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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第58話 東の都の軍隊

「え?」

「前は、もっと圧倒的な強さだった。今もそう見えるけど……ううん、でもなんだか、こっちの攻撃を技で潰そうとするばかりで。前みたいに、こっちがなにしても無駄、みたいな、そういう感じがなくなったっていうか……」


 僕は、なにも取り繕えず、小さく曖昧に頷くことしかできなかった。


 この子は勘が鋭い。女性というのは、大体がそういう生き物だという気がするが。

 だから、僕の弱体化を気取られないよう、精一杯の技を使ってやっつけるというつもりだったのだが、かえってそれが裏目になってしまったようだ。


 以前の僕なら、好きなだけ相手に全力を出させた上で、真正面からそれを叩き伏せることができた。

 でも今は、そこまでの自信がない。それを、見抜かれてしまったか。


 兵士長を見ると、彼も頷いた。


「魔王との戦いで……なにかあったのですな」


 こうなると、もう隠し立てはできない。ざわざわと、兵士の間にもざわめきが広がる。

 魔王と聖女は、あーあ、という顔をしている。他人事か。

 仕方なく、僕は白状することにした。


「お恥ずかしいことに、僕は魔王に負けてしまいました。生き延びることはできました。でも、大きな怪我を負って。その際に、力を無くしてしまったんです」


 白状するといっても、完全に明かすことはできない。できる限りは伏せて言う。


「どういうこと? 力を無くしたって……」


 兵士長の娘が、不安げに訊いてくる。


「そのまんまだよ。僕が培ってきた、勇者としての経験……そういうものが、一気に全部、なくなってしまったんだ。戦闘の勘がなくなり、意識が戻ったばかりのときは、もっとひどかった。剣気を操れなくなって、南の不定形の魔物には殺されかかって、剣の持ち方はあべこべになってた。そんな具合だったんだ」

「そんな……」

「でも、結構戻してきてるつもりだよ。剣気は少しは出せるようになってきたし、こんな状態でも、なんとか火炎蜥蜴を倒すこともできたし。僕は今、魔王さんと結界を張る旅をしているけど、それは僕の力を取り戻すための旅でもあるんだ」


 兵士長の娘に言ってから、僕は道場全体を見回した。

 今度は、兵士たちみんなに言う。


「心細い、頼りない勇者で、すみません。ですが、必ず、二度目の戦いでは勝つつもりです。どうか、無用な混乱は避けるため、僕の力のことに関しては、誰にも明かさないでくれませんか。みんなを、不安にはしたくないんです」


 息を継いで、さらに続ける。


「僕は、必ず、力を取り戻してみせます。この大陸を、平和にしてみせます。今日は、みなさんの稽古にお付き合いさせていただきましたが、僕自身、胸を借りるつもりだったんです。無用な挑発などに関しても、ごめんなさい。でも、本気の兵士さんたちと、とてもいい稽古ができました。ありがとうございました」


 頭を下げた。


 すると、最初に叩きのめした兵士が、拍手を始める。

 それに呼応するように、拍手は道場全体に広がった。

 拍手が収まるのを待ってから、兵士長が言った。


「いいか、お前たち。これが、勇者というものだ。普通の人間であれば、積み上げてきた力を失ったとき、正気ではいられぬだろう。ましてや、大陸の命運を背負って立つ勇者どのなのだ。どれほど、それが恐ろしく、辛いことであったか……」


 搾り出すような、兵士長の声だった。


「しかし、こうしてお前らが束になっても敵わぬほどには、力を戻している、ということでもある。お前らの中にいるか? 普段のように戦えなくなっても、火炎蜥蜴と戦えるものが! そして、倒してのけることができるか!」


 次第に、声に熱が宿っていく。


「いいか、我々、東の都の軍はなんのためにある! 勇者どのの後顧こうこうれいを断つためにあるのだ! 確かに今、この都を信じられぬ怪物が襲っている。が、勇者どのはこうしてここに立っているぞ! お前らはどうだ。尻尾を巻いて逃げるか。違うだろう。今こそ、兵士として、都を魔物の手から守る軍隊として、一層の働きを見せるときではないか!」


 応! と兵士たちが一斉に声を揃えて答える。

 よく分からないが、僕の弱体化は、兵士たちの気持ちを入れるのに、役に立ったようだ。

 兵士長の娘は、呆れながら苦笑している。


「まったく、熱血単細胞ばっかり」

「君が言うんだ」

「なんか言った?」

「いや、なにも」


 ごまかすと、兵士長の娘は笑った。まだ、十三歳かそこらの、あどけない笑顔だ。

 その顔で、言ってくる。


「でも、力を戻さないといけないなら、今のじゃ足らないでしょ。私だってまだまだ、納得してないんだから。もうちょっと付き合いなさいよ」

「うん、分かった。せっかくだから、もうちょっとやろうか」


 そうして、僕たちは、もう少しばかり、稽古をして汗を流すことにした。


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