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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第47話 聖女のお姉さん #1

 シスターと呼ばれた人――その人に、僕は見覚えがある。いや、あるどころではない。


 百八十センチほどの長身。白く見えるがうっすらと紫色に輝いている、腰までの長髪。

 すらりと長い手足。透き通るような白い肌に、ルビーのように紅い瞳。長い睫毛まつげ。目元にほくろがふたつ。

 年齢は不詳。見た目は二十代の後半から、三十代の前半頃に見えるが――皺もしみもないその容貌からは、なにも分からない。すごく若く見えるし、豊富すぎる人生経験のようなものも垣間見える。そんな不思議な空気を身に纏っている。


 どれも、記憶の中にあるその姿、そのものだ。なにも変化していない。

 四人掛けの空いた席にひとりで座り、気だるそうにその人は店員と話を始める。


「もうねぇー。いやんなっちゃうわよねぇー。みんな私に頼りっきりで。怪我人の治療でしょう、次に龍が来たときの対策でしょう。そんなの、一介の修道女である私になんて、限界だってあるのにねぇ。もー、いやんなっちゃうわぁ」

「ですが、勇者さまがいらっしゃるまでは、シスターさまが頼みですよ。さすがの軍隊も、あんなに大きな龍が相手では、大変でしょうし」

「ねー。なんで今さら、あんなのが飛んできちゃうのかしらね。はー、余計な仕事増やさないでほしいわ、ホント。私はこうして、日々怠惰に過ごしたいっていうのにねぇ」

「うふふ。そう言いながら、シスターさまはいつも街を助けてくださるじゃないですか。あ、ごめんなさい、すぐ、パフェをお持ちしますね」

「あー、そんなに急がなくて大丈夫よ。くつろいでるから」


 言いながら、その人は修道服の懐から煙草たばことマッチを取り出した。

 ぽいとそれをテーブルの上に放る。それから煙草を一本取って、慣れた手つきでマッチを擦って火をつけ、おいしそうに吸い始める。


 頬杖をついて、はぁぁぁぁ、と煙を吐いて――

 それからすごく渋い顔になって、やってらんねえなぁ、いっそ街滅びねえかなぁ、と呟いていた。


 その所作のどれもが、なんだか懐かしささえ感じられる。聖女時と、それをオフにしたときの口調や態度の落差の次元が違いすぎるのだ。


「聖女さん」


 声をかけた。

 すると、眉を上げて、その人――聖女は僕のほうを向いた。

 疲れて荒みきっていた顔が、間を置いてぱあっと明るくなる。くわえていた煙草を指に挟むと、言ってくる。


「おっ――少年! 少年じゃないか。もう着いてたのか。久しぶりだなぁ……。デカくなりやがって、この」


 聖女は通路を挟んで、こっちに身を乗り出してきた。それだけでは足らず、僕と魔王の座席に移ってくる。

 僕の隣にどかっと座って、馴れ馴れしく肩を組んできた。デカくなったと言われても、それでもまだ、聖女のほうがデカい。


「少年、いつぶりだ? 煙草くらいは吸えるようになったか?」

「い、いえ、まだ、今年でやっと十八ですから……」

「ああ、そうだっけか。直近で会ったのは、もう、何年前だっけか。そもそも最初に会ったのは、親父さんに連れられてこの街に来たときだったよなぁ。懐けえなぁ」


 ふう、と煙草の煙を吐きかけてくる。

 それに僕は顔をしかめて、ぱたぱたと煙を追いやる。

 こっちを見て、聖女は笑っている。


 これはこの人が絡んできたときの定番のやり取りなので、嫌とかではなく懐かしさのほうが大きい。

 と、僕は固まっている魔王を見て、思い出した。こんなところで会うとは思っていなかったが、元々会うつもりだったのだ。紹介をしないと。


「ほら、これがさっき話していた聖女さんですよ。ああ、聖女さん、こっちは――」

「聖女さんなんて他人行儀だよなあ。昔みたいにお姉ちゃんって呼んでくれれば……ってオイ。またまた、懐かしいな。魔王じゃないか」

「貴様……やはりか。なぜこんなところにいる?」


 聖女は、懐かしそうに頷きながら、煙草をふかしている。

 魔王は、睨みつけるように、聖女を見ている。

 魔王の問いに、ふっと煙を吐いて、聖女は笑った。


「なあに、昔のよしみだよ。北にあんなものを封印して、で、大陸の秩序を守るなんてのは、ひとりじゃあ骨が折れるだろう? 誰かがオシメを締めてやらないとねぇ」

「ほざけ。減らず口は相変わらずだな」

「あんたも、身につけた魔王口調は変わらんねぇ。昔は夢見る乙女って感じだったのにねぇ。あっちのほうが年相応で、可愛かったのになぁ」


 と、言い合うふたりに、僕は迷いつつも割り込んだ。


「あ、あのう。おふたりとも、知り合いだったんですか?」


 それに、魔王は頷く。


「うむ……。非常に不本意だがな。こんなのと知り合いであるということは無念であるが、それ自体は私の落ち度ではない」

「言ってくれるじゃないか。可愛げがないねぇ」


 また煙を吐いてから、聖女は僕を見てにやりと笑った。


「こいつは、私の弟子だったのよ。少年」

「で、弟子?」


 僕が魔王を見ると、頷いてくる。

 そして、衝撃的なことを言った。


「小僧。その女、聖女などではないぞ。正反対のシロモノだ」

「正反対?」

「ああ。そいつは、私よりももっと古い、かつての魔王のひとりよ」


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