表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/104

第84話 北の山からの帰還 #3

 と、へばっていた魔王が、ようやく顔を上げた。


「声を出せぬというのは、おそらく邪気を浴びたからであろう。生身の人間が邪気に晒されると、様々な異常をきたすからな。その孤島はおそらく、封印された龍そのものであったのだ。海の底に封印したはずのものが、年月を経て、海上に顔を出すまでになったのであろうよ。あるいは、徐々に自分で浮かび上がってきたか」

「自分で?」

「うむ。北の地に天より降りた邪悪なるものと同じだ。私が封印し、漏れ出でる邪気をなんとか管理してやりくりしてはいたが、それでも完全にとはいかぬ。その巨龍も、悠久の時をかけて少しずつ、縛られたロープを身体を揺すって緩めるように、封印を解いていったのであろうな。なにしろ北の邪悪とは違い、私のような管理者もいなかったのだから」


 魔王はくい、と顎で守護龍を指した。


「だいたい、イメージというものがあるから分かるであろう。地の底や海の底は、どこまでも闇だ。つまり、邪悪なるものを封印するのに相応しい。対して、この守護龍がいたのは、遙か天空だ。こちらは、まさに聖なるものを留めておくのに相応しい」

「なるほど。大昔の人も、それっぽさを大事にしたんですね」

「当たり前だ。そもそも、守護龍も、黒き龍も封印したのは往時の勇者なのであろう。なれば、それっぽい場所に封印されておらねば、むしろ不自然というものよ。だから、孤島の話を聞いたときから、疑問ではあったのだ」


 なるほど。魔王の説明には、頷くしかない。


 あとは、この守護龍が、最初の襲撃の後、海へ――潮騒の孤島のほうへ飛んでいった、という情報も、ミスリードになっていた。

 その時にこの子は目眩ましをされていたのだから、狙った方角へ飛び立てたはずはないのだ。潮騒の孤島のほうへ飛んだというのは、単なる偶然だ。


 そこまで確認を終えて、兵士長は申し訳なさそうに言った。


「我々の失態です。事態の萌芽そのものは、すでに三週間前からあったのです。それが、誰もが漁師の言葉を聞き流し、潮騒の孤島がなくなったことにも気づかぬ有様。まことに、面目ない。十分な備えは、できたはずでした」

「そんな。仕方のないことですよ」


 僕が言うと、魔王も頷く。


「悔やむのであれば。過ぎたことよりも、前車のてつを踏まぬことを考えよ。黒き龍は、再び来るであろう。いつかは分からぬが、我々が戦力に守護龍を加えたことくらいは、悟っていそうなものだ。おそらく……準備をして、街を滅ぼしに来るはずだ。神聖宝玉もないのだからな」


 その通りだ。僕は、みんなの顔を見回した。


「力を貸してください。僕ひとりでは、きっと難しいです。でも、みんなで力を合わせれば。きっと、あいつを倒せるはずです」


 それに、全員が頷く。兵士長は、一番力強く頷いていた。


「無論ですとも。ですが、今日はお疲れのご様子。ひとまず、今晩はゆっくりと休まれ、明日、作戦会議ということで、いかがですかな?」

「そうですね。では、お言葉に甘えて」


 僕は気を引き締めつつ、答えた。

 いよいよ、決戦が近づいている。気持ちはかなり、高まっていた。

 と――


 ぎゅるるるるるるるぅぅうぅぅぅ、と、大きな腹の虫が鳴いた。


 全員の目が、音の源――守護龍に集中する。

 守護龍は、顔を赤くして、俯きがちに言った。


「ご、ごめんなさい……。お腹、空いちゃってまして……」


 それを聞いて、守護龍以外のみんなが押し黙り――

 笑いがこぼれた。その笑いにバツが悪そうにしている守護龍に、僕は訊いた。


「今日はもう、ご飯を食べて寝るだけだから。おいしいもの、食べにいこうか」

「えっ、いいんですか? あの……私、人間じゃないのに」

「そんなこと、関係ないよ。仲間なんだ。なにか、食べたいものはある? 好物とか」

「好物……」


 守護龍は考えて言った。


「ええと、活きのいい、血の滴るお肉が好きです!」

「そ、そっか。それはちょっとなぁ……」


 さすがは龍だ。空腹時、お腹が空きすぎて馬一頭だって食べられる、という慣用表現があるが。この子の場合、まさにそれこそが慣用的なのだろう。

 と、聞いていた兵士長が言った。


「大通りに、良い肉を出すステーキハウスがありますぞ。血の滴るレアステーキも思うがまま。肉を自在に焼く、腕の良い料理人の店です。そこなどは、いかがですかな?」

「ほう、ほう……」


 守護龍よりも、魔王のほうがむっくりと起き上がって興味津々だったが。

 僕は守護龍に訊いた。


「ステーキはどうかな。食べたことある? 焼いたお肉なんだけど」

「人間さんの食べ物も、焼いたお肉も、食べたことありません。あの、炎を使うと、大抵真っ黒にしちゃうので……。でも、食べてみたいですっ!」


 元気に、守護龍は言う。なら、話は決まりだ。

 最後に、終始ぐったりしていた兵士長の娘が、兵士長に訊いた。


「お父さん、あそこ、サラダバー無料ってまだやってたっけ?」

「ん? そうだな、今月いっぱいはやってたと思うぞ」

「そっかぁ。よかったぁ。なんか、元気出てきたかも。お肉も食べたいし」

「どうなることかと思ったけど、やっぱ肉だよねぇ。私もやる気出てきたわ」


 聖女も復活する。

 こんなノリの未知数な連中で街は大丈夫なのかと、一瞬不安になるが。

 だからこそ、予測不能の力でもって、強敵に立ち向かえるはずだ。


 そう自分を納得させて、僕たちはステーキハウスへと向かうことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ