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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第83話 北の山からの帰還 #2

 僕たちはぐったりと、食堂の席につく。

 兵士長は速やかに、人払いをした。それから僕らと同じ席について、言ってきた。


「……大丈夫ですか? ご気分が優れないようでしたら、明日でも……」

「いえ、なんとか、大丈夫です」


 兵士長が手ずから注いでくれた氷水を一口飲んで、僕は北の山であったことを説明した――屈辱的な芸をする羽目になったことは省略して。

 兵士長は、うんうんと頷いていた。


「なるほど……。では、この幼子が、かつての龍破戦役りゅうはせんえきの時代に作られたという、大陸の守護龍……というわけですか」

「龍破戦役?」

「ご存じないですかな。無理もない。遠い遠い、大昔に。巨大な龍と人間の戦争があったそうで。途方もない力を持った巨龍が、この大陸だけでなく、外洋にある大陸まで――つまり、世界すべてを破壊し尽くし、蹂躙したそうです」

「へえ……。それを倒した、勇者がいるんですか?」

「らしいですな。まぁ、おとぎ話です。勇者と魔法使いが龍を倒し、二度と悪さをできないように封印した、と。祖母から聞いたことがあります。そうそう、祖母はこうも言っておりました――絵本の勇者物語が龍討伐という形で描かれるのは、どれだけ年月が経っても我々人間はその悪夢を拭いきれないからだろう、と……」

「はぁ、なるほど」


 僕は、ちょこんと椅子に座っている守護龍を見た。僕の視線に気づくと、彼女は首を傾げてなんですか? と目で訊いてくる。


「君が言ってた……一万分の一って、大袈裟なことじゃなかったんだね」

「はいっ。私は、アイツが封印された後に作られたので、実際には見てないですけど。勇者さんから、とんでもないヤツだっていっぱい聞かされてますから!」

「そうか。君は、どれくらいの力を出せるの? 今の黒龍と比べて、どう?」

「あの、私、力自体はあんまり、強くできていないんです。あの黒龍を一万とすると、百くらいだって言われました。たぶん、今の力関係も、変わってません」

「そうなんだ」

「はい。でも、あの。勇者さまは、こうもおっしゃいました。ええと、アイツは単独で一万あるけど、私が勇者さんと力を合わせれば、百かける……ええと、ええと……あの、たくさんになって、絶対に勝てるから大丈夫だ、って!」


 指折り数えつつ言う守護龍は、とても可愛らしい。

 そして、その理屈は、とてもいい理屈だと思った。この子の力が黒龍に及ばずとも、僕らの力を合わせれば勝てるのだ。

 そこに、野次が飛んできた。


「小僧の力は現在小数点だからな。掛けたら減るな」

「一だとそのまんまだし、ゼロだとゼロになるねぇ。少なくとも、少年が百以上にならないと勝負にもなんないねぇ」


 この人たちは……。僕は嘆息した。最近、ため息が特に増えた気がする。


「屁理屈言わないでくださいっての。ほら、ダラダラしてないで。しゃきっとして。そのかけ算の頭数には、僕だけじゃなくてみんなが入ってるんですから! お姉さんもホラ、お酒でも呑んで元気出してください」

「いや、今呑んだらノータイムで吐くから……」


 いつになく弱音だった。魔王もテーブルの上でぐったりしている。

 まだ、回復には時間がかかりそうだ。

 時間稼ぎでもしておこうと、僕は、兵士長に訊いた。


「そういえば、神聖宝玉はどうでした? あとは、あの……漁師さんは?」

「おお、そうでした。神聖宝玉のほうは、きっと、大丈夫でしょう。王都のほうから、西の都より、神聖宝玉の予備が納められ、次々備蓄されているという連絡がちょうど入ってまいりましたゆえ」

「そうですか、よかった。でも……」

「ええ。あの黒い龍が宝玉を破壊した以上は、すぐに取り寄せるのは得策ではないでしょうな。勇者どのに頼り切りで申し訳ないですが、勇者どのがあの龍を倒したのち、手配をするのが妥当かと」

「そうですね。それが良いと思います」


 と、次は漁師の話題に移る。

 兵士長は、ちょび髭を触りながら言った。


「もうひとつは、特に討伐に有益な情報とはなりませんでした。むしろ、我々の応対の悪さを詳らかにしてしまった、というか……」

「どういうことです?」

「件の漁師の元へ、修道士を伴って聞き取りに行ったのですが。その漁師は、三週間ほど前になりますか……禁漁区でもある『潮騒の孤島』付近で、漁をしていたそうですな」

「確か、漁師さんは口が利けなくなっていたとか、首長さんは言っていましたが……」

「ええ。おっしゃる通りです。なので、筆談になったのですが。なんでも、時刻は明け方。網を上げていたところ、いきなりとんでもない爆発が起きたそうです」

「爆発?」

「ええ。それに吹っ飛ばされて。岸辺で目を覚ましたそうですな。そして、目を覚ましたときには、すでに数日が経っていたと」


 爆発以外は、聞いた通りだ。


「それで?」

「そうして、自分が喋れなくなっていることにも気づいたが、なんとか、家に帰り着いたと。船もなにもかも、粉々になって失ってしまったようですな……と、我々も報告に上がっていたことしか、結局は聞けなかったのです。が、最後に妙なことを言いました」

「妙なこと?」

「一週間ほど前。漁師は体調も良くなり……声はまだ戻りませんが。岸に出てみたそうです。が、潮騒の孤島が……どこにもなくなっていたそうですな」

「なくなった?」

「ええ。事実です。気になり、私どもも見に行きました。さっぱり、なにもない。水平線が広がるばかりでした。勇者どのはあそこを、見たことはないんでしたな。沖合数キロのところに……いやに不自然な形である、島というよりは、岩場のような場所で。神聖な場所だから近寄るなと、漁師たちの間では伝わる場所なんですが……」


 兵士長は、髭を触るのを止めて、僕を見てきた。


「これは推測なんですが。神聖なものでもなんでもなく、その逆だったのでは?」

「逆……。つまり、邪悪な場所だったから、近寄るな、と?」

「ええ。言い伝えが形を変えて伝わっていたのではないでしょうか」


 僕は頷いた。ついさっき――北の山で、そういう例みたいなものを身をもって体験してきたため、すんなり腑に落ちる。


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