表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/105

第86話 ステーキハウス #2

 それを見て、守護龍が誰にともなく、言った。


「みなさん、とっても楽しいです! なんだか……勇者さんを思い出しますっ!」

「それは、君を作った勇者?」

「はいっ。みなさんみたいに、笑いの絶えない、とっても面白い人でした」


 言い切る守護龍を見て、一体どんな人だったのかと思う。ひょっとして、僕みたいに歌を歌ったりしたんだろうか?

 それから、守護龍は言い足した。


「あの龍が蘇ってしまったことは、とても残念ですけど。でも、ちょっとだけよかったかなー、なんて思っちゃっていたりもして……」

「そう? なんで?」

「いえ、そのおかげで、こうしてみなさんに会えたので。でも、よくない考えですよね。ごめんなさい、私、アイツをぶっ殺してみなさんを守らないといけないのに!」


 謝る守護龍を見て、聖女は笑っていた。


「どんな物事にだって、いい面と悪い面ってものがあるもんさ。悪い面だけってのは、まあ……まずない。反対に、いい面だけってのも、まずないけどね。でも、だからこそ、みんな生きていけるのさ。とんでもないくらいに悪いことが起きたって……探せばどこかに、良いことは転がってる。それがパンくずひとつ程度でも、米粒一粒程度でもね、それさえありゃあ、生きていけるもんなんだよ」


 テーブルが静まり返る。みんなが、ぽかんとして聖女を見ていた。

 やがて、聖女は酔いを原因とせずに、顔を赤らめ始めた。


「……やべえ、今のなし。ガラにもないにもほどがあるわ。忘れろ」


 それとなく言うのだが、全員、まだ黙っている。

 聖女はそわそわと、煙草に火をつけ始めた。羞恥心のせいか、酔いのせいか、手が震えている。

 と、魔王が言った。


「なあ、腐れ聖女よ」

「……なんだい」

「さすがに、今のは……クサすぎるぞ」

「わ、分かってるよ。なんか気持ちよく酔ってるから言っちまったんだよ」

「なにに酔ったんだ。自分にか」


 その言葉に、兵士長の娘がぷっと吹き出した。

 聖女は、髪をかき上げてますます赤面した。


「いいから忘れなって! おい、少年、忘れたよな!?」

「いえ。普通に良い言葉だったんで、ずっと覚えときます」

「やーめーろー! ドSか!? せめて笑ってくれ! 『この人、いいこと言ったな』みたいな目で見るな! 私は元魔王だぞ!? 一応プライドってもんがあるんだよ!」


 あったのか、と、むしろそっちに僕は驚いたが。


「私も覚えとこ。シスターらしい、いいこと言ってたし」

「はいっ。眠りについても、きっと私も覚えてます!」

「やめろー! クソ、マジで忘れてくれないと、本気でガチの忘れろビーム撃つぞ!」


 と、聖女は人差し指を立てて狙いをつけてきた。

 それを見て、全員で慌てて手を振る。


「待ってください。たまに思い出すくらいにしておきますから。ビームはなしで」

「……オーケー。それで手を打とうじゃないか」


 聖女は手を下ろした。

 打つんだ、と内心で思ったが。

 聖女ははあ、と息をついた。


「もう、酔いが覚めちまったよ。なあ、少年。お詫びに一緒に風呂入ろうか」

「イヤです」

「ちっ」

「ふろ?」


 と、守護龍が言葉に反応した。それを見て、聖女が説明する。


「湯船に熱ーいお湯を入れてねぇ、人間はそれに浸かって、一日の疲れとアルコールを飛ばすのさ。そういや、そういうのは知らないのかい」

「はい。人間の文化については、あんまり学習していません。勇者さんは、そういうことをたくさん知りすぎると、かえって良くないかも知れないからって……」


 そうか、と僕は頷いた。


 この子は、好奇心旺盛な性格をしているように思う。そう作られたのか、長い――長すぎる孤独が、そんなふうにこの子を変えたのか、分からないが。

 人間の文化について学ぶ、知るということは、深く肩入れする、ということでもある。

 守護神としてのこの子には、時としてそれは残酷に働いてしまうかもしれない、という、往時の勇者の配慮だったのだろう。


 しかし、お構いなし、という具合に、聖女は言った。


「そりゃ、もったいない。宿に風呂があるから、入れてあげるよ。少年がイヤだって言うから、お姉さんと一緒に入ろうじゃないか」

「えっ。いいんですかっ?」

「ああ。あとは、ふかふかのベッドで寝てみたくないかい?」

「ベッドは知ってます! 寝てみたいです!」


 無邪気にはしゃぐ守護龍。

 それを見て、魔王が目を細めて言う。


「……馬鹿者め。それでは、かえって辛くなろうが」


 聖女への言葉だったのだろう。

 しかし聖女は、くわえ煙草で、不敵に笑った。


「できることは、してやるもんさ。生きるってのは、ロクでもないことばかりだよ。でも、どんな小さなことでも、どこかに楽しいことはある。そして、一緒に馬鹿やれる仲間がいれば、どんなことにだって価値はあるもんさねぇ。何年もひとりぼっちだったんだ。それを取り返すことの、なにが悪いってんだい」

「また、クサいことを……」

「ふっ。でもこいつは、アンタへのメッセージでもあるんだぜ」


 聖女は、いつの間にか魔王を見ていた。


「それをどう解釈するか、それはアンタに任せるよ。もう子供じゃないんだからねぇ。でも、見ちゃいられないところもある。これは、アンタの師匠だった私からの、最後のメッセージみたいなもんさ。この街の戦いとその終わりは、少年が力を取り戻したりするためだけじゃない。お前が気づき、成長するためでも、あるんだぜ」


 真剣な、聖女の言葉だった。

 それに、魔王はしばし、同じように真剣に聖女を見つめ返してから、ふいと顔を背ける。


「……くだらん」

「くだるのかくだらんのか。それを最終的に決めるのも、アンタさ。でも、きっと通じるって私は確信してるよ」


 それから僕を見て、またウインクしてきた。


「な、少年」

「はあ。いや、よく分かりませんけど」

「こっちの話さ。さーて、じゃあ、腹もいっぱいになったし、帰るとするかねぇ」


 言いたいことを言って満足、という風情で、聖女は大きく伸びをした。


 五人揃って夜の街を歩く、というのは、この街に来て数日で、やっと初めての体験だった。満腹の身体に、夜風が気持ちいい。


 宿に着くと、守護龍は、ベッドだけでなく、部屋の調度品など目につくものすべてに興味を示して、どんなものなのかを聖女や兵士長の娘、魔王、僕から説明されて、大喜びしていた。


 お風呂にも、聖女、兵士長の娘に入れてもらい、ホカホカの湯気をあげて、感激しきりだった。

 極め付けは、ふかふかのベッドに、兵士長の娘、聖女に挟まれて寝ることになり、お風呂上がりよりも喜んでいた。


 魔王は、その様子を見て、寂しい笑みを浮かべていた。が、基本的には、嫌がらずに付き合っていた。寝るときも、守護龍の傍で丸くなっていた。


 そして僕は、幸せそうな四人を眺めつつ、ひとりで椅子で寝た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ