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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第59話 勇者のたまご #1

 稽古を終えたのは、午後四時頃。日没までにはまだ時間があり、外は明るい。

 僕は魔王、聖女、そして兵士長の娘の四人で、街の甘味屋に入ることになった。


 なぜか? それは、稽古のあとは甘いものがいいだろうという女性三人に押し切られたからだ。僕自身は、二十四時間以上なにも食べていないのだから、それこそカレーライスやらハンバーグやら、オムライスが食べたかったのだが。僕の意見は一顧だにされることすらなく、秒で却下された。


 昨日とは違う店で、僕の目の前に置いてあるのは、大盛のフルーツ寒天かんてんだ。なんでよりによって、いくら食べても熱量にならなそうなものなのかというと、これを食ってみたいからお前が頼めと魔王に勝手に注文されたからだった。


 結局二口ほど食べただけで呆然としていた僕に、兵士長の娘が声をかけてくる。


「おにい――勇者、わ、私の食べる?」


 差し出してきたのは、彼女が注文したみたらし団子だ。


 ちなみに魔王が食べているのは栗羊羹くりようかんと濃い緑茶。聖女は白玉のごろごろ入ったお汁粉しるこだった。なぜよりによって、僕だけこうもカロリーオフなのか……。


 救いの神の手を取るような気持ちで、僕は遠慮なく、一本のみたらし団子をもらった。


 僕は一息に、それを口に押し込んだ。

 甘辛いタレと、ねばねば、もっちりもちもちした団子、そして焦げ目の香ばしさが、たまらなくおいしい。


「うっ……。あ、ありがとう……。うぐっ……」

「なっ、泣くことないじゃん……。勇者、なに、いじめられてるの? この猫と俗悪シスターに」


 慌てて食べたために団子が喉に詰まりかけて、言葉も詰まったのだが。兵士長の娘には、僕がむせび泣いているように見えたらしい。本当は違う。いや、内心では、本当に泣きそうではあったものの、まだ堪えている。

 団子を飲み込んで、僕は言った。


「西の都ではまだ、わりと普通だった気がするんだけど……。なんか、お姉さんが出てきてから、パワーバランスが狂った気はしてる」

「あれぇ。私のせい?」


 ずぞぞ、と下品な音を立ててお汁粉をすすっている聖女は、まるで自覚がない。

 魔王も、羊羹を食べながら言ってくる。


「食いたいものがあれば、己の力で確保すればいいだけだ。それか小僧。負け犬にちなんで、三遍回ってワンと言えば羊羹を一切れ食わせてやるぞ」


 なんという魔王ぶりだ。しかし、羊羹は食べたい。

 本当に三遍回ろうか、羊羹を見ながら真剣に検討していると、兵士長の娘が言った。


「ところで、勇者。この猫って、なんなの? 喋るし」

「んー、こいつね、その少年が戦った魔王本人よ」


 まだおいしそうにお汁粉をすすっていた聖女が、僕の代わりにあっさりと告げる。

 兵士長の娘は、きょとんとした。


「は……? ど、どういうこと?」

「え、ええと……。まあ、そのままの意味」

「え? この黒猫が……その、千年間、大陸を支配しようと目論んでいた魔王なの? 魔王って、猫だったの?」

「この身体は、元の肉体が損傷したため、仕方なく使い魔のものを借りておるだけだ。小僧、説明してやれ。説明すれば、羊羹を一切れやろう。次期勇者を目指すのなら、聞く権利はあるだろう。当代でもはや勇者は必要なくなるであろうが」


 そういうことなら、と、僕は兵士長の娘に説明をした。


 まずは、魔王討伐に向かう勇者、という図式が、魔王と王族によって巧妙に仕組まれた茶番であったということ。それによって、仮初かりそめの平和を大陸は守ってきた、ということ。

 そして、魔王が勇者を待ち受けていたのは、真に強い勇者を選び、その手によって、北の地に封印された邪悪を葬るためだった、ということ、など――


 すべてを説明した。もちろん、他のお客さんには聞こえないように。

 聞き届けた兵士長の娘は、信じられない、という顔だった。


「そんな……。そんな。じゃあ、今までの歴史って……魔王討伐っていうのは……全部、嘘だったの?」

「まあ……そういうことになるね。決して、今までの勇者たちの存在がウソだとか、無駄だってことにはならないけど。本当の目的は、千年間北の地にいた魔王を殺すということじゃ、なかったってことなんだ。勇者の目的は――」


 僕は目を閉じて、思い出そうとした。

 魔王と剣を交えた、あの瞬間に起きた、禍々しい大爆発を。


「目的は、あの地に眠る本当に邪悪なものを消し去ることなんだ。それを成し遂げないと、この大陸に本当の平和は訪れない。だからそのために、僕と魔王さんは、一緒に力を合わせることにしたんだよ」

「そう……なんだ」


 呆然と、兵士長の娘は頷いた。

 しばし、その顔のままで固まる。

 やがて、ぽつりと、言葉を漏らした。


「でも……。私、本当は、変なんじゃないかって思ってた」

「え?」

「ううん、それが本当に変だって思ったのは、ついさっきかもしれないけど。だって……お兄ちゃん、本当に誰よりも強いし、絶対に、最強の勇者なのに。私、絶対に魔王なんかに負けないって分かってたのに――それなのに、魔王に負けちゃったって、聞いて……信じられなかった」


 うわごとのように、彼女は続けた。


「もし、お兄ちゃんが勝てないくらい、そんなにも魔王が強いなら、なんで、今まで……ずっとこの大陸って、魔王に滅ぼされてないのかなって。そんなの、最初っから滅ぼす気がないとか、それくらいしかないでしょ? 変だなって……」


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