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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第60話 勇者のたまご #2

 この子は、僕の力を誰よりも信じてくれていた。そのせいで、真実に気づいてしまった、ということか。

 まだショックを受けている少女に、魔王がさらに追い討ちをかける。


「ちなみに、小娘。この女は私よりも古い魔王だ」

「えっ!?」

「んふふふ。もっとビックリするタイミングで明かしたかったねぇ。ま、いいけど」


 お汁粉を食べ終えて一服している聖女は、笑顔で手をひらひら振る。


「なっ、なんで……魔王が、街に?」

「ほんの暇潰しさ。私は私で、いろいろあってねぇ。もう人間を支配して自分の王国を作ろうだなんて気はなくなっちゃったから。ということで、魔王の後輩のアシスタントを影ながらしてやっていたのさ。人間たちが恐がらず、安心安全に過ごせるようにねぇ」


 ぽかんとした顔で、兵士長の娘は、やっと一言だけ言った。


「……遊び人が、うっかり間違ってシスターになったんだと思ってた……」

「あっははは! その認識は、別に間違ってないかもねぇ」


 ツボに入ったのか、聖女は大笑いしていた。

 兵士長の娘のほうは、頭を抱えだした。


「なんだろ……。私の思ってたより、世界って……めちゃくちゃなものだったんだ……」

「うん。ショックは分かるけど、落ち着いて。かなり落ち着いてるとは思うけど」

「ショックすぎて、ちゃんと消化できてないだけだと思う」


 まだ若いのに、この子は健闘していると思う。僕がこの年齢でこんな話を聞かされていたら、大人って汚いな、となり、しばらく寝込むかもしれない。女の子のほうが精神の成熟が早いというのは、どうも本当らしい。

 と、ひょいと羊羹最後の一切れを口に放り込み、魔王が言った。


「小娘。心中は察するが。それが、お前の目指す勇者というものの真相だ。簡単に受け入れられる話ではない。だが、私はお前がこの話を聞いて、受け入れられる有資格者だと思って、小僧に話をしていいと言ったのだ」

「……有資格者?」

「小僧にはほど遠いが、お前にも天稟てんぴんがある。長じれば、達人となれるであろうよ。その時には、今のような勇者と魔王という図式、役目はなくなっているであろう……が、勇者の心というのは、勇者という役目がなくなったからといって、なくなるものではない」

「……どういうこと?」

「この小僧をよく見ろ。この小僧は、たとえ私という魔王がいなくとも、大陸に魔物がいなくとも。間違いなく、周囲から勇者と呼ばれていたはずだ。それは分かるな?」

「……うん。分かる」

「うむ。勇者というのは、この小僧のようなものよ。つまり、小娘、勇者となりたいなら、それを忘れるな。魔王という分かりやすい敵がいて、それを倒すための役としての勇者がいる――そうではない。本来、勇者とは……誰でもなれるものではないが、誰でもなれる。そういう……もののはずなのだ」


 なんだか、深いことを言っている。

 僕にはピンと来るようで、ピンと来ない、そんな感じの話だが。

 それよりも気になることを突っ込んだ。


「あのー。魔王さん。僕の分の栗羊羹は? ちゃんと説明したんですが」

「ん? ああ……もう食ってしまった。諦めろ」

「もー、ホント、どこまでも魔王なんですから」


 うんざりとかぶりを振る。それから、押し黙っている兵士長の娘に、言った。


「まぁ、こんな感じの、良心のカケラも持ってない魔王さんだけど。悪い人じゃないんだ。僕は、そう思ってるよ。今はとにかく、魔王さんと一緒に、北に眠る本当の邪悪を倒す。そのことだけを考えてる。あと、もちろん、この街の事件の解決ね」


 と、話していると――

 急に、店内が暗くなった。いきなり、夜になったような具合だ。


 そしてすぐ、明るくなる。

 はっとした顔で、魔王が言った。


「まさか……。来たか!」

「この感じ、めっちゃ禍々しいねぇ。前とは全然違うねぇ」


 僕は、席を立ち上がっていた。


 店内が暗くなったのは、陽が遮られたせいだ。

 そして、そういう話を、僕たちは耳にしている。聖女は、体験している。

 つまり。


 再び、巨龍が襲来したのだ。


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