第79話 守護龍、降臨 #1
「どうした、小僧」
魔王が訊いてくる。台座の下から僕は、答えずに宝箱を見上げた。
すると。
箱からひょっこりと、女の子が顔を出した。
「こんにちは。あのあの、あなたが、新しい勇者さま? はじめまして!」
「ええと……うん、そうです。君は?」
「私は、古に作られ、ええと、役目が来るまで眠りについていた守護龍なのです! 人間の形をしていますが、人間ではありません。普段は、この形をしているんです」
「そう、なんだ」
僕は頷いた。
見た目には、十歳前後の少女――兵士長の娘より、さらに幼く見える――でしかない。声も、その年頃の女の子、という具合の、高くて無邪気な声だ。
真っ白な髪は、地面に付きそうなほど長い。瞳の色は、薄いブルーをしていて、全体的な印象は、あの白く輝く巨龍を擬人化すればこうなる、という雰囲気だ。
よいしょ、よいしょと言いながら、守護龍は箱を乗り越えて、出てきた。その身には、白いローブのようなものを纏っている。
台座も降りて、僕の目の前に立つ。
背は、とても低い。百三十センチほどだろうか。
守護龍は、僕を見上げると、にっこり笑った。
「あの! お歌、とっても素敵でした!」
「え? そう? 聞こえてたの?」
「はいっ。あんなに笑ったのは、何年ぶりでしょうか!」
「ああ、そういう……」
悪気は一切ない顔なので、まあ、楽しんでもらえたなら、と思い直す。
と、笑顔は顔に残したまま、あどけない顔で守護龍は訊いてきた。
「そのあとの踊りとかも、とっても楽しかったんですけど。でも、どうしてあんなことを? あのあの、私になにかお願いがあるときは、台座の前でお祈りをしてくれれば十分聞こえますって、当時の勇者さんにも言っておいたはずなんですけど……」
「えっ? でも。ほら。あの岩に書いてあったんですけど」
「そうなんですか? おかしいなー」
言いながら、守護龍はとてとてと走り出した。
足は裸足だ。その足で、巨岩をひとつずつ見ていって、なにやら頷いてから、僕の前に戻ってきた。
「あんな文章知りませんから、たぶん……昔の人のイタズラですよ。それっぽいことを書いてみただけなんじゃないでしょうか」
「……そうなんですか」
なんだか、がっくりきた。大昔に戻れるなら、そのイタズラをしたヤツにとりあえず、拳骨のひとつでも落としてやりたい。
と、足元から魔王が言った。
「そなたがあの、守護龍か。今回の件について、説明をしてもらおうか。街に現れた黒い巨龍はなんだ。そして、白い巨龍は、そなたなのか?」
「あ、はい。説明します!」
元気よく、守護龍は頷いた。
長くなりそうなので、先ほどから敷いたままにしていたござの上に移動し、腰を下ろす。
「ええとですね。まず。あの黒いヤツ。あれは、すっごく悪い龍なんです!」
「すっごく悪い?」
「はいっ。私と同じ頃……いや、向こうの方が先ですね。作られたんです。大昔の悪ーい魔法使いが、世界を滅ぼすために、魔法の力を使って。空から邪悪を呼び出して、それを、龍の形にして、世界を滅ぼそうとしたんです!」
どこかで聞いたことのある話だった。
僕と魔王が協力して滅ぼさねばならない、北の封印されしもの。
それは、魔王の前の魔王が、更なる力を手にしようとして、儀式を通じて召喚したものだ、という話だった。
しかしそれをものにはできず、前の魔王は滅ぼされた。その後、魔王が魔王城になんとか封印することに成功した。
そう頭の中で確認をしている間にも熱のこもった声で、守護龍は話を続けていく。身振りもつけて。
「で、もう……大戦争が起きちゃいました。龍を止めようと、みんな力を合わせて頑張りました。で、勇者さんが。なんとか龍を弱らせて、海の底に封印したんですよ」
「海の底に?」
「はいっ。その後、私は勇者さんによって作られました。いつの日か、悪い魔法使いと同じようなことをするヤツが現れるかもしれないって、私に言いました。その時に、封印した龍が、同調してしまって起きるかもしれないって。なので、もし起きたときのために――あの龍と戦う勇者さんのお手伝いをするために私は作られて、勇者さんに起こされるまで、封印されることになったんです」




