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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
プロローグ(という名の最終決戦と真実)

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第8話 王城にて

 僕は、なんとか王城――その王の間に辿り着いていた。


 王都は、この大陸のちょうど中央部に位置している。大陸には、東西南北に大きな都があり、それぞれの都から王都へは、馬車でなら(天候や馬車の質にもよるが)およそ一週間前後かかるくらいの距離だ。


 南から王都までの道のりには、タダにしてもらった駅馬車などを乗り継いで、できるだけ休息もせず急ぎに急いだが、一週間以上かかってしまっていた。


 剣は折れ、防具もぼろぼろというみすぼらしい勇者に、王国の人たちはみんな良くしてくれた。食事処に寄れば、タダでご飯を食べさせてもらえた。こちらとしては、どこまでもみじめで申し訳ない気分で一杯だったが。


 道中、黒猫――魔王は一言も喋らず、猫の真似に徹していた。食事や水にも一切手をつけなかったのにはちょっと心配になったが、魔王ともなればそんなものは必要ないのかもしれない。


 ともかく。僕は玉座におわす、王様と王妃様の前にひざまずいていた。

 僕の前に、黒猫が進み出て王様に事情の説明を始めている。

 ひとまず、僕は顔を伏せたままそれに耳を傾けた。


「お前が当代の王であるな。単刀直入に言うぞ。我が城の封印が緩んだ。封印についての話は、きちんと伝わっているのであろうな?」

「北の封印ですな。もちろん、承知しておりますとも」


 王様は、丁寧に黒猫に応対していた。黒猫が魔王であるという事実にも全く驚かず、淡々としているようにも思える受け答えだった。


「我らが王族と、魔王との盟約。人の世を守るための約定――それがあったからこその、この大陸、千年の栄華があるのだと理解しております」

御託ごたくはいらぬ。その盟約は、邪の禍根を滅ぼすそのときまでの盟約であったが。今日をもって終わりとする」

「と、いうのは?」

「起きたアレは、私の力だけでは滅ぼせぬ。それゆえ、滅ぼせるだけの聖なる力を持った勇者を待たねばならなかったというのが、盟約の理由だ。ここまで千年かかったが、この小僧は、かなりの上物だ。……しかし、いろいろとあってな。小僧は今、勇者としての力を失い、魔王討伐の旅に出る以前よりも脆弱な存在となっておる」

「それは……。本当ですか? 勇者よ」


 王妃様に訊ねられ、僕は顔を伏せたまま答えた。


「はい。あの……。南の地の魔物に、歯が立たないくらいに弱くなってしまいました」


 王の間に、ざわめきが広がる。近衛兵や文官たちが動揺しているらしい。

 それを制してから、王は言った。


「では、どうなさるのです?」

「アレはやはり、私の力では倒せぬ。この小僧が万全であったとしても、小僧ひとりでは荷が重いであろう。つまり、私とこの小僧のふたりがかりでやる――ということになるな。状況は悪くなったが、それでも協力すれば、成算がある」

「勇者と魔王が……協力を?」


 意表を衝かれてか、王様と王妃様が同時に、同じセリフを言った。

 それにあっさりと、黒猫は肯定の返事をする。


「そうだ。だが、小僧を鍛え直さねばならぬ。それを兼ねて、これから我々は、各地を周り、少しでも北の地の邪悪に抗えるよう、破邪結界はじゃけっかいを構築する。アレが解放されたせいで、大陸を汚染する邪気は濃くなっていくはずだ。各地では魔物も騒がしくなる。それを潰す必要もある。アレが目覚めた以上は、やがて魔物も私の手を離れていくかもしれぬ。邪気が増せば、それを吸ってますます強くもなる」


 破邪結界――

 僕は顔を伏せたまま、その単語を胸中で繰り返した。

 破邪結界というのは、勇者が神聖宝玉しんせいほうぎょくと呼ばれるありがたい宝玉を使い、修道士や神官と協力することで構築できるという、最高級の強度を誇る結界だ。


 破邪結界は、どれほど強い魔物であろうと寄せ付けない、と言われる。


 普段から、人々の住む場所には結界が張られている。

 魔物を寄せ付けないようにするためだ。


 通常は、都市、町、村には教会があり、そこに勤める者が結界を張る。

 そして、通常の結界では足りないほどの王国の危機――緊急事態にはお触れが出て、勇者が各都市と周辺の町村に、この破邪結界を施すことになる。


 僕はもちろん、破邪結界を張ったことはないし、そういう緊急事態に直面するのも、初めてだった。やり方だけは、一応知っているが。

 それだけ現状は危険な状態なんだと、僕は理解した。

 王様も事態の深刻さを受け止めてか、声が重苦しくなっている。


「猶予は、いかほどです?」

「アレは爆発したが、まだ完全覚醒とはなっていないだろう。おそらく、あと半年ほどをかけて、徐々に目を覚ましていくはずだ」

「根拠は?」

「千年アレを観察してきた私の目と、大気に紛れる邪気の濃さ。そして、まだこの大陸が滅んでいないという現実だ。アレが完全に目覚めたなら、すべてはもう終わっている」


 そこで息をついてから、魔王は話をまとめにかかった。


「邪気が大陸を覆い始めるのは、半年ほど後になるだろう。それまでに、全都市に破邪結界を敷かねばならぬ。結界だけでなく、できれば、覚醒する前に城に辿り着いて、ヤツが起きる前に抹消できるのが理想だな。そうすれば、もっとも被害は少なく抑えられる。大陸各地に、爆発によってまず、邪気が撒かれた。それを原因とするトラブルも起きてくるはずだ。私と勇者は、結界を張りつつ、ついでにそういった問題に対処する」

「魔王が、人助けを?」

「笑わせるな。誰が人命など省みるか。減っても減っても減らないのがお前ら人間どもの特徴であろうが」


 黒猫は、てしてしと床を尻尾で叩き、僕のほうを示した。


「魔物は私が管理していたときよりも凶暴化していく。そして小僧を一から鍛え直さねば、勝ちはない。利害の一致ということよ。結界を構築するために各地を回り、撒かれた邪気の引き起こすであろう問題を引き受けるのは、小僧の成長におあつらえ向きだからだ。それらはすべて必然であり、私がお前らに利するというのは、結果に過ぎぬ」

「ふむ。かしこまりました」


 王様は慇懃に頭を下げると、僕に面を上げるように言ってきた。

 僕は王様を見上げた。彼は髭を困ったように弄びながら、告げる。


「では、勇者よ。そなたはその猫――魔王と共に、大陸を守り、北の地の脅威を取り除く、そのための旅に出てもらえますか」

「はい、もちろんです」


 一も二もなく、頷く。

 北の地の封印とか、盟約がどうとか、分からないことだらけだったが。


 それでも、魔王が言った通り、これはこの大陸に訪れた未曾有みぞうの危機で、どうやら魔王や王様は、この時のために備えていたらしい、くらいのことは分かる。

 それと戦うための力がなにもなくなってしまったことは、悔しいという言葉だけでは到底くくることはできない。


 でも。魔王が付いてきてくれるのなら――そう思うと、気が楽になった。

 まさか倒すはずだった魔王と一緒に旅をすることになるなんて、考えもしなかったが。


 不謹慎かもしれないが、わくわくするような、そんな気持ちがあった。

 ずっとひとりでの旅だったからだろうか。

 考えていると、黒猫が言った。


「では明日、また訪ねる。明日までに路銀と小僧の武具と、そうだな……西の都までの馬車を手配しておけ。王都に破邪結界を張ることは、現在の小僧ではできぬゆえ、しかるべき時を待て。まぁ、この王都には他の都とは比べものにならぬ結界が常に張られているようだ。後回しでも問題なかろう」

「了解いたしました」


 王様は応じると、今度は僕に言ってきた。


「勇者よ。せっかく戻ったのだから、ご両親に顔を見せてはどうですか?」


 元々、そのつもりではあったので、頷く。


「はい。お気遣い、ありがとうございます」


 答えていると、黒猫がこちらに振り返った。


「今晩はお前の家に泊まろう。親のツラというのを私も見てみたい。想像は付くがな」

「え?」

「お前への事情の説明も、そこですることにしよう。勇者による魔王の討伐というシナリオがハリボテであったことまで、事細かに教えてやろうぞ」

「え? え?」


 わけが分からないが、聞こえよがしに言ってみせる黒猫に、王様と王妃様がバツの悪い顔をしているところを見ると、なにかあるのだろう。

 気まずい空気の漂う王の間で、あくまでもマイペースに、黒猫は促してくる。


「さあ行くぞ小僧。お前の家に案内しろ」

「はっ、はいっ」


 せっつかれて、僕は王の間を後にした。


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