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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第69話 勇者とは? #3

 結局は、大した言葉にはならない。


 僕自身、僕のことをよく分かっていない。


 だから、劇的な――悩めるこの子を一気に救ってしまうような魔法の言葉なんて、当然、湧いてこない。


 迷ったら、自分で答えを見つけるしかない。そんな気もする。

 僕自身、前の旅では、ずっと迷っていた。魔王と対面するその瞬間まで。


 だが今は、少しは、すっきりした気持ちで戦っていると思う。

 以前と今の僕は、なにが違うのだろう。

 それは、傍に魔王がいるかいないか、だけのような気がするが。


「ごめん、僕のことばかりで。でも、僕から言えるのは……勇者っていうのは、強いとか、弱いとかじゃないんじゃないのかな」

「強いとか、弱いとかじゃない?」

「うん。みんな、僕のことを最強の勇者だなんて言うけど。だからって、今までの勇者さんたちがニセモノだったなんて、誰も言わないでしょ? 僕だって、僕はもう、父よりも強いって思ってるし、分かってるけど。それでも……僕は父さんを、先代の勇者として、父として、ずっと尊敬し続けてる。そういう……ものなんじゃないかな。君だって、僕が弱体化したのを分かっているのに、勇者、って言ってくれるじゃないか」

「あ……」

「ね? ほら、そういうことだよ。君も、もう剣の腕では兵士長さんを超えているし、強いと思うけど。お父さんのこと、尊敬していて大好きでしょう?」

「うん」

「ほら。それでいいんだ。強いとか、弱いとかじゃない。その人が、そういうこととは関係なく、尊敬できるかとか、応援したくなるとか、そういうふうに思ってもらえるっていうのが、勇者なんじゃないのかな」


 と、そんなことを自分で言って。

 僕は、首を捻った。


 強いとか抜きにしてしまったら……なんで僕はみんなに勇者だと言われたり、応援されたりしているんだろう。


 なんだか、自信がなくなってきた。

 そんなふうに思っていると、兵士長の娘は言った。


「それなら……やっぱりお兄ちゃんは、勇者だよね。私はまだまだ」

「え。なんで?」

「だって。弱体化するなんてことがあったのに、全然変わらず、みんなのために戦ってるんだもん。弱くなったのに。それって、絶対、すごくショックなことなのに。でもそんなこと、少しも気にしてないみたいで、みんなのために戦ってる。そういうところが、ずっと格好いいなって思ってて……」


 そう言ってからすぐ、慌てて訂正してきた。


「それは、勇者として格好いいって意味ね! 男の人としては、なんか頼りないし、自信なさげだし、すぐ謝るし、しいたけとか頼むし、全然ダメだからね!」

「う、うん」

「でも……その。真面目に答えてくれて、ありがと。勇者と魔王討伐が嘘っぱちだったとか、ショックだったけど。それでもお兄ちゃんは、やっぱり変わらなくて。なんか……やっと、本当の勇者っていうのがなんなのか、分かった気がする。まだ、気がするだけだけど。でも、お兄ちゃんがやっぱり、最高の勇者なんだっていうのは、分かった」

「そっか」

「うん。だから……明日は、私もついていくね。お兄ちゃんがこの街にいる間は、私も一緒に戦いたい。心構えも戦う気持ちも……まだまだだけど。お兄ちゃんと一緒に戦いたいっていう気持ちは、本物だから」

「ありがとう。すごく、頼もしいよ」

「ふふっ。……じゃあ、もう寝るね」

「うん。しっかり休んでね。おやすみ」

「おやすみなさい、お兄ちゃん」


 それきり、兵士長の娘は黙ってしまった。しばらくすると、寝息が聞こえてくる。


 まだ少女の彼女には、午前三時になるほどの夜更かしは、ちょっと大変だったのだろう。

 それを微笑ましく思いながら、僕もまた目を閉じて、意識を闇に預ける。


 どういうものが、勇者なのか。

 少女との問答を、微睡まどろみながら意識の端に引きずる。


 昼間、魔王は彼女との会話で、言っていた。

 この子が僕の後を継いで勇者を名乗れるようになる頃には、魔王と勇者という図式は、なくなっているだろう――と。


 僕も、それには同意だ。

 というか、僕も魔王も、きっと、そこを目指して戦っているのだろう。


 暗闇の中で、自分の中にある、確固たる望みを直視する。

 そう、僕の望みは、あるとすれば……やっぱり、ただひとつだ。

 邪悪の根源を絶ち、もう、勇者なんてものが必要とされない世界にすること。


 僕が、最後の勇者となること。


 つまるところ――僕は今、そのために魔王と旅をしているのだと、思った。


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