第64話 騒動のあと #2
そして日没と同時に、確認を終える。
兵士長は、僕に言ってきた。
「勇者どの、ありがとうございました。急なことでしたが、なんとか、犠牲を出さずに済みました」
「いえ。僕よりも、魔王さんや、お姉さんに言ってください。僕は矢を一本撃っただけですから」
「うむ。兵士長よ。謝礼は旨い店のひとつでも紹介してくれればよいぞ」
僕の頭の上から、魔王はそんなことを言う。
それに、兵士長ははっはと笑った。
「お安いご用です。大通りに、旨い焼き鳥屋があります。いかがでしょうか」
「ほう、ほう……。焼き鳥か……。酒もあるな?」
「ええ。各地の銘酒を取り寄せていて、よりどりみどりです。代金は私につけておくよう、店主に言っておいてください。どうぞ、お好きに堪能してくだされば」
「ふむ、気に入った。兵士長、褒めて遣わす」
声にはもう、隠しきれない興奮が混じっている。
僕は嘆息しつつ、兵士長に言った。
「兵士長さん、教会の神聖宝玉が壊されてしまいました。西の都に連絡をして、取り寄せないと。破邪結界を張ることができません」
「そのようですな……。すぐに早馬で使いを送りましょう。勇者どのは、早速、明日にはその、北の山の遺跡へ向かわれるのですな?」
「はい。そのつもりです」
「どうか、お気をつけて。なにか入り用なら、なんなりとお申し付けください」
「あ。じゃあ、新しい弓矢を、用意しておいてもらえますか。今回は剣より、こっちを使うこともありそうなので」
「かしこまりました。他にご用はありますかな」
少し考えて、僕は思い出した。
「……そうだ。あの。首長さんに伺ったんですが。何週間か前に、潮騒の孤島付近で行方不明になって、見つかったけれど口が利けなくなったという、漁師さんがいらっしゃるそうなんです。その人を見つけて、お話を聞けないかな、と」
「その話は、私も聞いています。この都のさらに東、漁村の漁師ですよ。分かりました、私どもで、そっちは調べてみましょう。これもまた、なにかに関係があるのですな?」
「ええ。白い龍が、潮騒に眠る守り神、というなら……関係があるんじゃないかって気がするんです。なんか……複雑そうな事情とかがありそうな予感がします」
「余計なことを言うなというのに……」
僕が曖昧に言うのを聞いて、魔王がうんざりとしていた。
その漁師さんのことは、今、たまたま思い出しただけだ。余計と言われても困る。
巨龍の事件に無関係だとは思えないのも、事実だし。
今はまだ、いろんなことがバラバラのまま、分からないことだらけである。
ただ、明日、山に行けば、ある程度のことは明らかになりそうな気もする。巨龍を無事呼び出せて、話を聞くことができれば。
それに賭けるしかない。
と、横から、兵士長の娘が声をあげた。
「お父さん。あの……私、勇者と一緒に山に行きたい」
その提案に、僕は少々驚いた。
兵士長も、驚いたようだった。しばらく、僕と娘とを、見比べている。
それから、うんと頷いた。
「うむ……。いいだろう。近くで、勇者どのの働きを勉強してきなさい。よろしいでしょうか、勇者どの。不肖の娘ではありますが、ご迷惑でなければ」
「ええ。大丈夫です。君は、大丈夫? またあの龍が出てくるかもしれないし、真っ正面から戦いになることもあるかもしれない」
「……それは、お兄ちゃんだって一緒でしょ。弱体化してるってのに、お兄ちゃんは、この都のみんなのために、行くんでしょ?」
それに、僕は頷いた。
「うん。もちろん」
「……じゃあ、私も行く。私だって、少しは強くなったんだから。足手まといには、絶対にならないから」
ちょっと、思い詰めたような言葉に不安になるが。
だからこそ、一緒に行動したほうがいいような気がした。僕は頷いた。
兵士長は困ったように笑うと、僕に言った。
「では、勇者どの。よろしくお願いいたします。我々は西の都への早馬の手配と、瓦礫の片付けがありますので、どうか、お先にごゆっくりお休みください」
「はい。お疲れさまです。兵士長さんも、ご自愛ください」
挨拶を交わして、そして頭の上の魔王に急かされて――
僕たち四人は、兵士長行きつけの焼き鳥屋へと飛び込んだ。




