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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第76話 北の山の頂上 #1

「やーっほー!」


 大声で、兵士長の娘が言う。

 と、朗らかなこだまが返ってくる。


 僕たちは、昼食休憩から小一時間で頂上部分に到達していた。

 休憩によって英気を養ったおかげもあるが、あれから魔物と一匹も遭遇しなかった、というせいもある。


 上へ登れば登るほど魔物は強くなる、という兵士の噂だったが。誰も上まで登って確かめたものはいないんだから、ビビった兵士の間でそのようにまことしやかに囁かれていただけだろう、と魔王は言っていた。


 僕もなんとなく、そんな気がしていた。

 洞窟かなにかなら、奥へ奥へ、もっと暗い場所へ、と隠れる目的もあり、入り込んでいく魔物もいるのかもしれないが。山をどんどん登っていくというのは、ちょっと感覚的にはヘンな感じがする。


 実際、たくさんの魔物と戦闘になったのは、入山前の森林だ。山に入れば、ほとんど魔物はいなくなった。休憩した中間地点辺りには、もう魔物はいなかった。

 おかげで、楽しいハイキングになった。心地よい疲労感が身体を包んでいる。


 と、兵士長の娘が手招きしてきた。


「ねー、お兄ちゃんもやろうよ。すごいよ。ちゃんとこだまが返ってくるんだよ」

「……そうだね。ちょっとやってみようか」


 と、ふたりで見晴らしのいいところを選び、大声で叫ぶ。

 ふたりで叫ぶと、こだまも大きい。


「青春だねぇ。私もやろうかなぁ」


 聖女も参加してくる。

 彼女が叫んだのは、酒呑みてぇー、とか、激ヤセー! とか、もっと教会に寄付しろー! とか、雰囲気ぶち壊しの言葉だらけだったが、山は内容にかかわらず、きちんとこだまを返してくれる。


 それに、四人で笑い合って、さあ帰るぞ、と魔王が言った。

 僕たちは頷いて、荷物を背負い直して――


「ちっ、違いますよ! ちょっと! 全員忘れてるじゃないですか! 笛!」

「あー、そうだったわ。完全に目的が遠足になってたわ」


 聖女が頭を掻きながら言う。

 それに、魔王も頷いていた。


「山の魔力とは恐ろしいな。完全に失念しておったわ」


 チーム魔王は認めるが、毛ほども悪びれていない。

 対して、兵士長の娘は気まずそうだった。


「で、でも……。ここまで、なんにもなかったよね? 遺跡ってお兄ちゃんたちは言ってたけど、完全に、一本道の山道だったじゃん。宝箱とか、そういうのも一切なかったし」

「うん。それは、そうなんだよね」


 そのせいで、すっかり緊張感のないハイキングになってしまったというのはある。

 魔物は出ず、道は一本道。急峻な崖などもなく、なだらかな山道をだらだらと登ってきただけなのだから。


「ねえ、ここが、その……目的の場所なんだよね? 山を間違えてるとかは?」


 兵士長の娘は疑わしげに言ってくる。この子だけは、伝承の載っていた本を見ていないのだから、無理もないだろう。

 僕は本に載っていた地図を思い出しながら、首を振った。


「間違えてるってことはないと思うよ。大昔の本だったけど、地形なんてそうは変わらないと思うし」

「千年以上かけてると、分かんないけどねぇ。私はこの辺がどうだったかなんて、覚えてないわ。山だったんじゃないかとは思うよ」

「だが……千年以上もかければ、遺跡など風化するか、地に埋まる、ということもあり得なくはない気もするな」

「でも、それじゃあ、笛なんてますます残らないでしょう」

「うむ。となれば、選択はふたつだな。伝承が眉唾であったと認め、違う手がかりを探す。もうひとつは、なにか我々が重大な見落としをしている可能性を考慮して、再びこの山を調べる、だが」

「ひとまず、後者ですね」


 僕が言うと、兵士長の娘が首を傾げた。


「でも、調べられる場所なんて、ほとんどなかったよ? あるとすれば……」


 言いながら、周りを見回す。


 この北の山の頂上部は、いやに特徴的な形をしている。

 言うなれば、頂上を刃物で水平に切ったような感じの形だ。登って、その場に立ってみると分かるのだが、広場のようにほぼ真っ平らだった。


「まぁ、この頂上だよねぇ。なんか、意味ありげな感じだしねぇ。山のてっぺんが、誰かがそうしましたって感じでまあるい広場になってるしねぇ」


 聖女も見回して、言う。

 とどめに、魔王も言った。


「うむ……。そして、不自然なこの頂上の、外縁部に配置された、岩……。いかにも、なにかの謎を解けと言わんばかりの雰囲気だな」


 僕は、ぐるりと改めて周囲を見渡した。


 魔王の言う通り、背の高さ二メートルはある巨石が、この頂上の広場の外側に、ぐるりと配置されている。

 その数は十二。真上から見ればきっと、時計のような感じだろう。


「あと、気になるのは。真ん中に、台座みたいなのがあることだよね」


 兵士長の娘も言う。

 僕は頷いた。

 広場の中心には、いかにもなにかありそうな具合に、台座のような四角い岩が置いてある。ちょうど、宝箱かなにかを載せるのにちょうど良さそうな大きさだった。

 やれやれ、と魔王は首を振った。


「ここを調べるほかないようだな。全員、手分けしろ。妙なスイッチやら、隠し階段やら通路やら、あらゆる可能性を考えて広場を調べるのだ」


 それには、全員が頷いた。

 手分けして、散って広場を調べにかかる。


 僕は、どうしようか。

 ひとまず、一番怪しいのが、ずらりと意味ありげに並んでいる巨石だろう。数にも、配置にも意味がありそうな気がする。 

 僕はそのひとつに近寄って、表面を確かめてみることにした。


 そして、すぐ気がついた。


「あの。なんか彫ってありますよ」


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