第69話 勇者とは? #3
結局は、大した言葉にはならない。
僕自身、僕のことをよく分かっていない。
だから、劇的な――悩めるこの子を一気に救ってしまうような魔法の言葉なんて、当然、湧いてこない。
迷ったら、自分で答えを見つけるしかない。そんな気もする。
僕自身、前の旅では、ずっと迷っていた。魔王と対面するその瞬間まで。
だが今は、少しは、すっきりした気持ちで戦っていると思う。
以前と今の僕は、なにが違うのだろう。
それは、傍に魔王がいるかいないか、だけのような気がするが。
「ごめん、僕のことばかりで。でも、僕から言えるのは……勇者っていうのは、強いとか、弱いとかじゃないんじゃないのかな」
「強いとか、弱いとかじゃない?」
「うん。みんな、僕のことを最強の勇者だなんて言うけど。だからって、今までの勇者さんたちがニセモノだったなんて、誰も言わないでしょ? 僕だって、僕はもう、父よりも強いって思ってるし、分かってるけど。それでも……僕は父さんを、先代の勇者として、父として、ずっと尊敬し続けてる。そういう……ものなんじゃないかな。君だって、僕が弱体化したのを分かっているのに、勇者、って言ってくれるじゃないか」
「あ……」
「ね? ほら、そういうことだよ。君も、もう剣の腕では兵士長さんを超えているし、強いと思うけど。お父さんのこと、尊敬していて大好きでしょう?」
「うん」
「ほら。それでいいんだ。強いとか、弱いとかじゃない。その人が、そういうこととは関係なく、尊敬できるかとか、応援したくなるとか、そういうふうに思ってもらえるっていうのが、勇者なんじゃないのかな」
と、そんなことを自分で言って。
僕は、首を捻った。
強いとか抜きにしてしまったら……なんで僕はみんなに勇者だと言われたり、応援されたりしているんだろう。
なんだか、自信がなくなってきた。
そんなふうに思っていると、兵士長の娘は言った。
「それなら……やっぱりお兄ちゃんは、勇者だよね。私はまだまだ」
「え。なんで?」
「だって。弱体化するなんてことがあったのに、全然変わらず、みんなのために戦ってるんだもん。弱くなったのに。それって、絶対、すごくショックなことなのに。でもそんなこと、少しも気にしてないみたいで、みんなのために戦ってる。そういうところが、ずっと格好いいなって思ってて……」
そう言ってからすぐ、慌てて訂正してきた。
「それは、勇者として格好いいって意味ね! 男の人としては、なんか頼りないし、自信なさげだし、すぐ謝るし、しいたけとか頼むし、全然ダメだからね!」
「う、うん」
「でも……その。真面目に答えてくれて、ありがと。勇者と魔王討伐が嘘っぱちだったとか、ショックだったけど。それでもお兄ちゃんは、やっぱり変わらなくて。なんか……やっと、本当の勇者っていうのがなんなのか、分かった気がする。まだ、気がするだけだけど。でも、お兄ちゃんがやっぱり、最高の勇者なんだっていうのは、分かった」
「そっか」
「うん。だから……明日は、私もついていくね。お兄ちゃんがこの街にいる間は、私も一緒に戦いたい。心構えも戦う気持ちも……まだまだだけど。お兄ちゃんと一緒に戦いたいっていう気持ちは、本物だから」
「ありがとう。すごく、頼もしいよ」
「ふふっ。……じゃあ、もう寝るね」
「うん。しっかり休んでね。おやすみ」
「おやすみなさい、お兄ちゃん」
それきり、兵士長の娘は黙ってしまった。しばらくすると、寝息が聞こえてくる。
まだ少女の彼女には、午前三時になるほどの夜更かしは、ちょっと大変だったのだろう。
それを微笑ましく思いながら、僕もまた目を閉じて、意識を闇に預ける。
どういうものが、勇者なのか。
少女との問答を、微睡みながら意識の端に引きずる。
昼間、魔王は彼女との会話で、言っていた。
この子が僕の後を継いで勇者を名乗れるようになる頃には、魔王と勇者という図式は、なくなっているだろう――と。
僕も、それには同意だ。
というか、僕も魔王も、きっと、そこを目指して戦っているのだろう。
暗闇の中で、自分の中にある、確固たる望みを直視する。
そう、僕の望みは、あるとすれば……やっぱり、ただひとつだ。
邪悪の根源を絶ち、もう、勇者なんてものが必要とされない世界にすること。
僕が、最後の勇者となること。
つまるところ――僕は今、そのために魔王と旅をしているのだと、思った。




