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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
プロローグ(という名の最終決戦と真実)

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第6話 目覚め #2

「私と小僧の、聖と邪の力が拮抗し、爆発したのだ。正確には、私たちの力が爆発を起こしたのではなく、あの城の地下に封印していたものが、だが――それを抑えておくための私の力が弱まった。そのせいで、こんなことになってしまった」


 無念そうな口振りだった。が、当の魔王の姿は、一向に見えてこない。

 黒猫のあたりから声はするのだが。草原には、僕と黒猫以外、人っ子ひとりいない。

 きょろきょろしつつ、僕は訊ね返した。


「なにか、事情があるってことは分かりましたけど……。どこにいるんですか? とにかく、姿を見せてくださいよ。僕も攻撃したりしませんから、詳しい話を――」

「どこを見ておる、馬鹿たれ。姿なら、とうに現しておるだろうが」

「えっ?」


 僕は足元を見て、ぽかんとした。

 そこにやってきた黒猫は、どう見ても不機嫌そうな意思でもって、僕を見上げている。

 それどころか、口を動かして、魔王の声で喋ったように聞こえた。


「まさか……。この黒猫が? この可愛いのが、魔王さん?」


 問うと、黒猫は信じられないことに、口を動かして喋った。


「可愛いは余計だが。あの爆発で、我が肉体は甚大なダメージを負った。邪気でその損傷を回復するまで、私は私の使い魔の身体を借りている」

「そ、そうだったんですか」


 僕は答えつつ、しゃがみ込んだ。なんとなく、黒猫の前肢の下に両手を差し入れて、持ち上げてみる。


 持ち上げてみると、胴がみよーんと長くなる。そして手触りのいい毛、ぷにぷにと柔らかい肉感は、間違いなく猫だ。


 とても、あの強そうで貫禄に満ちた魔王がこの中に入っているとは思えない。

 どう見ても、ただの猫である。


 顔は、可愛らしい感じがするが、眼差しは鋭いようにも見える。やっぱり、魔王が本当に中に入ってるような気もしてきた。


 めつすがめつ観察していると、黒猫(魔王)は訊いてきた。


「小僧。猫が好きか」

「え? はい。猫好きです。犬も好きですけど。猫は、子供の頃に飼ってもいましたよ。その……寿命が来ちゃったみたいで、どこかにいなくなってしまいましたけど」

「ふうん」


 興味なさそうに、黒猫は相槌を打つ。


「でも、可愛いなぁ。魔王さん、最初っからこの姿だったら、誰も魔王さんを殺そうとか、そういうことを考えなかったかもしれませんよね」

「馬鹿たれが。どこの世界に猫の姿の魔王がいるか」


 言いながら、黒猫は右の前肢で、僕の鼻っ面に猫パンチをしてきた。爪も立てず、肉球でぺしぺし叩いてくるため、むしろ心地良い。


「あー。すっごく可愛いかも。もうずっとこの姿でいたほうが……ぶげっ!?」


 いきなり、猫パンチが岩のような固さになった。なす術なく後方へ転がって、手から黒猫を放す。

 僕は顔を確かめた。鼻血が出ていた。地面の上の黒猫が面白そうに言ってくる。


「あんまりめるなよ。魔王としての力はえ置きだからな。信じたか?」

「は、はい……。痛いほどに」

「よろしい」


 満足そうに、黒猫は頷いた。

 それから、また足元までやってくる。僕は地面に腰を下ろして、話をする姿勢を作った。

 黒猫もおすわりをすると、話し始めた。尻尾をぱたぱた動かしながら。


「とりあえず、ここは大陸の最南端だ。大陸の極北にある魔王城から、爆発は我々を対角線でぶっ飛ばした」

「そ、そんなに大きな爆発だったんですか?」

「ああ。私の肉体が保たなかったという時点で、察しろと言いたいが。小僧は爆発した瞬間に失神しておったろうが。情けない勇者だな」

「す、すみません」

「まあいい。過ぎたことだ。問題は、これからどうするかだが。小僧、路銀は?」


 言われて、僕は身体を見回した。

 剣はなくなった。荷物袋も、お金を入れていた革袋もない。胸当て、篭手、臑当てはボロボロのぐちゃぐちゃになっている。そしてその下のインナーもほこりやらすすやらにまみれ、かなりみすぼらしい。


「あの。なんにもないみたいです」

「うむ、見れば分かるが……。それでも、旅をして大陸中に顔は売っているだろうから、それに頼るか。我々はひとまず、中央部の王城へと戻る」

「はい」


 なぜなのか、などは訊かず、とにかく魔王の考えを聞こうと思った。

 それは正解だったらしく、魔王はすらすらと、話を続ける。


「王に謁見し、事態を説明せねばならぬ。小僧、お前にはなにも分からぬだろうから、それについては私がやる」

「はい。でも……魔王さんが王城にって、まずくないですか?」

「まずいが、まずくはない。心配せずとも、もう私が人間を害する理由はなくなった。騙し討ちで王族を皆殺しにしたりもせぬ」

「そうですか。じゃあ、分かりました」

「……疑わぬのか?」


 黒猫は、怪訝そうにこちらを見上げている。それに頷いた。


「はい。魔王さんは、そんなことしないだろうと思いますから」

「お前な、言っていることが矛盾していると思わぬのか。私は魔王なんだぞ」


 呆れたように言ってから、黒猫は話を戻した。


「ともかく。あとひとつ気になることがあるが、その確認は後でもよかろう。我々が戦っていたあの時より、すでに三日が経っている」

「え、そ、そんなにですか?」

「うむ。小僧、お前は暢気にこの草原で三日も寝こけていたわけだ」

「す、すみません……」

「いちいち謝るな。その分、お前にはこれから地獄のような――」


 と、黒猫は言葉を切った。にやりと笑った気配がある。


「話の途中だが、おあつらえ向きだな。説明する必要がなくなった。ほれ、勇者よ。魔物が現れたぞ」

「えっ?」


 黒猫がちょいちょいと前肢で示したほうを見る。

 ちっとも気がつかなかったが、よくある軟体、不定形の魔物が一匹。透明な青いゼリーのような身体を尺取虫のように動かして、こちらへ近づいてきている。


 僕は立ち上がった。

 面白そうに、魔王が言う。


「リハビリついでに、アレを倒してみせろ、小僧。私が見ておいてやる」

「わ、分かりました」


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