第68話 勇者とは? #2
「……お兄ちゃんが勇者じゃなかったら、誰が勇者なのよ」
「みんなそう言うんだ。それは、結構――辛いとまでは言わないけど、もやもやするものだよ。みんなは、僕が魔物を殺したり、事件を解決したりした、その結果を見て言っているんだ。僕のすべてを、総合的に判断してそう言ってくれてるわけじゃない。僕は、一度だって、僕自身を最強だとか、強いとか、頼もしいとか、そんなふうに思ったことなんかないよ。そう言われているらしいな、とは知ってるけどね」
彼女は、黙って僕の言葉を聞いていた。
「僕は、いつからか……なんとなく、勇者でありたいと思ってた。それは、たとえば絵本の勇者に憧れてたり、父さんが勇者だったから、父さんみたいに立派な人になりたいとか、そういうのが最初の動機で。決して、この大陸を平和にするんだ、みたいな使命を、最初っから持ってたわけじゃなくて」
僕は、星を見つめながら、続けた。
「僕は、最強の勇者らしい。確かに、魔王さんに負けるまで、爆発に吹っ飛ばされるまで、負けたりしたことも、戦いで傷を負ったこともなかった。でも、それは違うんだ。僕は……最強だから、勇者をやろうなんて思ったんじゃない。魔物だとか、魔王にだって勝てる力が欲しかったわけじゃない。ただ……この大陸のみんなが魔物とか、魔王に困ってて、それを僕がどうにかできるなら、してあげたい。そう思っただけなんだ」
僕は自分の気持ちを確かめながら、言った。
「世界を平和にできるなら、僕は世界で一番弱い人間になったって構わないよ」
そこで、目を閉じた。夜よりも深い闇に、言葉を預ける。
「うまく、言えないけど。僕は……僕が納得したいだけなんだと思う。僕は、僕の納得するもののために剣を振りたい。で、その納得っていうのは、みんなが楽しく暮らせる生活のため、っていうことらしいんだ。そういう、感じかな。勇者らしいとか、別に……特別なことがしたいわけじゃなかったんだ、僕は。上手く言えないけど、そんな感じ」
「特別なことが……したいわけじゃない……」
「うん。それで、その――僕の納得のいく世界っていうのは……勇者とか、魔王とか、そういうもののない世界なんだと思う。僕は……みんながそれぞれ、笑ったり、怒ったり、悩んだり、悲しんだりしながら……そうやって歳を取っていけるような、そういう世の中になってほしいと思うんだ。勇者や魔王みたいなものを、誰も必要としない世界。誰も戦ったりしないでいい世界にしたい。……僕に望みがあるとすれば、それくらいかな」
「……でも。そんなの。それじゃあ、お兄ちゃんは……」
泣きそうな声で、兵士長の娘は囁いた。
それに、目を開けて、首を振る。
「それは、まあ、仕方ないよ。今までの勇者の人たちも、自分なりの正義でもって魔王さんに挑んできたんだ。それと同じだよ。今でこそ、それらは茶番の一環ってことになっちゃったけど、歴代の勇者たちがそうと知って、勇者をやめるだなんて思えないし。きっと……じゃあそれなら、って、封印されしものと戦おうとしたはずだよ。だから、僕もそうする。もちろん、僕がそうしたいから、そうするんだ」




