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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第55話 東の都の兵士長 #2

「兵士長さん。僕たちは明日、北の山に行って、巨龍と意思疎通をするために必要だっていう、笛を探してきます。それがあれば、どうして守り神である龍が都を襲ったのか、分かるかもしれませんから」

「なるほど。さすがは勇者どの。最強の勇者としてありながら、その剣をむやみに振るうことはせず、あくまでも対話をしてみせようと。感服でございます」

「問答無用な魔物が相手なら、戦うしかないですけど。今回の事件、複雑な事情がありそうに思うんです。ただでさえ、北の地の爆発がありましたし」

「聞いております。北の魔王城で、大規模な爆発があったと、最接近防衛圏からの報告もありました。……勇者どの。勇者どのほどの力をもってしても、魔王の討伐は、叶わなかったのですな……」


 残念そうに、兵士長は言ってくる。

 それに僕は、頭を下げるしかなかった。


「はい……。申し訳ないです。みなさんの期待に、僕は応えられませんでした。魔王さ――魔王はとても強くて。ですが、今度こそ、成算がありますから。心強い仲間ができましたから、今度はふたりで、絶対に勝ってみせます」


 僕は足元で退屈そうに話を聞いていた魔王を示した。

 兵士長もそれを見て、頷いた。


「聞いております。なんでも、人語を操る、卓越した魔法使いでもある黒猫を仲間にしたと。その様子から、魔王猫と呼ばれておるとか。魔王猫どの、ひょっとして貴殿は……」

「人語を話す猫の隠れ里出身ではないぞ。断じて」

「そ、そうでありましたか。これは失礼を」


 面倒そうに先回りしてみせる魔王は、なんだか面白かったが。

 兵士長は気を取り直して、道場を示した。


「勇者どのが北の山に行っている間、安心して探索していられるよう、我々は力を振り絞り、この都を死守してみせますとも。ですが、怖じ気づいている連中もおります。無理もないことではありますが、どうですか、勇者どの。一丁、こいつらに気合いを注入してやってくださいませんか。お時間は? 大丈夫ですか? 旅の疲れは?」

「お気になさらず。そうですね、僕もちょっと、昨晩からのストレス発散に、稽古なんかしたいなぁって思っていたところなんですよ。木剣を振り回したい気分というか」


 僕の言葉に、魔王はそっぽを向き、聖女は頭の後ろで手を組んで口笛なんかを吹き始めていたが。


「なにがあったんです?」

「ええと。ダメな大人に、この世の理不尽をこれでもかと味わわされたというか」

「ふうむ。苦労なさっているんですなぁ、勇者どのも」


 うんうんと頷いて、兵士長は兵士たちに向き直る。


「お前ら! 勇者どのが稽古をつけてくださるぞ! このお方は、知っているだろうが、この若さで大陸最強の剣士である! 生涯無敗、天下無双、剣聖、武の化身とはこの勇者どののことである! 我こそは土をつけてやるというもの、前に出よ!」


 勇ましい兵士長の声に、何人かが進み出てくる。

 どれも、とんでもないほど強そうな……平均して身長は百九十センチ、体重は百キロを優に超えているだろう偉丈夫たちが、ずらりと並ぶ。


 身長は百七十そこそこで、体格も並程度な僕とでは、明らかすぎる差だ。

 並ぶ兵士たちを見て、魔王が言った。


「ふーん。見た目こそは勇壮だが。見た目だけだな。兵士長よ、ここは兵士を育成する場ではなかったのか? 畑に立たせる案山子かかしを育てているわけではあるまいな?」


 それを聞いた稽古志願者たちは、分かりやすくムッとした空気を漂わせた。

 この魔王は……わざと挑発している。

 それから、小声で僕に言ってきた。


「これくらい煽れば、多少は経験になるであろう。せいぜい相手をしてやれ」


 それは兵士長にも聞こえていたのか、ふっと笑い、志願者に言う。


「言われているぞお前ら! お前らは案山子か、とな! 立っているだけなら案山子でもできるぞ! この都を守る役目を全うする兵士としての矜恃あらば、勇者どのにそれを示してみせよ!」


 また数度ほど、志願者たちの共有する空気の温度が上がる。

 さすが兵士長なだけあり、兵士たちの闘志を煽るのはお手の物のようだ。あんまり煽りすぎないで欲しかったが、相手の僕が取りなすわけにもいかない。


 自分がどこまで、ここの兵士たちとやり合えるのかも知っておきたい。

 あとは、適度なストレス発散もしたい。(わりと本音だった)

 僕は兵士長から木剣を受け取ると、志願者に言った。


「全員でかかってきても、構いませんよ。ちなみに、僕が子供の頃、初めてここに出稽古に来たときは――誰ひとりとして、僕には触れられませんでした。もちろん、剣気の使用もなしで、です」


 ちょっと、嫌みったらしい言い方になってしまった。

 が、特に誰も気にしていないようで、志願者以外が、ごくりと唾を呑んだ気配だけする。


 その時に手合わせしたひとりでもある兵士長は、バツが悪そうに苦笑しつつ頬を掻いていたが。

 すぐに一番体格のいい兵士が、進み出てくる。


「まず自分、お願いします。ひとりずつで」

「分かりました」


 受けて、道場の中央へと進み出る。足の裏に感じられる板張りの感触が、なんだか懐かしい。そこら中に染みついた汗の匂いや、手の中の木剣特有の重みも。

 弱体化した僕にとって、この時間は、とても良い時間なのかもしれない。初心忘るるべからず、とも言うんだし、改めて、胸を借りる気持ちで挑んでみよう。


 そう決心して、剣を構える。

 稽古は、よくある試合形式で、有効打を取り合う、というものだ。

 審判として立つ兵士長が、すっと手を挙げた。


「始めい!」


 号令と共に、手が振り下ろされ――

 そこから五分以内に、僕はきちんと、誰にも触れさせずに全員を叩きのめしたのだった。


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