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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第52話 聖女さん #2

 そこまで振り返って、僕はもうひとり、面白い子がいたことを思い出した。

 僕の顔を見て、聖女は言った。


「そういや、兵士長さんには会った?」

「いえ、まだです」

「だろうねぇ。忙しいからね。巨龍がやってきたときは鼻息荒く陣頭に立って、大怪我したしねぇ」

「そうだったんですか」

「そうそう。まあ、私が魔法で治して、今はピンピンしてるけどねぇ。で、兵士長の娘も、相変わらずよ。少年、君に会いたいんじゃないかなぁ。調べものの後にでも、兵士の練成道場に顔出してあげなよ」

「そうですね。兵士長さんにも、兵士のみなさんにも会いたいですし。そうします」

「うんうん。じゃあ、私は風呂入るよ。一緒に入るかい、少年」

「お断りします」

「ちっ。じゃあ、背中流してよ」

「今の時代、そういうのはうるさいですよ。あと、窓から吸い殻捨てちゃダメですよ。あとで拾ってきてくださいね」

「おー、優等生。おかしいなぁ。少年時代の邂逅かいこうによって、大きくなったら私サイドに流れてくるはずだったのになぁ」

「むしろお姉さんを見て、真面目に頑張ろうってなりました」

「はっはっ! そうかい。こりゃ、一本取られたねぇ」


 豪快に笑うと、聖女は窓の外を覗いて、指をくい、と動かした。

 すると、さっき捨てた吸い殻が、聖女の手に戻ってくる。魔法の力だ。


 教会や寺院に勤める修道士、神官の人は、基本的に魔法を扱える。それも、邪気を祓ったり、人を癒したりする力に特化している。

 このお姉さん――聖女も然りで、僕がケガをしていると、魔法で治してくれたものだった。(もちろん、武芸の稽古で負った傷ではない。木登りして落ちたり、転んで擦りむいたりしたときのことだ)


 そして懐から小さな革製の袋――携帯灰皿だろう――を取り出して、もう短くなった二本目の煙草と一緒に、押し込んだ。


「うるさい世の中ってのは同意さ。喫煙者も肩身が狭い。でも、少年……そういうのを破っていくことで、極上の快楽が得られると思わないかい?」


 色っぽい声で言ってくる。それどころか僕の目の前にまで歩いてきて、頬に手を添えてまでしてきた。

 僕は聖女の顔を見上げて、答えた。


「ダメです。ちゃんと公序良俗は守りましょう」

「くそー、手強いな! 少年」


 地団駄踏んでから、聖女は浴室の扉へ向かった。


「まーいいや。ガード堅いほうが落としがいがあるってもんよねぇ」


 そんなことまでひとりごちていたが。

 扉を開けて浴室に消えた彼女を見送って苦笑していると、声がした。


「まったく。馬鹿だな。快楽原則だけで動く単細胞生物め」

「魔王さん。起きてたんですか」

「あれだけ騒いでおれば起きるわ」

「二日酔いは大丈夫ですか?」

「まあな。あれと比べて、まだ私は若いからな」

「うーん……。普通の人間からしたら、千歳から先なんて誤差って感じですけど」

「なにか言ったか」

「いえ、なにも」


 くあ、と大きなあくびをひとつしてから、魔王は身体を起こして僕の膝の上に飛び乗ってきた。


「さて、今日は調べものか。もう昼だな」

「ええ。酔っ払いのせいで」

「ふん、私は悪くないぞ。飲み屋に誘ったのはあの女だ。私は付き合いで、慣れない酒を呑んだだけだ」


 甚だしいほどに事実が歪曲されている。

 が、反論したところで無意味なのも分かっている。僕は嘆息をひとつして、言った。


「どて煮、おいしかったですか」

「ん? うむ。味噌が甘辛く、実に焼酎と合ったな。おでんの味の染み込み具合も絶品であったぞ。よい店であった」

「そうですか」

「小僧は食ってないのか?」

「ええ。僕が頼んだもの、全部ふたりで勝手に取って食べちゃうんですから。あれだけの時間、僕はお茶だけ飲んでずっと座っていましたよ」

「……ちょっと怒ってるな?」

「いいえ? 全然。怒るわけないじゃないですか。ひもじい思いをしつつ、お茶だけで十時間近く放置されて、あげくに宿の手配から酔っ払いの輸送までこなしたくらいで、なんで僕が怒らないといけないんです? そうそう、椅子で寝る羽目にもなりましたけど」

「……今日は小僧の好きなものを食うか。なんでも言えよ。なにが食いたい? カレーライスか? ハンバーグか? オムライスなんかどうだ?」

「なんか逆に煽られてるとしか思えないんですが……」


 さすがに多少はこちらを気遣っているのも事実のようなので、ひとまず、それで許すことにする。


 と、がちゃりと浴室のドアが開いた。

 下着姿の聖女が、気持ちよさそうに頭を拭きつつ出てきた。


「ふぁー、やっぱ二日酔いには熱い風呂だわ。おい、少年、ビールない? キンキンに冷えたヤツね」

「ないです」

「そりゃあね。しゃーない、水でいいか」


 と、自分で水差しから水を注いで、腰に手を当てて飲み始める。

 僕の膝の上から、魔王が怒鳴った。


「おい、馬鹿! ふしだらな格好でうろうろするな! 教育に悪いだろうが!」

「現役の魔王が風紀委員みたいなこと言ってんじゃないよ。性教育だって立派な教育だろう? ほれ、少年、私の輝くボディを見てどう思う?」


 恥じらいなどどこにもなく、聖女は腰に手を当てて身体を誇示してくる。

 聖女の身体は、輝くボディを自称するだけあって、すごい身体をしている――と思う。

 身体は細く引き締まっているのに、いわゆる出るところは出ている。

 僕は勇者なので、あんまり、そういう下品なことは考えないようにしているが、どうしても、その『出ているところ』に目は行ってしまう。


 と、両目がぷにぷにしたものでいきなり塞がれた。魔王の手だ。肉球だ。


「見るな! 目が潰れるぞ! 馬鹿は早く服を着ろ!」


 そう魔王に言われて、聖女がケラケラと笑っているのが聞こえる。

 僕は暗闇の中で、この街の滞在中は少しも退屈しなそうだな、と思っていた。


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