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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第46話 事件より食い気 #2

「機嫌直してくださいよ。アップルパイもお勧めみたいですよ」

「うむ。どれどれ……。ほう、この……生地の食感、バターの風味、そしてりんごの酸味。シナモンの香り……一級品だな。量だけでなく、質もよい。褒めて遣わす」

「ははあ」


 尊大な猫に捧げ物をする従者か、というような周囲の客の視線が、さっきから突き刺さってきてはいるのだが。

 ある意味では間違ってもいないと思うので、甘んじて受け入れる。


「でも、アップルパイも大きいんですよね。僕、普通のサイズを頼んだのに。食べきれるか分かんないですから、魔王さんも食べてください」

「十八になる男子が、なにを情けないことを言っておるか。まあ、食うが」


 魔王の言う通り、食べ盛りだとか言われる年頃ではあるし、男として少食でもないのだが、そんな僕でも持て余すくらいの大きさがあるのだ。

 アップルパイだけでなく、他のメニューもそんな感じらしい。基本が大盛のお店だ。

 魔王はテーブルに置いてあるメニューを、アップルパイを食べつつ横目で見ている。


「滞在中、こまめに通うかな。全制覇してやりたいな」

「気に入ったんですね。他のお店もありますけど」

「無論、他にもまだ見ぬ名店はあるだろう。探すぞ。回るぞ」

「あ、そういえば、通りがかった書店に、観光客向けのお勧めグルメガイドなんて置いてありましたけど」

「馬鹿もの。そんなものを見て回ってなにになる。自分の足で見て回り、発見してこそ喜びもひとしお、というものだ。お前はなんだ、なんでもそうやって効率化して。これだから、現代っ子は。過程を楽しむという心がないのか? そんなことだから、自分がないとか言われるんだぞ」

「えっ、僕、今、魔王さんに人の心について説教されてます?」


 ちょっとショックだった。

 だが、まだまだ、世の中には僕の知らないこと、分からないことばかりだということなのだろう。前向きに受け止めておくことにした。


「たまには、甘いもの以外もお願いしますよ」

「うむ。甘いものの後は塩ものが旨い。酒も旨い。塩ものを食うと、甘いものが旨い。これぞ食の崇高たる欣幸きんこうの螺旋よ」

「よく分かりませんけど、食べるの大好きなんですね」


 意外な一面、ということでもなく、西の都の時からそうだったが。

 それもまた千年の反動なんだなと思って、僕は頷いておいた。


「でも、バナナパフェを食べたら、調べものですよ。甘いものを食べたら頭の回転も良くなるでしょうし」

「ん? 普通は眠くなるが」

「帰って寝る気じゃないでしょうね。今日、なんにもしてないんですよ。なーんにもです。ちょっとは仕事しますよ。まだ、宿も取ってないんですから」

「むう。だが、最後に、看板メニューであり大ボスだという、この……『キングパフェ』というやつが気になるのだが。あとは、ティラミスにモンブラン、パンナコッタ、フルーツのシャーベット……」

「また後日にしましょうよ。お腹壊しますよ。巨龍の問題を解決したら、好きなもの食べていいですから」

「ふん……。まぁ、確かに。一度に仕留めてしまうのも勿体ないか。じわじわと嬲るように楽しむのもまた一興」

「そうですそうです」

「でもな、小僧。キングパフェとかいうの、気にならぬか」

「僕はなりませんけど、どうしても食べたいんですね」


 どうしようかと悩んでいると、空いていた隣の席に、音もなく人が座った。

 僕は特に見もせず、気配だけを感じていた。

 注文を取りに来た店員に、隣の席の人が言ったのが聞こえた。


「はぁー……だりい。あ、いつものもらえますか?」

「はい、シスターさま。キングパフェですね」


 思わず、僕と魔王はそっちを見る。


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