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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第75話 お弁当の時間

 時刻は、恐怖の戦闘から小一時間ほど経ち、たぶん午後一時三十分頃。


 僕たち四人は、山道の一番見晴らしのいいところを選んで、ござを敷いて休憩していた。

 現在位置としては、全体の半分くらいまでは来たのだろうか。


 僕と兵士長の娘は適度に交代しながら魔物を倒し、適度に疲れてきていた。

 お腹も空いてきている。


「よし、小僧。眺めもいいし、そろそろ弁当にしようではないか。見ろ。あっちに東の都が見えるぞ」


 魔王は、ござの上でご機嫌だった。

 言う通り、とても眺めはよかった。天気もいいし、空気は透き通っていて、これまで僕たちが登ってきた道から、遠くの東の都までが一望できる。


 時期はもう、そろそろ五月になる。行楽になかなかいい時期なのは確かだ。

 景色を眺めつつ、僕は荷物袋を探っていた。元々もうご飯にするつもりだったので、袋からお弁当を出して準備をする。


「もー、完全に遊び感覚なんだから。これはピクニックでも、ハイキングでも、トレッキングでもないですよ。笛探ししないといけないんですから」

「分かっておるわ。だから早く私の弁当を寄越せ」

「はいはい。これは魔王さんです」


 返事をしつつ、弁当箱をまず魔王の前に置く。


「で、これはお姉さん。で、これは君ね。そしてこれが僕……と」


 まさか途中で僕の弁当だけが食われるとか、そういうことを想像したりもしたが。なんとか無事に、ここまで来られたようだ。


「ありがと、少年」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「あー、少年。ついでにさ、袋の中から瓶出してくれる?」

「瓶?」


 言われて、僕は袋の中を探った。

 すると、入れた覚えのない大きい瓶が出てきた。疑問に思いながら、それを聖女へと渡す。彼女は笑顔で、その中身を持っていたコップに注いだ。

 匂いで、すぐ分かった。強い酒だ。

 たぶん、フラスクに入れていたブランデーの本体だろう。

 ぐっとそれを呷って、満足そうに息をつく。


「くうー! 絶好の行楽日和だよねぇ。真っ昼間に、下界を見下ろしながら呑む酒の旨いことったらないわ。沁みるわぁ」

「フラスクの中身はどうしたんです?」

「え? とっくに呑んじまったよ。さー、メシだメシ」

「もー、ペースとか考えないんだから……」


 僕は全員におしぼりを配った。それから、僕自身も手を拭いて、お弁当を開ける。

 お弁当の中身は、全員違う。それぞれ、好きなものを注文して準備してもらった。


 僕のお弁当は、おにぎりふたつに、鶏のから揚げ、ソーセージ、たまご焼きが入っている。あとは漬物。


 魔王のを見ると、おにぎりは同じ。プチトマトに、豚肉の生姜焼き、エビの塩焼き、鶏の照り焼きなど、おかずは肉がたくさんだ。味も濃そうだった。


 聖女のものは、おにぎりに、鮭の切り身。炙ったスルメイカ。ビーフジャーキー、サラミソーセージ……酒のつまみみたいなものばかり入っている。


 兵士長の娘は、ポテトサラダに、小さめのハンバーグ、にんじんのグラッセ、ブロッコリーに揚げたポテトなど、色もバランスよくまとまっている。おにぎりふたつは、やっぱり同じだ。


「こうして見ると、それぞれ個性ありますね」


 僕はおにぎりをかじりながら言う。


「そうだな。小僧のはかなり没個性的だが。腐れ聖女、お前はなんだ。弁当にスルメとか、馬鹿のすることだぞ」

「なに入れるのが普通なのか知らなかったんだよ。酒のつまみでいいかと思ってさぁ。おばちゃんにスルメあるか訊いたら、あるって言うし。ねー、少年。ちょっと鶏のから揚げちょうだいよ。スルメとトレードしない?」

「いいですよ」

「トレード……そういうのもあるのか。私にもから揚げをよこせ。代償に生姜焼きを一口食わせてやろう。小娘も、ハンバーグと交換だ。ポテトのフライも旨そうだな」

「あ、いいよ。ポテトフライも。なんか、ポテトサラダとフライで、ポテトダブっちゃったし。お兄ちゃんも、シスターさんもどうぞ」

「いいねぇ。楽しいもんだねぇ、ピクニックってのは。お嬢ちゃん、ポテサラつまませてよ。この肉厚サラミあげるから」

「はい。……あ、このサラミ、おいしい」


 全員違う中身にしたおかげで、そんなふうにわいわいやりながら、お弁当をつまむ。


 僕としては久しぶりのまともな食事だったこともあり、大満足だった。

 食後は、水筒からお茶を飲みつつ、まったりとした時間が流れる。

 聖女はあぐらをかいて煙草で一服しながら、風景を眺めていた。


「楽しいねぇ。こういう時間があるから、人生ってのも捨てたもんじゃないねぇ。わざわざこんなイイ世界を滅ぼしちまうなんて、忍びないってもんさ」


 魔王はデザートに持ってきたみかんを剥いて食べながら、頷いている。


「やってみると、楽しいものだな。こういうのも悪くない。自然の中で食うメシは旨い」

「ホント。お兄ちゃんはともかく、魔王がふたりもいて、それと一緒に行動するってどんな感じなんだろうって、思ってたけど。すっごく楽しい」


 兵士長の娘の言葉に、煙を吐き出して聖女が笑った。


「勇者と、魔王だからこそじゃないかねぇ。お互い、殺し殺されの関係だけど。だからこそ、私らが本当に理解し合えるのは、ここにいる四人だけじゃないのかねぇ」

「……そうなのかも。私でさえ、あんまり兵士のみんなとは、話が合わないし。小さい頃から、遊んでくれたのって……お兄ちゃんとシスターさんくらいだったし。魔王たちがみんな、すっごく普通な感じだから、びっくりしちゃった」

「ふむ。魔王も勇者も、社会にとっては異質なものでしかないからな。お互いの苦労が真に分かるのは、天敵同士であるお互いのみということよ。皮肉だが」

「そうですね」


 僕もずっと感じていたことだったので、頷く。

 お互いが、お互いの最良の理解者である。

 それゆえに、どちらかが死ぬまで戦わないといけない。

 つくづく、因果なものだと思った。


「でも、こういうのもいいよねぇ。なぁ――また、四人で遊ばないかい?」


 ふと、聖女がそんなことを言った。


「また?」

「ああ。また。少年と猫とは、この巨龍騒動が終わって、破邪結界を張るまでの付き合いだろう。それが終わったら、次は南かい?」

「ええ、そうですね」

「そうか。でも、だからって、これで終わりってのも、なんだか、寂しいじゃないか。だから、いつでもいい――全部にケリがついたら、四人で集まってさぁ。平和な世界でこんなふうに、無邪気に遊ぶのはどうかってね。なんでもいい。こういうピクニックでもいいし、川べりでテント張ってさぁ、カレーでも作るとか。どうだい」

「ふふ。楽しそう。私は、賛成」


 兵士長の娘は、満面の笑みで頷いている。


 全部にケリがついたら――

 その言葉が、胸中で反響する。


 すべてが終わった時、きっと、僕と魔王は――


 そう言いかけて、僕は言葉を呑み込んだ。

 呑み込んで、素直に思ったことを言った。


「僕も、賛成です。また、こうして四人で遊びたいな。魔王さんは?」

「ふん……」


 みかんをむぐむぐやりながら、魔王はしぶしぶといった風情で、頷いた。


「馴れ合いなぞ弱者のやることだ。だが、強者の集いとしてなら構わんぞ。川べりでカレーにバーベキューというのは、なかなか魅力的だ」


 バーベキューが増えた。


「んじゃ、決まりだねぇ。特にその二名。吐いた唾を飲むなよぉ? あんたらが封印されしものに負けたら、全部御破算だからねぇ」


 聖女は、僕と魔王を指してくる。

 僕と魔王は、顔を見合わせた。

 魔王は、不敵に笑ってくる。いつもの、自信満々の笑顔だ。


「負けるわけがなかろう。なぁ、小僧」


 その顔を見ると、僕の胸には、力が湧いてくる。


「ええ。必ず、勝ちますから。待っていてください」

「……約束だよ、お兄ちゃん」


 兵士長の娘も言ってくる。

 僕は、頷いた。


「……約束するよ。必ず戻ってくる。また、この四人で遊ぼう」


 きっと、守ることはできない。


 どうしようもないことだ。大陸を本当に救うなら、僕と魔王は、いてはいけないから。


 でも……こうして、口約束であろうと、言うだけなら。

 もしくは……口にしてしまえば、それがたとえ、どれだけ無理な願い事だとしても。勝手な願い事だったりしても、叶ったりするかもしれない。


 だから、ただ願うくらいは、どうか、許してほしい。

 たとえ、それとは反対の結果が、決まっているとしても。


 そう思いながら、僕は一口、温かいお茶を飲んだ。

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