第81話 守護龍、降臨 #3
次に、魔王が質問をした。
「では、昨日のことを覚えているか。黒き龍が攻めてきたときだ」
「はいっ。その時も、自力で起きて、飛んできたんです。ちょっと遅れちゃいましたけど、その……顔が出しづらくて」
「ふむ。それはいい。あの黒き龍とは、どうなったのだ? 倒せたわけではあるまい?」
「はいっ。あの、遅れちゃったんですけど、強そうな人が戦ってるからいいかな、あ、あれ、今の勇者さんかな、って思ったんですけど、なんだか、あんまり強くなさそうだったので、助けたほうがいいかなって思って」
「言っておくけど、お兄ちゃんは理由があって弱体化してるだけだからね。本当は、もっともっと強いんだから!」
なぜか、兵士長の娘が食ってかかる。
それに、守護龍は頷いた。
「はいっ。見れば、分かります。一度すべてを失っているんですね。でも、そのままだと危ないと思って。できそうなら、私が殺っちゃおうと思ったんですけど。ごめんなさい……まんまと、逃げられちゃいました。やっぱり、自力で起きたっていうふうだと、ちゃんとした力が出せないみたいで……。アイツも弱くなってますから、いけるかなって思ったんですけど……」
「そっか。大丈夫、君は悪くないよ。あの時、助っ人に来てくれたのは、すごく助かったんだ。君のおかげで、たくさんの人の命が助かったんだよ」
「そ、そうですかっ? えへへ……。なら、よかったです!」
心からの笑顔で、守護龍は喜んでいる。こちらもつられて笑顔になってしまう、それくらいに眩しい、純粋そのものの笑顔だった。
ともかく。自力で起き出して、十割の力を出せたら、それは世界にとって新たな脅威になる可能性がある。
だから、守護龍を作った勇者というのは、きっと、勇者に呼ばれ、勇者と力を合わせないと全力が出せない、というふうにしたのではないだろうか。
と、守護龍は両手で握り拳を作って、鼻息荒く言った。
「でも、今は! 勇者さんが起こしてくださいましたから! 元気いっぱいなのです! 今度こそあの憎っくきクソ龍を、ぶっ殺しちゃいましょうね!」
「う、うん」
一体、あの龍は過去にどれほどの大暴れをした龍なのか。大戦争が起きたとこの子は言ったが、世界を相手に立ち回るほど、とんでもない龍だったのか。
大戦争についての詳細や、往時の勇者の話も気になったが、話が長くなりそうなので、訊ねるのはまたの機会にしておこう。
僕は、魔王を見た。
「……で、どうしましょう。これから」
「まあ、いろいろと突っ込みどころはある。笛はどうなったのかとかな。しかし、結果がすべてだ。こうして守護龍の合力を得られたのだから、次は当然、黒龍の討伐であろう。きっとまた、都に飛んでくるはずだ。そうだな?」
「はいっ。私から逃げた後は、どこに行ったか分かりませんけど。また来ると思います! 人が住んでるところとかを壊さずにいられない、とんでもないクズ龍ですから! 龍の風上にも置けないヤツですよ! 許せません!」
その調子はどちらかというと、いじめっ子におもちゃを取られた子供が親に告発でもするような、可愛らしい調子ではあったが。
「んじゃあ、一旦街に戻ろうか。日も暮れる。お嬢ちゃんも連れて、事情を都のみんなと共有するのが、いいんじゃないかい?」
「そうですね」
聖女の言葉に頷いた。
それを聞いていた守護龍は、笑顔で言った。
「街に戻るんですね。じゃあ、乗せていきましょうか?」
「え?」
「いちいち山を下りたり、お馬さんに乗ったり、面倒でしょう? 龍に戻りますから、勇者さん、ちょっと広場の端まで下がっててください!」
守護龍は勝手に話を進めていく。
魔王と聖女にどうするか訊こうとしたが、チーム魔王はすっかりどうなるのかに興味津々らしく、さっさと巨岩まで下がり、手招きしている。
僕と兵士長の娘、チーム勇者は、嘆息してそれに追い付く。
どうなるのか、台座の辺りに立ったままの守護龍を見つめる。
と――
日が傾き、薄暗くなりつつある山頂が、眩い光で満たされた。
思わず目を閉じる。
そして、開く。
僕は、さらに目を見開くことになった。
なんと、さっきまで少女のいた位置に、あの白く輝く巨龍が鎮座していたからだ。
山頂の広場からはみ出そうなほどのサイズだ。
白い巨龍は、その姿で、さっきと同じ少女の声で喋った。
「じゃあ、背中に乗ってください。ひとっ飛びで、街まで一直線! です!」
「ほほー。面白い。行くぞ、小僧。龍を従えるとは、勇者らしくなってきたぞ!」
「だねぇ。長生きはしてみるもんだ。レッツゴー!」
魔王は駆け出し、龍の前肢を足場に、ぴょんぴょんと背中に登ってしまう。
聖女もノリノリで、背中に飛び上がって乗り込んだ。
「なにしてる、小僧! 我々が都を救うのだ!」
龍を駆る、というシチュエーションが琴線に触れたのか、魔王はご機嫌だ。
そこで、隣の兵士長の娘が僕に言う。
「こんなので都に乗り付けたら……お父さんたち、たぶん心臓止まるよね」
「……だね。どうしよっか」
「白旗でも用意しておく?」
「うーん……。できる限りの準備はしておこうか。矢で撃たれたらたまんないし」
とはいえ、龍に乗るという体験を前に、やらずにいるということは、できそうにない。子供の頃からの憧れのシチュエーションではある。
自分より浮かれている人がいるから、冷静でいられるというだけだ。
「ともかく、乗ろう。細かいことは、あとで考えればいいさ」
「もー、ちょっと、お兄ちゃんまで。魔王みたいなことを言って!」
言いながら、兵士長の娘も楽しそうだ。やっぱり、勇者を目指すものとして垂涎の状況なのだ。
ともかく、僕たちは新たな仲間、守護龍の背に乗り込み、都に戻ることになった。
「じゃあ、行きますよー! しっかり掴まっていてくださいね!」
そう言って飛び立った守護龍は、いきなり急加速して――
四名の絶叫が響き渡り、北の山は律儀に、それをこだまにして返してきたのだった。




