第65話 焼き鳥屋にて #1
お店は繁盛していた。人気店らしい。ちょうど四人掛けの座席がひとつ空いていて、そこに通してもらい、聖女と魔王が勝手に食いたいものをさっさと注文する。
その間、僕はお客さんの感謝の声に、ひとつひとつ頭を下げて応えていた。先ほどの襲撃はみんなもちろん知るところで、僕たちが巨龍を追い返したのだということで、拍手喝采だった。
まず運ばれてきた大ジョッキの麦酒を持ち上げ、聖女が店内に号令をかける。
「んじゃあ、いきますか! みんな、生きてるから酒が旨い! 次もしっかり生き延びて、ちゃんと乾杯できるようにねぇ!」
そして、聖女はジョッキに口をつけ、一息に呑み干してしまう。呑んだあとはジョッキを逆さまにして、ガッツポーズを見せる。
その呑みっぷりに、店内は大喝采だ。
「いいぞ! さすがはシスターさま!」
「兵士さんにもそんな豪快な飲み方する人はいねえよ!」
「どーもどーも。さあ、みんなもどんどん楽しんじゃってねぇ!」
それに手を挙げて応えて、席に座る。聖女は満足げだ。
「いやぁ、一仕事したあとのビールは沁みるねぇ。旨いねぇ」
「つくづく、お前がどういう生き物なのか分からんな。なんだそのテンションは」
魔王が大きなジョッキを器用に尻尾で持って傾けながらぼやく。
それに、聖女は笑っていた。
「いいじゃないか。せっかく生きてんだ、楽しまなきゃねぇ。ほら、少年もどうだい、たまには酒くらい呑んでみなよ」
「いえ、僕はオレンジジュースでいいです」
「堅いなぁ。もっと楽しみなよ」
「いえ、十分に楽しいですから」
僕は、店内を見回した。
炭火と、焼き鳥のタレと、アルコールの匂い、そして独特の喧騒がある店内だ。
みんな笑顔で、楽しくお酒を呑んでいる。
こうしてみんなが楽しめるのは、僕たちが力を合わせて巨龍を追い返したからだ。
それだけで、胸が一杯だった。
「みんな、とっても楽しそうで……僕は、これを見られるだけで、十分です」
「……ったく、どこまで行っても勇者だねぇ、少年は。まあ、呑みねぇ」
と、聖女はオレンジジュースを僕のグラスに注いでくれた。ありがたく、それを飲み干す。とても、おいしかった。
喉を潤して人心地つき、僕はメニューを取った。ようやく、塩辛いものが食べられる。本当はご飯などの主食系のものの店に行きたかったが、焼き鳥というのも、これはこれで、おいしそうである。
ちなみに、最初に魔王と聖女が注文していたお好み串盛り合わせというのは、僕がお客さんに挨拶している間に食べ尽くされていた。
それくらいはもう、想定の範囲内だ。でも今度こそ自分で頼んだものは自分で食べるぞという断固たる思いで、メニューを見る。
でも、兵士長さんの奢りということになるんだし、あんまり高いものを頼むのも気がひける。ここは、無難にもも肉あたりからいこうか……
そんなことを考えていると、魔王が兵士長の娘に声をかけた。
「小娘。なにを思い詰めておる。明日の探索にビビっておるのか?」
「え? いや、そんなんじゃないけど」
魔王の言葉に、彼女は首を振る。
「ついてきたはいいけど、なに喋っていいか分かんないし……。だって、勇者に、魔王ふたりで、普通の人間、私だけじゃん」
「あー、それは言えてるねぇ。なんだこのテーブル」
笑いながら、聖女は新しくやってきたジョッキを傾けている。
なんだこのテーブル、というのは、僕は昨日さんざん思ったので、気持ちはよく分かる。
僕は頷いて、オレンジジュースを兵士長の娘のグラスに注いだ。
「まあまあ。肩肘張らなくて大丈夫だから。ここにいるのは、二名の酔っ払い。僕と君は、常識人。そういうカテゴリ分けで頑張っていこう」
「ああ、うん。間違ってもあっちサイドには行きたくないかも」
「言うねぇ、少年少女よ。でもいつか分かるときが勝手に来るのよ。気づいたら、私たちサイドよ、あんたらもねぇ」
聖女は恐いことを言っている。
それは、ひとまず忘れよう。この子は、自分を普通の人間にカウントしているが、実際は、勇者とカウントしても差し支えないはずだ。
つまりこのテーブルは、魔王ふたり、勇者ふたりがいることになる。
焼き鳥屋のテーブル席に、魔王勇者のふたりずつが同席する。ますますなんだこれと言いたくなってしまった。




