。
飛び跳ねる守護龍を、僕と兵士長の娘で持ち上げたりしながら、進んでいく。
はたして、戦いは、どんな結末を迎えるのか。
それは、僕と魔王の最終決戦の、ちょっとしたリハーサルのような……
なんとなく、そんな気が、どこからから湧いてくる感じもあるのだった。




