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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第90話 守護龍の背 #2

 大体上空を二周ほどして、彼女は訊いてきた。


「あのー、勇者さん、お喋りは?」

「ご、ごめん。も、もうちょっとゆっくりできる?」

「ええっ、これよりも遅くですか? 忍び足モードですよ、それじゃあ」

「ごめん、その、生身の人間には刺激がね……」


 僕は、なんとか答えた。肩の上の魔王は、がっちりと身体を強張らせて、僕にしがみついている。

 なんとか、速度を時速六十キロくらいまで落としてくれた守護龍は、旋回しながら話しかけてきた。


「でも、この時代は空を飛ぶ乗り物がないみたいですから。みなさん、慣れてないんですねー。勇者さん、空を飛ぶのは初めてですかー?」

「うん、そうだね。君の時代には、空を飛ぶ乗り物が当たり前だったの?」

「はいっ。空飛ぶ絨毯じゅうたんとか、知りませんか?」

「そんなのは、おとぎ話でしか聞いたことないなぁ。他にもある?」

「はいっ。空飛ぶ椅子、空飛ぶ机、空飛ぶお釜とかもありましたよ!」

「椅子、机はともかく、お釜?」

「はいっ。くるくる回って飛ぶんですよー」

「昔のものは、なんでも飛んだんだね」

「はいっ、お馬さんや、牛さんも飛ぶのがいました!」

「ホントになんでも飛ぶんだな……。ベッドが飛んだりしない?」

「ベッドが飛ぶわけないじゃないですかー!」


 どういう基準なのか、さっぱり分からなかったが。

 そんな具合で飛び続けていると、魔王が言った。


「ちょっとは慣れてきたぞ。もう少し、スピードを上げてみろ」

「守護龍さん、聞こえた? 魔王さんが、スピードを上げろって」

「え? はいっ、分かりました! じゃあ――上げまーす!」

「ば、馬鹿っ、誰が倍以上のスピードにしろと――きゃああああああああ!」


 おそらく、魔王は時速八十キロに戻せ、くらいの感覚で言ったのだろうが。

 いきなり、守護龍は急加速した。


 周囲の景色が線のようになって流れていく。吹っ飛びそうな身体で、なんとか守護龍の背にしがみつく。


 そんなふうに乗っていて、僕は不思議に思い始めた。

 龍の翼の動きとは別に、推進力が生まれている感じがあるからだ。

 おそらく、守護龍は僕の剣気と同じもの――聖なる力を噴射するような感じで、こういう加速を得ているのだろう。


 僕は小さい頃、聖女に習った剣気の応用方法を思い出していた。


 剣気は、勇者が使用する場合、便宜上剣気と呼ばれるが。その正体は魔法と源を同じくする生命エネルギーであり、工夫次第で様々な使い方ができる――そう僕に教えてくれたのは、そもそも聖女だった。


 広く知られているのは、その力を剣に纏わせて、切れ味を上げる、というやり方だ。剣気を周知させた大昔の達人が、そのように使っていたという。だから、剣気と呼ばれるのだが。


 しかし、聖女は、完全に剣気を知覚できる僕には、いろんな使い方や可能性がある、ということを説明してくれた。


 足に剣気を集中させ、踏み込みと同時に爆発させるように解放すると、すさまじい速度で突進できる、とか。全身に纏うことで、炎や風雨だけでなく直接的な攻撃からも身を守る防具にできる、とか。


 最終的に僕は、剣に纏わせた剣気を鋭利にして飛ばす、という技を身につけた。


 限りなく薄く剣気の刃を作ることで、どんなものだろうと両断できるし、距離が離れていても関係がない。

 剣気を刀身に纏わせて普通に戦っている状態から、即座に飛ばすこともできた。

 たとえば相手が剣を躱そうとバックステップをしたら、それに合わせて剣気を飛ばせば、確実に殺傷できる。

 僕の編み出した、必殺技だった。


 守護龍は、それと同じ発想とか理屈を使って、空を飛んでいるんだな――

 内臓が押しつぶされそうな感覚を味わいながら、僕は、そんなことを考えていた。


 ぼくらが黙ったのを不審に思ったのか、守護龍はすっと停まった。


「あのー、大丈夫ですか?」

「う、ううん……。自分の技の歴史を振り返るくらいには、死ぬかと思ったところ」

「ご、ごめんなさい。魔王さんは?」

「……死ぬかと思った」


 魔王は、ドスの利いた声で言った。


 どうでもいいが、悲鳴を上げる魔王というのは、北の山で初めて飛んで以来だ。

 普段はややハスキーな、低めの声で喋っているのだが。悲鳴は甲高い。もしかして、頑張って魔王っぽい声を作っているのだろうか。あるいは、緊急時であれば、女の人はみんな、ああいう高い声で悲鳴を上げるものなのだろうか。

 それについて訊ねたら殴られるのは分かっているため、胸にしまっておく。


 それから、ひとまず僕たちは地上へ降りることにした。時間にして、一時間弱だろうか。一応は、経験になったと思う。


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