第66話 焼き鳥屋にて #2
僕は頭を振って考えを追い出して、メニューを兵士長の娘に差し出した。
「ともかく、深く考えずにいこうよ。魔王と勇者なんて分け方にも、意味は無いんだから。なに食べる? それか、お父さんと来たことあるから、なにがおいしいか知ってる?」
「あ、うん。たまに連れてきてもらうこと、あるよ。潰れたお父さんを毎回引っ張って帰ることになるから、勘弁してほしいんだけどね」
「あはは。そうだったんだ」
「うん。おいしいのはね……私はいっつも、皮とか頼むかな。ほら、なんか……コラーゲンだっけ、お肌にいいんだって」
「大将! こっちに皮ね!」
僕たちの会話を受けて、すかさず聖女が手を挙げて言う。
コラーゲンがどうとかいうのは、母が凝っていたことがあって僕も知っていた。個人的に興味が湧いて本で調べたら、経口摂取ではあんまり意味がない、的なことが書いてあったように思う。
まあ、鰯の頭も信心、と言うし。僕は学者ではないので、その真偽までは分からないし――余計なことは言わないでおくことにした。
すぐにやってきた鶏皮の串をつまみながら、僕はさらに聞く。
「他には、どんなのを食べてるの?」
「えーっと……。この、アスパラベーコンとか。トマトチーズとか、おいしいよ」
「変わり種? 確かにおいしそうだね。じゃあ、それ頼もうか」
と、それを聞いていた魔王がふんと鼻を鳴らす。
「勇者がずいぶんと軟弱なものを頼むな。肉を食え、肉を」
「肉頼むとそっちが全部食べちゃうじゃないですか」
強欲肉食サイドのふたりを見て言うと、兵士長の娘が訊いてくる。
「お兄ちゃんは、なにかないの? 食べたいもの」
「え? ああ、うーん。あ、野菜だけの串もあるんだね。しいたけとかいいな。ネギとか、長いももおいしそうだな」
「なんか……お兄ちゃんの舌って、老けてない……?」
「えっ」
そうだろうか。しいたけとか、おいしいのに――僕は訝しんだ。
そして、同時に対魔王食卓防衛法を学んだ気になった。アスパラベーコンやトマトチーズみたいな注文なら、この人らは興味を失う。結果として、こちらは食にありつける。
そう思ったのだが――
そのあと、運ばれてきたアスパラベーコンとトマトチーズは、あっさりと魔王ふたりの胃袋に消えた。
「うむ。トマトとチーズは合う。なかなか良い趣味だぞ小娘」
「アスパラが柔らかくておいしいねぇ」
ちくしょう、このふたりはなんでも食べてしまうのか。
それでも負けじと頼んだうずらの卵や、しいたけなどには、ありつくことができた。しいたけは特に、僕が食べるまで、誰も興味を示さなかった。
僕があんまりおいしそうに食べるので(魔王談)、最終的にはみんなが注文して食べていたが。
そんなこんなで、時刻は日を跨ぎ、午前二時。
計ったように、魔王ふたりは完全に酔いつぶれて、いびきをかいてテーブルに突っ伏している。
店内はもう、お客さんの姿はまばらだ。
僕たちは聖女の身体を抱えて、大将にお礼を言い、宿へと引き上げることにした。
だらりとした聖女の身体を兵士長の娘と運んでいく。なんだか、死体を運んでいるみたいな気分だった。




