第48話 聖女のお姉さん #2
「……ええっ!?」
僕は驚いて、聖女を見る。
聖女は否定せず、ケラケラと笑っていた。
「そんなことをやってたのは、大昔……もっともっとずっと前の話よ。で、いろいろあって。千年前には、この子に魔王としてのイロハを教えてやった――そんなこともあったねぇ。まぁ、そのときはまさかまさか、本当に千年も魔王を続けるなんて思わなかった――ってことはないけど。おかげでこっちも千年シスターごっこだよ」
勇者と魔王の時代というのは、今の魔王が君臨する、千年より前からお約束のようにして大陸に存在していた。
それ自体は、魔水晶鉱山で魔王に教えてもらった。だが――
それどころか、千年以上前の魔王が、今も生きて大陸に存在していた。それも、子供の頃からの知り合いの聖女が、まさか『それ』だったなんて。
僕は唖然としつつ、言った。
「すごい……。生きる文化遺産ですね」
「少年、そのたとえはどうなんだ」
複雑な顔で聖女は煙草を燻らせている。
僕は、魔王に視線を移した。
「じゃあ、聖女さんは、盟約とか、全部知ってるわけですか?」
「うむ。知っている。な?」
「まあねぇ。現在の少年たちの事情も、大体想像ついてるよ。いろいろ、情報は入ってくるからねぇ。でも、ちょっと詰めておかないといけないところもあるかな」
言って、聖女は顔を近づけ、僕の瞳をまじまじと覗き込んできた。
それから、言う。
「少年、めっちゃ弱くなってるよねぇ。なんで?」
「え? それはですね……言っていいんですよね?」
「構わん。どうせそいつなら、すぐに当たりをつけてしまうだろうが」
という魔王の言葉をもらえたので、僕は聖女に、旅の経緯を説明した。
全部聞いて、聖女はふーん、と特に驚くでもなく頷いていた。
「なるほどねぇ。想像通りだ。でも、力が無くなった状態でこの街に来てくれたのは、かえって良かったかもねぇ。いや、ダメか」
「どういうことです?」
「それはねぇ。巨龍を倒しに来たんだろうけど。あの巨龍は、殺しちゃいけないのさ」
「え……?」
「それが、複雑な事情があってねぇ……説明すると」
と、言いかけたところで、店員がキングパフェと、特大バナナパフェを持ってきた。
魔王と、聖女の目の色が変わる。
長いスプーンを取ると、聖女は煙草をもみ消した。顔も、すっかりパフェに向いた。
「少年、話は後だ。とりあえずこいつを食わせてくれ」
「はあ」
答えると、魔王が尻尾で持ったスプーンを聖女のパフェに伸ばしている。
「おい、それ、キングパフェだろ。一口食わせろ」
「いいよ。あんたのも一口食わせなさい」
「うむ。勝手に食え」
「人のものって旨そうに見えるんだよねぇ」
「私は自分のものが一番だがな」
と、お互いにまるでパンチの打ち合いでもするように、自分のパフェ、相手のパフェ、自分のパフェ、相手のパフェ、とすごい早さで魔王と聖女は食べ始めた。
なぜか、周囲の席から拍手や歓声、どよめきが漏れる。
僕は、なにかを思い出しかけていた。
そうだ。小さい頃――南の都の新年のお祭りに、父と母に連れていってもらったときに見た、餅つきというやつだ。
巨大パフェが、みるみるうちになくなっていく。
僕は、それをぼんやり眺めながら、魔王という職業は、甘いものを大食いできないとなれないんだろうか、と考え始めていた。




