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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第61話 巨龍、襲来 #1

 僕と魔王、聖女、兵士長の娘は、店の外へ飛び出した。


 全員同時に、空を見上げる。


 そこには、かなりの高さを、途方もない大きさの龍が円を描いて飛んでいるのが見える。鷹か、鳶のようにも見えるが、大きさが違いすぎる。


 やがて、ゆっくりと高度を下げてくる。

 それが近づくにつれて、僕は悪夢でも見ているような気分になっていた。


 上空、五十メートルほどだろう。ばさばさと翼を打ちながら、龍は宙に停滞し始めた。それだけの距離があるのに、すさまじい風が吹き下ろされてくる。

 僕は顔を手で庇いながら、それを見上げ続けた。


 大きい。

 大きすぎる。


 距離があるのに、信じられない大きさだった。

 漆黒の鱗に包まれた巨龍――あんなもの、僕が腰にさげたちっぽけな剣くらいで、切り裂けるわけがない。想像と実物は、まるで別物だ。


 巨龍は、しばらく街を見下ろしていた。

 その存在に街の人たちが気づいて、悲鳴を上げ始める。


 それを見て、僕は叫んだ。


「外に出ないでください! みんな、どこか屋内に隠れて!」


 僕の声には、聞こえる範囲の人は素直に従ってくれた。適当な店や民家に、往来の人たちが隠れ始める。


 そのすぐあと、巨龍は大きく口を開けて咆哮した。

 僕は思わず、耳を塞いだ。びりびりと空気が震え、痺れるような大音声だ。

 そして龍は、開けた口に、炎を集中させ始めた。


「くそ――まずい。あれはまずいぞ。人が死ぬ」


 魔王が言う。戦慄する魔王の声というのは、初めて聞いた。

 僕は言った。


「なんとかなりませんか?」

「するしかあるまい。腐れ聖女、手を貸せ。ふたりでならたやすく抹消できる」

「オーライ。しっかし、とんでもないねぇ、アレ。完全に、私ら都の人間をしっかり殺る気じゃないか」


 ぶつくさ言いながら、聖女はぴっと、人差し指を巨龍へ向けた。

 次の瞬間、巨龍の口から、凝縮された火炎の弾が吐き出された。


 その直径は、十メートルはある。直撃すれば、僕たちは全員死ぬ。

 魔王は僕の頭の上に飛び乗ると、力を火球へ集中させたようだった。

 轟音を上げて近づいてきていた火球は、空中でぴたりと止まった。瞬間、霧のようにふっと消滅する。


 ふたりの魔王の力で、火球を強引に解消したのだ。


 それは、僕たちを認識させるには十分だったらしい。巨龍の視線が、僕たちに降りかかってくるのが分かる。


 反射的に、身構える。できることはないと分かっていても。

 が、巨龍は身を翻して、鋭く高度を下げ始めた。方向は、僕らの立っている区画の、もっと右手側へだ。


「ちっ――まずい!」


 叫ぶように言ったのは聖女だ。すでに駆け出している。僕も後を追った。


「なんだ!?」


 僕の頭に乗ったままの魔王が訊くと、聖女は言い返した。


「あっちは教会なんだよ! 異変があったら、すぐに避難するようには言ってあるけどねぇ――あそこには、少年が破邪結界を張るのに必要な、神聖宝玉があるんだよ!」


 まさか――そう思いながら、僕も走る。


 僕と魔王が東の都を訪ねた目的というのは、そもそもは、破邪結界を張ることだ。この巨龍騒動は、副次的な問題に過ぎない。巨龍の問題を解決せねば、結界の作成にすら取りかかることができない、ということだ。


 それを壊されてしまえば、大変なこととは言わないが、余計な手間が増えることになる。西の都に連絡を取って新たな神聖宝玉を作ってもらったりとか、そういうことだが。


 だから、巨龍を止めなければならない。


 しかし、巨龍の降下速度には追いつけるわけがなかった。巨龍は燕のように鋭く降下し、僕の目にも見えてきた教会に、頭から突っ込んだ。


 轟音、地震のような振動、すさまじい瓦礫の煙――

 僕たちがほんの十メートルも移動しないうちに、巨龍は教会を完全に破壊してしまい、その破壊がもたらした煙によって、姿が隠れる。


 その間にも、僕たちは走った。少しでも距離を縮める。が、近づきすぎないようにも気をつける。


 やがてゆっくりと煙が引いていき、漆黒の巨龍の姿が見えてくる。

 僕は目を細めた。巨龍は、その口になにかをくわえていた。


 大きさとしては、僕たちが米粒とか、胡麻の粒をくわえるようなものだろう。小さすぎて、よく見えない。それでもその仕草から、目的のものを手に入れたのだという雰囲気を感じていた。


 直後、巨龍はきしらせるように口を動かした。

 僕には分かった。くわえた神聖宝玉が、粉々に砕かれてしまったのだ。


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